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魔物ボヨムル
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「なんだって!?」
ボクは不覚にも廃魔法使いから目をそらし、後方のポピッカ達に目をやった。
そうだ、敵が二体だけだなんて誰が決めた。今まで前方に出現した敵のみを撃破して来たので、後から参戦してくる敵がいるとは考えもしなかった。これは完全な思い込みによる油断である。
「スタン、前を見て!」
ボクはポピッカの言葉に我を取り戻し、再び眼前の敵に向かい合った。廃魔法使い、否、今や魔法使いと戦士のハイブリッド体となった生きる屍は、ボクのほんのわずかな隙をついて、わずか2,5メートルの距離まで猛然と迫って来ている。
奴の両手にあるマジックワンドの先端に何らかの魔法が掛かっているのは明らかだが、それが何なのかは発動されなければわからない。
「アテニュエイト!」
指輪に模した魔句呂コーラーが反応し、ボクの体を覆い隠すように半透明の四角い膜が現れる。廃魔法使いはそんなものはお構いなしに、双碗を勢いよく振り降ろした。既にこん棒と変わらない使われ方をされている二本のマジックワンドが薄膜を通り、ボクへと向かって猛スピードで接近してきた。ボクは魔盾環の防御魔法陣の形を横長の四角形にしてそれを受け止める。
二本の狂棒は対物理攻撃魔方陣に強く弾かれ、廃魔法使いはバランスを崩し2~3メートル後退して尻もちをついた。
ボクは肝を冷やす。アテニュエイトの魔法は相手が仕掛けてきた攻撃が何であれ、許容範囲内であれば威力を半分に減衰させる効果がある。その上で魔盾環による反発がこれだけ強いとなると、恐らくマジックワンドに仕掛けられていた魔法は衝撃力を大幅にアップする魔法であったに違いない。もし威力を半減させていなかったら、魔盾環でも衝撃を受け止め切れなかっただろう。
アテニュエイトの魔法はマジックエッセンスの消費が激しい。何度も使える手ではない。これはやり方を考えないと、かなりやばい事になるぞ。ボクはすぐさま脳みそをフル回転させた。
「き、来た!」
ザレドスの声に、ボクは思わず後方を見る。
パーティーの背後から襲ってきた敵は、魔物”ボヨムル”であった。長軸が50センチほどの楕円形をした球体の上方に大きな目玉が一つあり、下方には約1メートルの尻尾がついている。また頭頂部には5本の触手が不気味にうごめき、先端は常に毒が染み出す銛状となっていた。
ボヨムルが空中を浮遊して二人の間近に迫ったかと思うと、間髪入れずに銛付き触手を乱舞させる。ポピッカは咄嗟に自身とザレドスの周りに張り巡らせた魔法障壁を二重にした。
5本の狂銛が二人を串刺しにしようとするが、二重障壁はその攻撃を取りあえず防いでいる。
「ひっ!」
「大丈夫。この程度の攻撃ならば、障壁がすぐに破られる事はありませんわ」
僧侶は悲鳴を上げる細工師の不安を和らげるよう努力した。
ボヨムルの執拗な攻撃は続くものの、ここはポピッカの言うように差し当たっては心配ないだろう。ボクやゲルドーシュの決着がつくまでは十分に持ちこたえられる状況だ。新たな敵対者が毒とスピードだけに気を配れば良いような、下等な輩だった幸運に感謝である。
「なんだぁ? 新手が来たんか! それじゃぁ……」
オーガのスチールハンマーと剣を打ち合っていたゲルドーシュが、背後の異変に気付く。ボクの方が苦戦を強いられている事もわかっているだろうから、一気に勝負をかけるつもりだ。
