よろず魔法使いの日記帳 【第一部 ダンジョンの謎】

藻ノかたり

文字の大きさ
上 下
44 / 115

爆裂の秘密

しおりを挟む
「ゲル! もう、いいんじゃないのか」

目的の最深部まで距離としてはさほど遠くないものの、無駄に時間をかけている余裕はない。ボクは戦いの享楽にふけるゲルドーシュに釘をさした。

「そうだな、ここらが潮時か」

不満げな戦士であったが、拳熊を足で突き飛ばし敵との距離を取る。

「ザレドス、どうせ俺の戦いを魔使具でスキャンしてるんだろ?これからちょっと面白い技を使うんで、しっかり見といてくれよ!」

ゲルドーシュに見透かされていた事を知り、ちょっと決まりが悪そうなザレドス。

拳熊の方も業を煮やしたのか、全力でゲルドーシュへと驀進する。体当たりを食らえば屈強な成人男子といえど、十数メートルは飛ばされ大けがは間違いない勢いだ。

「ゲル!よけなさい!」

ポピッカが不安まじりの声をあげる。

「いらぬお世話だ。よっく見てな!」

中段に大剣を構え、仁王立ちで猛進してくる敵を見据えるゲルドーシュ。

拳熊は硬質化した右手を斜め後ろに引き、次の瞬間それを凄まじいスピードで振りおろす。ポピッカに心配いらぬと説いたボクだったが、ゲルドーシュが一向に動かないのを見て心臓の鼓動がドンドン早くなるのを感じる。

「うぉぉぉぉぉっ!!」

ゲルドーシュが獣のような咆哮をあげた。戦士の叫びと同時に彼の大剣が細かな振動を帯び、次の瞬間、凄まじい爆発音が鳴り響き、辺りが暫し閃光に包まれた。

そしてあと一歩でゲルドーシュを叩きのめすはずだった拳熊の動きは、爆発に阻まれピタリと止まった。

「こ、これは!」

ザレドスが思わず口走る。

「じゃぁな。遊んでくれて有難うよ!」

ゲルドーシュは大剣をかつぐように斜め上に振り上げ、間髪を入れず拳熊を袈裟懸けに斬り捨てた。抵抗する間もなく、むろん避ける間もなく、魔熊の体は剣の軌跡通りに切断される。

肉が切り離される音と共に、拳熊の左肩から右わき腹にかけての塊が本体から滑り落ちた。ほどなく残りの胴体も、轟音と共に地べたへ崩れ落ちる。

「ふう、いい運動になったぜ」

初めてのまともな戦いを終え、ゲルドーシュは満足げに息を吐いた。

「やぁ、何だい今の技は? あんなの初めて見たぞ」

何が起こったのか今一つ理解が及ばす、ボクは逸る気持ちを押さえつつもゲルドーシュに種明かしを迫る。

「へへん、どうだい。驚いたかよ旦那」

ゲルドーシュが得意げに鼻を鳴らした。

「実はな……」

「剣を通じて闘気を爆発させたんですね!」

ザレドスが戦士の自慢話を遮った。

「ちょ、ちょっとザレドスよ。それは俺がこれから言おうと……」

大威張りで先ほどのカラクリを披露しようとしたゲルドーシュが、機先を制されドギマギしている。

「しかし不思議ですね。私の見たところ、その剣は魔使具ではない。もちろん魔道具でもない。業物ではありますが、魔法とは一切関係のない武器にしか見えません。それなのに何故、先ほどのような魔法を使わなくては出来ない芸当が可能なのでしょう……」

知的興味心が先に立ち、一人でドンドン話を先に進めるザレドス。しかし彼にもわからぬ事があると知り、ゲルドーシュの機嫌が多少なりとも回復する。

「おぅっ、さすがのアンタにもわからねぇか。じゃぁ、これから俺が言う事をとくと聞いてくんな。実はな、こいつはテュラフィーの手によるものなんだ」

自慢話の腰を折られ、先ほどまでしょげかえっていた戦士が意外な事実を語り出す。

「前にも話したように俺の婚約者テュラフィーは魔使具職人なんだが、今回の仕事のために、剣に魔法をかけてくれたんだよ。内容はさっきザレドスが言ったように、俺の闘気を剣に宿らせて爆発させるもんだ」

「いや、それはおかしいですわね。その剣が魔使具や魔道具でない以上、魔法を使う事は出来ないはずですが」

今度はポピッカが疑念を示す。

「俺もそう思ってたんだけどさ、なんでも単純な魔法だったら、普通の武器にも付与できるらしいんだ。もっとも、かけた魔法を使い切ったらそれまでなんだがな」

「あぁ、もしかして……」

魔使具マニアのザレドスが何か気が付いたようだ。

「テュラフィーさんって、準魔法使いなんでしょうか? それだったら、思いつく事があります」

「あぁ、何かそういう事、言ってたような気もするなぁ…」

ゲルドーシュが頼りなげに返答をする。

「準魔法使いというのはですね、魔法使いと呼べるほどの魔力はないものの、少しは魔法を使える人たちの事なんですよ。混乱を招くという理由で、黙殺されて来たんですけどね」

ザレドスが、ウンチクを披露し始めた。

「魔法使いにはなれないので、他の職業を選ぶしかないのですが、ごく少量の魔力なんて使い道がない。ですから本人たちも殊更それをひけらかそうとはしません。そんな事をしたら、むしろ”落ちこぼれ魔法使い”みたいな偏見を持たれてしまいますからね」

