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魔物との初戦闘

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確かにゲルドーシュの言う通り、先ほどの大型オオカミよりはよっぽど手ごわい相手である。何が違うのかと言えば、シュラドムウルフは体躯が大きいとはいえ単なる”獣”だ。集団でない限り、単純な力押しで何とかなる場合が多い。

しかし今、目の前にいる奴らは”魔物”である。

魔物は知性こそ低いものの、必ず魔法を使う。魔法を使う獣を魔物と呼んでいると言っても良い。使う魔法は魔物それぞれであり、強力なものもあれば大した事はないものまで多種多様だ。

しかし共通して厄介な問題がひとつある。

魔物と言えど魔法を使う以上はマジックエッセンスを消費するのだが、奴らは自分の体の中でマジックエッセンスを造り出す事が出来る。よって、まわりにマジックエッセンスが存在しなくても補給が可能となる。

どれくらいのペースでマジックエッセンスを造れるかは魔物によって様々だが、いま目の前にいる魔犬と魔熊は、かなりのハイペースでマジックエッセンスを補充出来る事が知られている。

つまりこいつらは、結構な強敵というわけだ。もっとも、月並みのパーティが相手である場合だが……。

「じゃぁ、行くぜ、旦那」

ボクの左隣にいる戦士が呼び掛ける。

「あぁ、仕方がないな」

この敵とは偶然出会ったわけではない。明らかにボクたちを狙って現れたものだ。かくの如き相手に”逃亡”は通用しない。特にゾルハウンドの足の速さを考えると、戦うしか選択肢はなさそうだ。

ボクの言葉を聞いて、ポピッカがザレドスごと自分を障壁魔法でカバーする。ポピッカの戦闘に関する実力はまだわからないが、一般的に僧侶は防御力に長けているので、守備力に不安のあるザレドスを任せるのには適任だ。

3匹の魔物を前にして、全ての者が戦闘開始のタイミングを計っている。わずかな動きの差が、戦いの結果に大きくかかわるからだ。

実際はほんの2~3秒だったと思うが、息詰まる緊張感の中で、それは数分の長さにも感じられた。

意外な事に、まず動いたのは拳熊であった。両こぶしに力と硬質化の魔法を付与する事が出来、ただでさえ強力なパンチを更に強化できるパワータイプのこの魔物は、図体が大きいゆえに素早さを犠牲にしている。そのため、一般的にはどっしり構えて敵を迎え撃つ戦法を取る事が多い。

それが、いの一番に突進してきたのだ。

「おおっ、気が合うねぇ」

ゲルドーシュは、力が強い相手との一騎打ちを好む傾向がある。拳熊からこちらへやって来るのを見て、願ったり叶ったりと思うのも無理はない。

これが十人並みの戦士であれば拳熊の意外な行動に怯んでしまい、初手から防戦一方の状態になるかも知れないが、ゲルドーシュ相手には通用しない。まるでカウンターでも狙っているかのような激烈さで、戦士は突っ込んでくる相手に向かって猛突進をする。

ゲルドーシュの意外な行動に驚いたのか、かえって拳熊のほうが臆した様子でスピードを鈍らせた。それを見たゲルドーシュは、我が意を得たりとばかりにダッシュのギアを一段繰り上げる。拳熊は、もうそのスピードに対応しきれない。ゲルドーシュの下段からの斬り上げを、自慢の拳、それも両拳で受けるのが精一杯だ。

仲間の意外な劣勢にゾルハウンドが寸陰立ち止まる。この魔犬、鳴き声を射程の短い衝撃波として発する事が出来る上に非常に素早い。よって、典型的なヒット&アウェイ戦法を得意とする。だが言い換えれば、動きを鈍らせてしまえば、中堅の魔物と言えど脅威は半減するのである。

「ナイス、ゲル!」

ボクは右手に魔奏スティック、左手に盾である魔盾環を携えて、おろおろしているゾルハウンドへ向かって走り出す。すぐにボクに気がつき体勢を立て直すゾルハウンドたち。しかしこちらも間髪入れずに手を打った。

「ガッツ・ワン!」

ボクが叫ぶと、左手薬指にはめた指輪型の魔句呂コーラーが反応し、腕力、素早さ、耐久力における身体強化レベル1の魔法を一瞬にして発動する。普通に詠唱していたら、三つ合わせて20秒は掛かる代物だ(魔句呂コーラーは予め詠唱内容を記録しておく事により、キーワードのみで魔法を発動できる魔使具である)。

当初の予定では複数の魔法を一つのキーワードで実行するこの機能は、ダンジョン探索の後で魔句呂コーラーに実装するはずだった。しかしガドゼラン魔使具店の魔使具職人、ヴァロンゼと弟子のエリフォンの腕が余りに素晴らしいので、初調整の時に付けていたのが功を奏する。

この機能のおかげでゲルドーシュほどではないものの、駆けるスピードを急激にアップさせたボクを見て、魔犬たちは狼狽し立ち止まった。ボクはこの機を逃さず魔奏スティックから、球状にしたライトニングボルトを連続発射する。まともな状態であれば、素早い魔犬相手には半分も当たらないだろう。しかしこちらの狙い通り6発全弾命中する。

ボクとしてはゾルハウンドが怯んで逃げてくれる事を願っていたが、やはりそう上手く行くはずもない。連中は苦しみながらも戦意をむき出しにして、唸り声をあげこちらを威嚇してくる。しかし攻撃がヒットした以上、一分程度は奴らの動きも普段の半分くらいになるだろう。今の内ならば、レベル1の素早さでも十分この魔犬に対抗できる。

そんな事を考えていると、こちらの企みを察したかのように、魔犬の一匹がボクの方へ飛び掛かって来た。しかし実力の半分も出せない攻撃など避けるに造作もない。ボクはヒラリとかわし、奴が体勢を立て直す前に身体強化した蹴りをブチかます。

魔犬はもんどりうって壁に激突し、弾き飛ばされ床に這いつくばった。

ボクはすかさず奴に馬乗りになり、その口に魔奏スティックをギリギリとねじ込む。そして紅蓮の炎をこの憐れな魔犬の口に注ぎ込んだ。
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