オーガのハンマーと自らの大剣が交差した瞬間、ゲルドーシュは素早く右にステップをきる。それと同時にハンマーの柄に沿って大剣を滑らせて、その延長上にあるオーガの左上腕部を見事に切り裂いた。
怪物は苦痛に満ちた叫び声を上げる。オーガの手から巨大なハンマーがスルリと抜け落ち、落下の衝撃で床石が大きく砕け散った。ゲルドーシュはハンマーを素早く蹴り飛ばし、オーガがすぐには拾いに行けない所までそれをうっちゃる。
よし! 廃魔法使いの動きを警戒しつつも戦士の戦いを注視していたボクは、心の中でそう叫んだ。これで程なくオーガは大剣の餌食となるだろう。
戦士もそう確信したに違いない。丸腰となったオーガに必殺の一撃をくらわそうと突進する。一方、オーガは狼狽するもすぐに立ち直り、決死の覚悟でゲルドーシュの剣を封じようとしていた。
その気迫に押されたのか、ゲルドーシュの動きがほんの一瞬精細さを欠く。オーガは攻撃してくる大剣の長いツバを左手で握り、右手で戦士の左前腕を掴む。双方”がっぷりよつ”といった様相だ。
それまでの激しい動きのやり取りとは裏腹に、両者、石像のようにその場に固まる体制となった。本来、腕力ではオーガが勝っているが、切り裂かれた両碗の傷とその後の戦士有利の打ち合いのため、彼らの自力はいま拮抗している。
「ちくしょう!離しやがれ。悪あがきするなってんだよ!」
勝利を確信していた戦士の胸の中に、見る見るうちに焦りが広がっていくのがわかる。
戦いの行方が見通せなくなったと思われたその時、ボクたちは有り得ない光景を目にする事となった。
「ゴワッー、ギギィッ―!」
突然、オーガが奇声を発したのである。相手を威嚇するわけでもなく、苦しみを表しているわけでもない。明らかに、何かを伝えようとしている声だ。
オーガは同族以外と連携はしないが、ここにオーガは奴しかいない。一体、誰に何を伝えようとしているのか? まだ近くに奴の仲間が潜んでいて、そいつに助けを求めているのだろうか?
ボクは不覚にも廃魔法使いから目をそらし、後方のポピッカ達に目をやった。
そうだ、敵が二体だけだなんて誰が決めた。今まで前方に出現した敵のみを撃破して来たので、後から参戦してくる敵がいるとは考えもしなかった。これは完全な思い込みによる油断である。
「スタン、前を見て!」
ボクはポピッカの言葉に我を取り戻し、再び眼前の敵に向かい合った。廃魔法使い、否、今や魔法使いと戦士のハイブリッド体となった生きる屍は、ボクのほんのわずかな隙をついて、わずか2,5メートルの距離まで猛然と迫って来ている。
奴の両手にあるマジックワンドの先端に何らかの魔法が掛かっているのは明らかだが、それが何なのかは発動されなければわからない。
「アテニュエイト!」
指輪に模した魔句呂コーラーが反応し、ボクの体を覆い隠すように半透明の四角い膜が現れる。廃魔法使いはそんなものはお構いなしに、双碗を勢いよく振り降ろした。既にこん棒と変わらない使われ方をされている二本のマジックワンドが薄膜を通り、ボクへと向かって猛スピードで接近してきた。ボクは魔盾環の防御魔法陣の形を横長の四角形にしてそれを受け止める。
二本の狂棒は対物理攻撃魔方陣に強く弾かれ、廃魔法使いはバランスを崩し2~3メートル後退して尻もちをついた。
ボクは肝を冷やす。アテニュエイトの魔法は相手が仕掛けてきた攻撃が何であれ、許容範囲内であれば威力を半分に減衰させる効果がある。その上で魔盾環による反発がこれだけ強いとなると、恐らくマジックワンドに仕掛けられていた魔法は衝撃力を大幅にアップする魔法であったに違いない。もし威力を半減させていなかったら、魔盾環でも衝撃を受け止め切れなかっただろう。