「おい、ちょっと待て。落ちこぼれたぁ、どういうこったい、落ちこぼれたぁ。事と次第によっちゃぁ容赦しねぇぞ!」

婚約者をバカにされていると思ったのか、ゲルドーシュの顔がみるみる内に赤くなっていく。

「違いますわよ。ザレドスがそう思っているのではなくて、世間一般がそういう評価をしているって事ですわ」

ポピッカの取りなしが入る。

「あっ、あぁ、そうか。すまねぇ、つい」

ゲルドーシュは、魔法電信の存在を失念したザレドスを心ならずも叱責してしまった件もあり、ここは大人しく引き下がる。

「あぁ、誤解を与える表現でしたね。すいません。では話を続けます」

一瞬どうなる事かと思ったが、ゲルドーシュも少しは成長しているようだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

レベルを上げて通販で殴る~囮にされて落とし穴に落とされたが大幅レベルアップしてざまぁする。危険な封印ダンジョンも俺にかかればちょろいもんさ~

喰寝丸太
ファンタジー
異世界に転移した山田(やまだ) 無二(むに)はポーターの仕事をして早6年。 おっさんになってからも、冒険者になれずくすぶっていた。 ある日、モンスター無限増殖装置を誤って作動させたパーティは無二を囮にして逃げ出す。 落とし穴にも落とされ絶体絶命の無二。 機転を利かせ助かるも、そこはダンジョンボスの扉の前。 覚悟を決めてボスに挑む無二。 通販能力でからくも勝利する。 そして、ダンジョンコアの魔力を吸出し大幅レベルアップ。 アンデッドには聖水代わりに殺菌剤、光魔法代わりに紫外線ライト。 霧のモンスターには掃除機が大活躍。 異世界モンスターを現代製品の通販で殴る快進撃が始まった。 カクヨム、小説家になろう、アルファポリスに掲載しております。

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

貧弱の英雄

カタナヅキ
ファンタジー
この世界では誰もが生まれた時から「異能」と「レベル」呼ばれる能力を身に付けており、人々はレベルを上げて自分の能力を磨き、それに適した職業に就くのが当たり前だった。しかし、山奥で捨てられていたところを狩人に拾われ、後に「ナイ」と名付けられた少年は「貧弱」という異能の中でも異質な能力を身に付けていた。 貧弱の能力の効果は日付が変更される度に強制的にレベルがリセットされてしまい、生まれた時からナイは「レベル1」だった。どれだけ努力してレベルを上げようと日付変わる度にレベル1に戻ってしまい、レベルで上がった分の能力が低下してしまう。 自分の貧弱の技能に悲観する彼だったが、ある時にレベルを上昇させるときに身に付ける「SP」の存在を知る。これを使用すれば「技能」と呼ばれる様々な技術を身に付ける事を知り、レベルが毎日のようにリセットされる事を逆に利用して彼はSPを溜めて数々の技能を身に付け、落ちこぼれと呼んだ者達を見返すため、底辺から成り上がる―― ※修正要請のコメントは対処後に削除します。

【完結】聖女が性格良いと誰が決めたの?

仲村 嘉高
ファンタジー
子供の頃から、出来の良い姉と可愛い妹ばかりを優遇していた両親。 そしてそれを当たり前だと、主人公を蔑んでいた姉と妹。 「出来の悪い妹で恥ずかしい」 「姉だと知られたくないから、外では声を掛けないで」 そう言ってましたよね? ある日、聖王国に神のお告げがあった。 この世界のどこかに聖女が誕生していたと。 「うちの娘のどちらかに違いない」 喜ぶ両親と姉妹。 しかし教会へ行くと、両親や姉妹の予想と違い、聖女だと選ばれたのは「出来損ない」の次女で……。 因果応報なお話(笑) 今回は、一人称です。

月が導く異世界道中extra

あずみ 圭
ファンタジー
 月読尊とある女神の手によって癖のある異世界に送られた高校生、深澄真。  真は商売をしながら少しずつ世界を見聞していく。  彼の他に召喚された二人の勇者、竜や亜人、そしてヒューマンと魔族の戦争、次々に真は事件に関わっていく。  これはそんな真と、彼を慕う(基本人外の)者達の異世界道中物語。  こちらは月が導く異世界道中番外編になります。

最弱王子なのに辺境領地の再建任されました!?無気力領主と貧困村を救ったら、いつの間にか国政の中心になってた件について~

そらら
ファンタジー
リエルは、王国の第五王子でありながら、実績も勢力も乏しい存在だった。 王位争いの一環として、彼は辺境の「エルウァイ領地」に配属されることになる。 しかし、そこは獣害や盗賊の被害が相次ぎ、経済も破綻寸前の“外れ領地”だった。 無気力な領主・ルドルフと共に、この荒廃した地を立て直すことになったリエルは、相棒の神聖獣フェンリルと共に領地を視察するが、住民たちの反応は冷たいものだった。 さらに、領地を脅かす巨大な魔物の存在が判明。 「まずは住民の不安を取り除こう」と決意したリエルは、フェンリルと共に作戦を立て、魔物の討伐に乗り出すことを決める。 果たして、リエルはこの絶望的な状況を覆し、王位争いに食い込むことができるのか!? 辺境の村から始まる、領地改革と成り上がりの物語が今、幕を開ける——!

処理中です...