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苦戦
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こういった顔を目の当たりにするのは初めてではないが、何回見ても気持ちの良いものではない。
ボクの攻撃を取りあえずは防いだものの、バランスをくずした廃魔法使いは二、三歩後ろに後ずさり体勢を立てなおした。しかし、その動きは明らかに不自然なものとなっている。
寄生虫は宿主の健康など微塵も気に掛けはしない。無理な体制で攻撃を避けたため、宿主の膝関節はそれなりのダメージを受けたに違いない。もちろん痛みなどは感じるはずもないが、物理的な動きには制限が掛かるだろう。
このまま物理攻撃と魔法を組み合わせていけば……と思った直後、状況は一変した。廃魔法使いが、突然ローブをかなぐり捨てたのだ。見たところローブ自身に防御魔法などはかかっていないようだが、それにしても脱ぎすてるとは尋常ではない。
「ひっ!」
さらけ出された廃魔法使いの体を見て、ポピッカが思わず叫ぶ。
彼の体の皮膚は多くの部分が剥がれ落ちており、筋肉がむき出しになっている。部分的には骨が見えてきている所さえあるようだ。一体これはどういう事なのだろうか。
「あぁ、そういうことか!」
ザレドスが、場にそぐわぬ奇声を上げる。
「スタン、奴の体はもう限界に近付いているんですよ。いくら寄生虫の力で再生したからといっても、普通の人間のように新陳代謝があるわけじゃない。物理的に体は動いても、生命活動自体はドンドン萎えて来てるんです」
「確かに……!」
細工師の推論にボクも同意する。
多分、この魔法使いが死んだのはかなり前の事であり、寄生虫の宿主になってからそれなりに長い時間が経っているのだろう。このまま時が過ぎれば早晩彼の肉体は崩壊し、寄生虫はこの宿主を手放さざるを得ないに違いない。
しかし宿主から出た寄生虫は非常に脆弱である。移動力や攻撃力も最弱レベルになってしまう。となると、寄生虫が生き延びられる可能性が極端に低くなるのは必定だ。そうならないためには……。
「気を付けて下さい。奴の狙いは……あなたの肉体だ!」
なるほどね。こいつの宿主の体はもう限界らしい。だから宿主の体がまだ動く内に、次の宿主を手に入れる必要がある。それが、ボクというわけだ。ボクが最初に放った火球や防御魔法陣、そして魔法使いらしからぬ体術を使った事で、奴は本当になりふり構わなくなったのだろう。正攻法では時間切れまでに勝てないと悟ったのだ。
魔法使いは体力的には戦士に及ばない。どちらかと言えば脆弱だ。しかし人体は自らを守るために、その力をセーブしていると聞いた事がある。もし筋肉が物理的に出せる力をフルに発揮してしまうと、すぐに肉体の耐久力はその限界を超えて、当事者に致命的なダメージをもたらしてしまうからだ。
だが奴には、そんな事は関係ない。どうせ長くはもたない宿主の体である。たとえ戦いの後に肉体が崩壊しても、ボクという新たな宿主を得るためにはあらん限りの力を振るうだろう。ローブを脱ぎすてたのも、少しでも動きの妨げにならないためだ。
これは意外な強敵である。なにせ後先を考えない詠唱なしの魔法攻撃に加え、肉体のリミッターを外した事により、恐らくは戦士並みの身体能力で襲い掛かってくるのだから……。
僕と対峙した廃魔法使いが一声咆哮すると、彼の筋肉は見る見るうちに膨れ上がり歴戦の勇士と代わり映えしなくなった。それに加えてローブの下に隠し持っていたもう一つのマジックワンドを携え、まるで二刀流のようなスタイルを披露する。