アテニュエイトの魔法はマジックエッセンスの消費が激しい。何度も使える手ではない。これはやり方を考えないと、かなりやばい事になるぞ。ボクはすぐさま脳みそをフル回転させた。
「き、来た!」
ザレドスの声に、ボクは思わず後方を見る。
パーティーの背後から襲ってきた敵は、魔物”ボヨムル”であった。長軸が50センチほどの楕円形をした球体の上方に大きな目玉が一つあり、下方には約1メートルの尻尾がついている。また頭頂部には5本の触手が不気味にうごめき、先端は常に毒が染み出す銛状となっていた。
ボヨムルが空中を浮遊して二人の間近に迫ったかと思うと、間髪入れずに銛付き触手を乱舞させる。ポピッカは咄嗟に自身とザレドスの周りに張り巡らせた魔法障壁を二重にした。
5本の狂銛が二人を串刺しにしようとするが、二重障壁はその攻撃を取りあえず防いでいる。
「ひっ!」
「大丈夫。この程度の攻撃ならば、障壁がすぐに破られる事はありませんわ」
僧侶は悲鳴を上げる細工師の不安を和らげるよう努力した。
ボヨムルの執拗な攻撃は続くものの、ここはポピッカの言うように差し当たっては心配ないだろう。ボクやゲルドーシュの決着がつくまでは十分に持ちこたえられる状況だ。新たな敵対者が毒とスピードだけに気を配れば良いような、下等な輩だった幸運に感謝である。
「なんだぁ? 新手が来たんか! それじゃぁ……」
オーガのスチールハンマーと剣を打ち合っていたゲルドーシュが、背後の異変に気付く。ボクの方が苦戦を強いられている事もわかっているだろうから、一気に勝負をかけるつもりだ。
オーガのハンマーと自らの大剣が交差した瞬間、ゲルドーシュは素早く右にステップをきる。それと同時にハンマーの柄に沿って大剣を滑らせて、その延長上にあるオーガの左上腕部を見事に切り裂いた。
怪物は苦痛に満ちた叫び声を上げる。オーガの手から巨大なハンマーがスルリと抜け落ち、落下の衝撃で床石が大きく砕け散った。ゲルドーシュはハンマーを素早く蹴り飛ばし、オーガがすぐには拾いに行けない所までそれをうっちゃる。
よし! 廃魔法使いの動きを警戒しつつも戦士の戦いを注視していたボクは、心の中でそう叫んだ。これで程なくオーガは大剣の餌食となるだろう。
戦士もそう確信したに違いない。丸腰となったオーガに必殺の一撃をくらわそうと突進する。一方、オーガは狼狽するもすぐに立ち直り、決死の覚悟でゲルドーシュの剣を封じようとしていた。
その気迫に押されたのか、ゲルドーシュの動きがほんの一瞬精細さを欠く。オーガは攻撃してくる大剣の長いツバを左手で握り、右手で戦士の左前腕を掴む。双方”がっぷりよつ”といった様相だ。
それまでの激しい動きのやり取りとは裏腹に、両者、石像のようにその場に固まる体制となった。本来、腕力ではオーガが勝っているが、切り裂かれた両碗の傷とその後の戦士有利の打ち合いのため、彼らの自力はいま拮抗している。
「ちくしょう!離しやがれ。悪あがきするなってんだよ!」
勝利を確信していた戦士の胸の中に、見る見るうちに焦りが広がっていくのがわかる。
戦いの行方が見通せなくなったと思われたその時、ボクたちは有り得ない光景を目にする事となった。
「ゴワッー、ギギィッ―!」
突然、オーガが奇声を発したのである。相手を威嚇するわけでもなく、苦しみを表しているわけでもない。明らかに、何かを伝えようとしている声だ。
オーガは同族以外と連携はしないが、ここにオーガは奴しかいない。一体、誰に何を伝えようとしているのか? まだ近くに奴の仲間が潜んでいて、そいつに助けを求めているのだろうか?
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