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対決!魔犬ゾルハウンド
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濃縮された焔はゾルハウンドの喉を焼き、魔犬は異様な悲鳴を上げて転げまわる。
仲間の危機を救うべく、二匹目の魔犬がボクの後方から突進してくるが、ボクは体を半分ひねり、左手に携えている盾の魔使具”魔盾環(まじゅんかん)”を対物理攻撃モードで発動させた。
握り手の先に溶着されている輪の少し先に、直径五十センチほどの青い魔方陣が現れる。予期せぬ盾の出現に一瞬怯んだゾルハウンドであったが、仲間の仇とばかり憎悪にまみれた牙をむき出しにして襲い掛かって来た。
ボクは体をもう半分ひねり、正面で魔犬の攻撃を受け止める。先ほどの雷撃効果も薄れ、ほぼ全力で盾にぶつかってきた魔犬であったが、情けないほどあっけなく弾き飛ばされた。
魔盾環は単に攻撃を防ぐ盾ではない。許容限界はあるものの、物理攻撃であれば与えられた衝撃と同じエネルギーを発生させて対象物を弾き飛ばす事が出来るし、魔法攻撃であればそれを吸収する。
しかし、さすがは中堅どころの魔物ゾルハウンド。すぐさま体勢を立て直してこちらへ再突進してくる。今度は盾にまともにぶつかる事はないだろう。知性が低いとはいえ、それだけの知恵はあると考えるのが妥当である。
また奴は自らの勝機を確信しているとみえて、恐ろしい表情の中にもどこか余裕が伺えた。その余裕の源は、ボクの後ろで焦熱の苦しみから辛うじて身を立て直した、もう一匹のゾルハウンドであろう。ボクを挟み撃ちにする算段だ。
背後のゾルハウンドには、火傷により既に噛みつく力は残されていない。となると当然、魔法の叫喚で口から衝撃波を撃ち出す事になる。案の定、後ろの魔犬の喉奥で、空気が強烈に圧縮される音が聞こえてきた。しかしボクは振り返らず、目の前の魔犬に集中する。
「危ない!スタン、後ろから衝撃波が!」
ポピッカが叫んだ瞬間、背後のゾルハウンドの頭が吹っ飛ぶ音がダンジョンに木霊した。火傷による口肉の癒着により、喉の奥で醸成された衝撃波の行き場がなくなり暴発したのである。
頭部が無くなったであろう魔犬が床に倒れ込む音を確認し、ボクは眼前の敵に勝負をかけた。
「あぁ……!」
驚きの声をあげるポピッカ。
「スタンは、あらかじめこれを狙っていたんですよ。動きの素早いゾルハウンドを、そのまま二匹相手にするのは大変です。雷撃魔法で動きを鈍らせ、まず一匹を”既に死んでいる”状態に陥らせた。
その上で残りのゾルハウンドと対峙する作戦だったのでしょう」
ふん、わかっているじゃないか。ザレドスの適切な分析に、ボクは小気味良さを感じる。
「ガウッ!! グワッガー!!」
仲間を惨殺されパニックに陥ったゾルハウンドの片割れが、狂った鉄砲玉のようにボクへと突っ込んでくる。そして先ほどの轍は踏まぬとばかり、喉の奥から絞り出すように得意の衝撃波を撃ち込んできた。
疾走による体当たりに加えての衝撃波。物理攻撃と魔法攻撃の二段構えの作戦である。でもボクは慌てない。魔力を操作し、魔盾環に更に魔法攻撃用のシールドを追加する。
先ほどの対物理攻撃用の青い魔方陣の前方に、今度は対魔法攻撃用の赤い魔方陣が現れた。
このスムーズな魔盾環の動作。さすがは天才魔使具職人、ヴァロンゼ・ガドゼランの手によるものだ。ボクは最高の魔使具を縦横無尽に使いこなせる悦びに打ち震える。
魔犬の放った衝撃波は赤い魔方陣に吸い込まれ、続いて特攻を試みた奴の体は既に肉塊と化した仲間同様、青い魔方陣に弾き飛ばされた。ボクはすかさすバランスを崩したゾルハウンドへ向かって、魔奏スティックを振るう。
短い棒状の魔使具の先から今度は鞭状に変形した雷撃が伸び、魔犬の首にしっかりと絡みつく。ボクは魔奏スティックに付属しているストラップを通じて、体内のマジックエッセンスをそれに注ぎ込んだ。