こちらが身構えると、廃魔法使いは二本のマジックワンドを交差させ、目の前に異様な魔法陣を形成した。そして魔法陣の円周と真ん中に中型のファイヤーボールが合計5つ出現し、間髪を入れずにこちらめがけて放たれる。
全ての火球がボクの全身に到達する瞬間、反射的に魔盾環の形態を大きくして受け止めたが、5つの火球の威力は凄まじく、さすがの対魔法防御盾も全部の威力を吸収する事は出来なかった。
激しい爆発音と共に立ち昇る白煙。ボクは斜め後ろにふっ飛ばされ、体を壁に激しく打ちつけその場に崩れ落ちる。耐久力増強の魔法を使っていなかったら、これだけで間違いなく意識を失っていただろう。
「旦那、大丈夫か!」
オーガと打ち合っていたゲルドーシュが異変に気付き、背中越しにこちらを見る。
「よそ見をするな、ゲル! こっちは大丈夫だ。自分の戦いに集中しろ!」
ボクは声を張り上げた。
そうだとも。ゲルドーシュの相手は小柄といえどオーガである。今は絶妙な戦法で互角に戦ってはいるが、少しの油断でたちまち形成は逆転するだろう。こちらにかまっている余裕などないはずだ。
ハッとしたように自らの戦いに戻るゲルドーシュ。ボクを助けるために、早く勝負をつけようと焦らねば良いが……。
「ザレドス! 何か良い対処法はありませんの?」
ポピッカは自らの張った輪環障壁の中で、後ろにいる細工師に問いただす。
「え、えぇ、ちょっと待って下さい。これは私にも初めての経験で……。何か、何か良い方法は……」
想定外の事態に、さすがのザレドスも我を失いかけている。
だが不幸中の幸いとでも言おうか、襲ってきた敵は二体。ボクとゲルドーシュがそれぞれに対処すればポピッカとザレドスは安全だ。もしもの時は、ポピッカが戦いに加わる事も出来る。
しかしそういった考え自体、全くの油断であったとすぐに思い知らされる事になった。
「あぁ!ポピッカ、後ろから何かが近づいてきます。これは魔物の反応です!」
顔面に装着している探索用魔使具が、思いもよらぬ敵の出現を察知し、ザレドスが悲痛な声をあげる。
ボクの攻撃を取りあえずは防いだものの、バランスをくずした廃魔法使いは二、三歩後ろに後ずさり体勢を立てなおした。しかし、その動きは明らかに不自然なものとなっている。
寄生虫は宿主の健康など微塵も気に掛けはしない。無理な体制で攻撃を避けたため、宿主の膝関節はそれなりのダメージを受けたに違いない。もちろん痛みなどは感じるはずもないが、物理的な動きには制限が掛かるだろう。
このまま物理攻撃と魔法を組み合わせていけば……と思った直後、状況は一変した。廃魔法使いが、突然ローブをかなぐり捨てたのだ。見たところローブ自身に防御魔法などはかかっていないようだが、それにしても脱ぎすてるとは尋常ではない。
「ひっ!」
さらけ出された廃魔法使いの体を見て、ポピッカが思わず叫ぶ。
彼の体の皮膚は多くの部分が剥がれ落ちており、筋肉がむき出しになっている。部分的には骨が見えてきている所さえあるようだ。一体これはどういう事なのだろうか。
「あぁ、そういうことか!」
ザレドスが、場にそぐわぬ奇声を上げる。
「スタン、奴の体はもう限界に近付いているんですよ。いくら寄生虫の力で再生したからといっても、普通の人間のように新陳代謝があるわけじゃない。物理的に体は動いても、生命活動自体はドンドン萎えて来てるんです」
「確かに……!」
細工師の推論にボクも同意する。
多分、この魔法使いが死んだのはかなり前の事であり、寄生虫の宿主になってからそれなりに長い時間が経っているのだろう。このまま時が過ぎれば早晩彼の肉体は崩壊し、寄生虫はこの宿主を手放さざるを得ないに違いない。
