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ポピッカの事情
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「じゃぁ、二人が是が非でも残金を持って帰らなきゃいけない事情がわかったところで、今度はポピッカさん、あなたの事情を教えてくれますか」
ボクは本題を促す。
「えぇ、わかりました……。私はこの州の二つ北にあるマレリーリョ州の教会に居を構えていますの。でもここ何ヶ月かの間に、災厄とも言える事態が州全体を覆っているのですわ」
ポピッカは重い口を開き始めた。
「災厄ってのは、何なんだい」
ゲルドーシュが口を挟む。
「それは、より北の方の州からやって来た違法魔使具を巧みに使う強盗団や、殺し屋の類ですわ。彼らは軍隊にも引けを取らぬほどの強力な魔使具を用いて、街を襲ったり、たてつく政治家や商人を次々と駆逐していってますの」
ポピッカ以外の三人が吃驚する。また”違法魔使具”である。ザレドスもゲルドーシュも結果的には、この違法魔使具のせいで今回の依頼を引き受ける事になった。これは只の偶然なのか、それとも違法魔使具がそれほど世の中に蔓延しているのか。
「当然の事ながら、一番泣きを見るのは名もない人達ですわ。家族が揃っていればまだマシな方で、働き手を失った母子や両親を失った孤児が街中に溢れかえっていますのよ。教会はそういった人たちを受け入れているのですが、私の所属する教会も手いっぱいになっていて……。
今まで何とか踏ん張って来たのですけれど、食べ物を買うお金にも汲々とするようになってきましたの」
「フォラシム教の中央組織から援助はないんですか? フォラシム教は、慈悲の心を第一とする宗教だと聞いておりますが」
ザレドスが疑問を投げかける。
「ご存じかも知れませんが、フォラシムの聖地にある中央教会は、二つ離れた大陸の西の端に位置しております関係上、マレリーリョ州はそこからみれば辺境扱いになります。支援を要請してはいるのですが、なかなか手が回らないようで……それに私は……」
言いかけて、ポピッカは口を閉ざす。まだ言えない何かがあるようだ。
神父というかなりの高位に位置するポピッカが、いわば出稼ぎに来なくてならないほど深刻な事態というわけか。中央からの援助が来るまでにまだ時間が掛かるようだから、それまでのつなぎとして彼女がなるだけ多くの金銭を持って帰らねば、被災者たちは座して死を待つ他ないのだろう。
なるほど、それは是が非でも残金を得なければなるまい。彼女が炊事など神父がまずやらないだろう仕事をテキパキとこなせるのは、神父みずからが被災者の世話をしなければならない過酷な状況であるためだったのか。
「なるほど、おめぇも大変なんだなぁ」
感情の起伏の激しいゲルドーシュが、鼻をすすり上げる。
「でもだからと言って、皆さんを危険にさらしてまで、何が何でも探索を続けなければとは考えていませんわ」
気丈に振る舞ってはいるが、ポピッカもつらいところだろう。
どうする。単純に安全だけを考えるのであれば、このままベースキャンプに籠っているのが最良だ。”妨害者”の行動には不信を抱かざるを得ないが、今のところ、是が非でもボクたちを殺そうとはしていない。そうしたいのであれば、単に閉じ込めるという消極的な手法を使うとは思えない。
それにもし崩落を地下1階ではなく、なるべく下の階で起こしていれば、そこから上のベースキャンプは使えなくなるわけだから、ボクたちが救助までに飢え死にする可能性だってあった。
でもそうしなかったという事は、ボクたちが生きているか死んでいるかは、妨害者にはあまり関係がないという事になるんじゃないのかな。
だがポピッカの言うように、このあと何週間かかるか判然としない救助活動を、この狭い安全地帯でただ待つだけの生活では、精神に異常をきたして何が起きるかわからない。もしかしたら妨害者はそれを狙っているのかも知れないし。
「ところでよ、旦那。旦那は何でこの依頼を受けたんだい。旦那だけ、まだ理由を言っていないぜ」
自分の世界に閉じ籠ってこの先の事をあれやこれやと考えていたボクを、ゲルドーシュが現実へと引き戻す。
「え、ボク? いや、大した理由はないんだな、これが。まぁ、色々と物入りだった時期があってさ、想定外の出費がかさんだんで、それで……」
急な問いかけに、ボクはしどろもどろになった。
「なんだ、全然ダメじゃんか。一体、何やってんだよ旦那は!」
はい~? ダメって? 何が? 確かに一人だけさしたる理由なくここにいるわけだけどさ、それはしょうがないんじゃないかな。文句を言われる筋合いはないぞ。
「あぁ、ごめん……」
しかし口をついて出たのは、意味不明の謝罪だった。
「何も謝る事ありませんわ。どういう事情で依頼を受けるかは人それぞれですしね」
「えぇ、そうですよ。それに、これはむしろ良い事かも知れませんよ」
僧侶に続いて細工師が援護射撃をしてくれる。
「良い事って、何が?」
ゲルドーシュが不満そうに尋ねた。
「リンシードさん以外の三人は、差し迫った理由でお金が必要だという事がわかりました。それだと幾ら冷静に考えているつもりでも、どこかでその事に引きずられると思うんですよ。つまりは判断を誤りやすいって事です」
「そうですわね。特にゲルドーシュは、そのテュラフィーさんのためなら、何も考えずに突進して行くに決まっていますもの」