一時的に雷撃鞭の出力が増幅された事を確認したボクは、それを一気に引き戻す。案の定、魔犬の首はその衝撃に耐え切れず、バチっという衝撃音と共に、胴体から頭首だけが離れ落ちた。
さてと、ここまでは良し。ゲルドーシュの方はどうだろうか。ボクは、やや前方に目を向けた。見るとゲルドーシュとモンスターが一進一退の攻防を繰り広げている。
「おおい、ゲル。手伝おうか」
ボクは軽く声をかける。もちろん本当に手伝うつもりなどない。そんな必要はないからだ。
「あぁ、そっちは終わったのかい。さすがだねぇ。こっちはもう少しで片がつくから、余計な手出しはしないでくんな!」
向こうもボクが手出しをする気がない事を良く知っている。まぁ、戦闘中の気軽なやり取りといったところだろうか。ボクは魔盾環にて展開されている二つの魔方陣を解除して、ポピッカとザレドスが待つ後方へと下がる。
「手伝わなくていいんですの? 割と苦戦しているようですけど」
ポピッカが懸念を示す。
「いいの、いいの。ゲルの奴、楽しんでいるだけだから」
ボクは顔の前で手を振り、そのまま付近の壁にもたれかかった。こっちの責務は果たしたので、あとは高見の見物と洒落込むとしよう。
「大丈夫ですよ、ポピッカ。彼はかなりの余裕をもって戦っています。それに引きかえ相手の方は、一杯一杯の状態ですな」
ザレドスが、お得意の分析を披露する
「何でわかるんですの?」
「いま私が装着している探索用の魔使具で、さっきから彼の戦いを観察してるんですけどね。ゲルは息も上がっていないし、筋肉の発熱量も普段とあまり変わりません。つまり、余裕って事です」
「だったらどうして、早く勝負をつけないんでしょう?」
ポピッカが疑問を重ねる。
「さっきも言ったように、戦いを楽しんでいるのさ。奴は根っからの戦士なんだ。でも、今まで彼の相手としては役不足の敵としか出合わなかっただろう?
だから、まぁ欲求不満というか、手もち無沙汰というか……。それをいま思い切り発散しているのさ。特に拳熊は耐久力が高いからね、サンドバッグとしては最適なんだよ」
今度はボクが、僧侶の心配を払しょくするための努力をする。
妨害者の陰謀で閉じ込められてから、あいつが一番気を弱らせていた。妊娠した婚約者をおいてきた身だから気持ちは分からなくもないが、これで少しは気が晴れてくれればいいと思う。
仲間の危機を救うべく、二匹目の魔犬がボクの後方から突進してくるが、ボクは体を半分ひねり、左手に携えている盾の魔使具”魔盾環(まじゅんかん)”を対物理攻撃モードで発動させた。
握り手の先に溶着されている輪の少し先に、直径五十センチほどの青い魔方陣が現れる。予期せぬ盾の出現に一瞬怯んだゾルハウンドであったが、仲間の仇とばかり憎悪にまみれた牙をむき出しにして襲い掛かって来た。
ボクは体をもう半分ひねり、正面で魔犬の攻撃を受け止める。先ほどの雷撃効果も薄れ、ほぼ全力で盾にぶつかってきた魔犬であったが、情けないほどあっけなく弾き飛ばされた。
魔盾環は単に攻撃を防ぐ盾ではない。許容限界はあるものの、物理攻撃であれば与えられた衝撃と同じエネルギーを発生させて対象物を弾き飛ばす事が出来るし、魔法攻撃であればそれを吸収する。
しかし、さすがは中堅どころの魔物ゾルハウンド。すぐさま体勢を立て直してこちらへ再突進してくる。今度は盾にまともにぶつかる事はないだろう。知性が低いとはいえ、それだけの知恵はあると考えるのが妥当である。
また奴は自らの勝機を確信しているとみえて、恐ろしい表情の中にもどこか余裕が伺えた。その余裕の源は、ボクの後ろで焦熱の苦しみから辛うじて身を立て直した、もう一匹のゾルハウンドであろう。ボクを挟み撃ちにする算段だ。
背後のゾルハウンドには、火傷により既に噛みつく力は残されていない。となると当然、魔法の叫喚で口から衝撃波を撃ち出す事になる。案の定、後ろの魔犬の喉奥で、空気が強烈に圧縮される音が聞こえてきた。しかしボクは振り返らず、目の前の魔犬に集中する。
「危ない!スタン、後ろから衝撃波が!」