しかし宿主から出た寄生虫は非常に脆弱である。移動力や攻撃力も最弱レベルになってしまう。となると、寄生虫が生き延びられる可能性が極端に低くなるのは必定だ。そうならないためには……。
「気を付けて下さい。奴の狙いは……あなたの肉体だ!」
なるほどね。こいつの宿主の体はもう限界らしい。だから宿主の体がまだ動く内に、次の宿主を手に入れる必要がある。それが、ボクというわけだ。ボクが最初に放った火球や防御魔法陣、そして魔法使いらしからぬ体術を使った事で、奴は本当になりふり構わなくなったのだろう。正攻法では時間切れまでに勝てないと悟ったのだ。
魔法使いは体力的には戦士に及ばない。どちらかと言えば脆弱だ。しかし人体は自らを守るために、その力をセーブしていると聞いた事がある。もし筋肉が物理的に出せる力をフルに発揮してしまうと、すぐに肉体の耐久力はその限界を超えて、当事者に致命的なダメージをもたらしてしまうからだ。
だが奴には、そんな事は関係ない。どうせ長くはもたない宿主の体である。たとえ戦いの後に肉体が崩壊しても、ボクという新たな宿主を得るためにはあらん限りの力を振るうだろう。ローブを脱ぎすてたのも、少しでも動きの妨げにならないためだ。
これは意外な強敵である。なにせ後先を考えない詠唱なしの魔法攻撃に加え、肉体のリミッターを外した事により、恐らくは戦士並みの身体能力で襲い掛かってくるのだから……。
僕と対峙した廃魔法使いが一声咆哮すると、彼の筋肉は見る見るうちに膨れ上がり歴戦の勇士と代わり映えしなくなった。それに加えてローブの下に隠し持っていたもう一つのマジックワンドを携え、まるで二刀流のようなスタイルを披露する。
こちらが身構えると、廃魔法使いは二本のマジックワンドを交差させ、目の前に異様な魔法陣を形成した。そして魔法陣の円周と真ん中に中型のファイヤーボールが合計5つ出現し、間髪を入れずにこちらめがけて放たれる。
全ての火球がボクの全身に到達する瞬間、反射的に魔盾環の形態を大きくして受け止めたが、5つの火球の威力は凄まじく、さすがの対魔法防御盾も全部の威力を吸収する事は出来なかった。
激しい爆発音と共に立ち昇る白煙。ボクは斜め後ろにふっ飛ばされ、体を壁に激しく打ちつけその場に崩れ落ちる。耐久力増強の魔法を使っていなかったら、これだけで間違いなく意識を失っていただろう。
「旦那、大丈夫か!」
オーガと打ち合っていたゲルドーシュが異変に気付き、背中越しにこちらを見る。
「よそ見をするな、ゲル! こっちは大丈夫だ。自分の戦いに集中しろ!」
ボクは声を張り上げた。
そうだとも。ゲルドーシュの相手は小柄といえどオーガである。今は絶妙な戦法で互角に戦ってはいるが、少しの油断でたちまち形成は逆転するだろう。こちらにかまっている余裕などないはずだ。
ハッとしたように自らの戦いに戻るゲルドーシュ。ボクを助けるために、早く勝負をつけようと焦らねば良いが……。
「ザレドス! 何か良い対処法はありませんの?」
ポピッカは自らの張った輪環障壁の中で、後ろにいる細工師に問いただす。
「え、えぇ、ちょっと待って下さい。これは私にも初めての経験で……。何か、何か良い方法は……」
想定外の事態に、さすがのザレドスも我を失いかけている。
だが不幸中の幸いとでも言おうか、襲ってきた敵は二体。ボクとゲルドーシュがそれぞれに対処すればポピッカとザレドスは安全だ。もしもの時は、ポピッカが戦いに加わる事も出来る。
しかしそういった考え自体、全くの油断であったとすぐに思い知らされる事になった。
「あぁ!ポピッカ、後ろから何かが近づいてきます。これは魔物の反応です!」
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