ポピッカが叫んだ瞬間、背後のゾルハウンドの頭が吹っ飛ぶ音がダンジョンに木霊した。火傷による口肉の癒着により、喉の奥で醸成された衝撃波の行き場がなくなり暴発したのである。
頭部が無くなったであろう魔犬が床に倒れ込む音を確認し、ボクは眼前の敵に勝負をかけた。
「あぁ……!」
驚きの声をあげるポピッカ。
「スタンは、あらかじめこれを狙っていたんですよ。動きの素早いゾルハウンドを、そのまま二匹相手にするのは大変です。雷撃魔法で動きを鈍らせ、まず一匹を”既に死んでいる”状態に陥らせた。
その上で残りのゾルハウンドと対峙する作戦だったのでしょう」
ふん、わかっているじゃないか。ザレドスの適切な分析に、ボクは小気味良さを感じる。
「ガウッ!! グワッガー!!」
仲間を惨殺されパニックに陥ったゾルハウンドの片割れが、狂った鉄砲玉のようにボクへと突っ込んでくる。そして先ほどの轍は踏まぬとばかり、喉の奥から絞り出すように得意の衝撃波を撃ち込んできた。
疾走による体当たりに加えての衝撃波。物理攻撃と魔法攻撃の二段構えの作戦である。でもボクは慌てない。魔力を操作し、魔盾環に更に魔法攻撃用のシールドを追加する。
先ほどの対物理攻撃用の青い魔方陣の前方に、今度は対魔法攻撃用の赤い魔方陣が現れた。
このスムーズな魔盾環の動作。さすがは天才魔使具職人、ヴァロンゼ・ガドゼランの手によるものだ。ボクは最高の魔使具を縦横無尽に使いこなせる悦びに打ち震える。
魔犬の放った衝撃波は赤い魔方陣に吸い込まれ、続いて特攻を試みた奴の体は既に肉塊と化した仲間同様、青い魔方陣に弾き飛ばされた。ボクはすかさすバランスを崩したゾルハウンドへ向かって、魔奏スティックを振るう。
短い棒状の魔使具の先から今度は鞭状に変形した雷撃が伸び、魔犬の首にしっかりと絡みつく。ボクは魔奏スティックに付属しているストラップを通じて、体内のマジックエッセンスをそれに注ぎ込んだ。
一時的に雷撃鞭の出力が増幅された事を確認したボクは、それを一気に引き戻す。案の定、魔犬の首はその衝撃に耐え切れず、バチっという衝撃音と共に、胴体から頭首だけが離れ落ちた。
さてと、ここまでは良し。ゲルドーシュの方はどうだろうか。ボクは、やや前方に目を向けた。見るとゲルドーシュとモンスターが一進一退の攻防を繰り広げている。
「おおい、ゲル。手伝おうか」
ボクは軽く声をかける。もちろん本当に手伝うつもりなどない。そんな必要はないからだ。
「あぁ、そっちは終わったのかい。さすがだねぇ。こっちはもう少しで片がつくから、余計な手出しはしないでくんな!」
向こうもボクが手出しをする気がない事を良く知っている。まぁ、戦闘中の気軽なやり取りといったところだろうか。ボクは魔盾環にて展開されている二つの魔方陣を解除して、ポピッカとザレドスが待つ後方へと下がる。
「手伝わなくていいんですの? 割と苦戦しているようですけど」
ポピッカが懸念を示す。
「いいの、いいの。ゲルの奴、楽しんでいるだけだから」
ボクは顔の前で手を振り、そのまま付近の壁にもたれかかった。こっちの責務は果たしたので、あとは高見の見物と洒落込むとしよう。
「大丈夫ですよ、ポピッカ。彼はかなりの余裕をもって戦っています。それに引きかえ相手の方は、一杯一杯の状態ですな」
ザレドスが、お得意の分析を披露する
「何でわかるんですの?」
「いま私が装着している探索用の魔使具で、さっきから彼の戦いを観察してるんですけどね。ゲルは息も上がっていないし、筋肉の発熱量も普段とあまり変わりません。つまり、余裕って事です」
「だったらどうして、早く勝負をつけないんでしょう?」
ポピッカが疑問を重ねる。
「さっきも言ったように、戦いを楽しんでいるのさ。奴は根っからの戦士なんだ。でも、今まで彼の相手としては役不足の敵としか出合わなかっただろう?
だから、まぁ欲求不満というか、手もち無沙汰というか……。それをいま思い切り発散しているのさ。特に拳熊は耐久力が高いからね、サンドバッグとしては最適なんだよ」
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