ザレドスとポピッカの連係プレーが続く。
「ですから、そういった事情がないリンシードさんが、一番冷静に物事を考えられる可能性が高い。しかも彼がリーダーとなっているわけですから、これはもう天の配剤といって良いのではないでしょうか」
「う~ん」
二人の絶え間ない斬り込みに、ゲルドーシュは撃沈された。
ボクは本題を促す。
「えぇ、わかりました……。私はこの州の二つ北にあるマレリーリョ州の教会に居を構えていますの。でもここ何ヶ月かの間に、災厄とも言える事態が州全体を覆っているのですわ」
ポピッカは重い口を開き始めた。
「災厄ってのは、何なんだい」
ゲルドーシュが口を挟む。
「それは、より北の方の州からやって来た違法魔使具を巧みに使う強盗団や、殺し屋の類ですわ。彼らは軍隊にも引けを取らぬほどの強力な魔使具を用いて、街を襲ったり、たてつく政治家や商人を次々と駆逐していってますの」
ポピッカ以外の三人が吃驚する。また”違法魔使具”である。ザレドスもゲルドーシュも結果的には、この違法魔使具のせいで今回の依頼を引き受ける事になった。これは只の偶然なのか、それとも違法魔使具がそれほど世の中に蔓延しているのか。
「当然の事ながら、一番泣きを見るのは名もない人達ですわ。家族が揃っていればまだマシな方で、働き手を失った母子や両親を失った孤児が街中に溢れかえっていますのよ。教会はそういった人たちを受け入れているのですが、私の所属する教会も手いっぱいになっていて……。
今まで何とか踏ん張って来たのですけれど、食べ物を買うお金にも汲々とするようになってきましたの」
「フォラシム教の中央組織から援助はないんですか? フォラシム教は、慈悲の心を第一とする宗教だと聞いておりますが」
ザレドスが疑問を投げかける。
「ご存じかも知れませんが、フォラシムの聖地にある中央教会は、二つ離れた大陸の西の端に位置しております関係上、マレリーリョ州はそこからみれば辺境扱いになります。支援を要請してはいるのですが、なかなか手が回らないようで……それに私は……」
言いかけて、ポピッカは口を閉ざす。まだ言えない何かがあるようだ。
神父というかなりの高位に位置するポピッカが、いわば出稼ぎに来なくてならないほど深刻な事態というわけか。中央からの援助が来るまでにまだ時間が掛かるようだから、それまでのつなぎとして彼女がなるだけ多くの金銭を持って帰らねば、被災者たちは座して死を待つ他ないのだろう。
なるほど、それは是が非でも残金を得なければなるまい。彼女が炊事など神父がまずやらないだろう仕事をテキパキとこなせるのは、神父みずからが被災者の世話をしなければならない過酷な状況であるためだったのか。
「なるほど、おめぇも大変なんだなぁ」
感情の起伏の激しいゲルドーシュが、鼻をすすり上げる。
「でもだからと言って、皆さんを危険にさらしてまで、何が何でも探索を続けなければとは考えていませんわ」
気丈に振る舞ってはいるが、ポピッカもつらいところだろう。
どうする。単純に安全だけを考えるのであれば、このままベースキャンプに籠っているのが最良だ。”妨害者”の行動には不信を抱かざるを得ないが、今のところ、是が非でもボクたちを殺そうとはしていない。そうしたいのであれば、単に閉じ込めるという消極的な手法を使うとは思えない。
それにもし崩落を地下1階ではなく、なるべく下の階で起こしていれば、そこから上のベースキャンプは使えなくなるわけだから、ボクたちが救助までに飢え死にする可能性だってあった。
でもそうしなかったという事は、ボクたちが生きているか死んでいるかは、妨害者にはあまり関係がないという事になるんじゃないのかな。
だがポピッカの言うように、このあと何週間かかるか判然としない救助活動を、この狭い安全地帯でただ待つだけの生活では、精神に異常をきたして何が起きるかわからない。もしかしたら妨害者はそれを狙っているのかも知れないし。
「ところでよ、旦那。旦那は何でこの依頼を受けたんだい。旦那だけ、まだ理由を言っていないぜ」
自分の世界に閉じ籠ってこの先の事をあれやこれやと考えていたボクを、ゲルドーシュが現実へと引き戻す。
「え、ボク? いや、大した理由はないんだな、これが。まぁ、色々と物入りだった時期があってさ、想定外の出費がかさんだんで、それで……」
急な問いかけに、ボクはしどろもどろになった。
「なんだ、全然ダメじゃんか。一体、何やってんだよ旦那は!」
はい~? ダメって? 何が? 確かに一人だけさしたる理由なくここにいるわけだけどさ、それはしょうがないんじゃないかな。文句を言われる筋合いはないぞ。
「あぁ、ごめん……」
しかし口をついて出たのは、意味不明の謝罪だった。
「何も謝る事ありませんわ。どういう事情で依頼を受けるかは人それぞれですしね」
「えぇ、そうですよ。それに、これはむしろ良い事かも知れませんよ」
僧侶に続いて細工師が援護射撃をしてくれる。
「良い事って、何が?」
ゲルドーシュが不満そうに尋ねた。
「リンシードさん以外の三人は、差し迫った理由でお金が必要だという事がわかりました。それだと幾ら冷静に考えているつもりでも、どこかでその事に引きずられると思うんですよ。つまりは判断を誤りやすいって事です」
「そうですわね。特にゲルドーシュは、そのテュラフィーさんのためなら、何も考えずに突進して行くに決まっていますもの」
ザレドスとポピッカの連係プレーが続く。
「ですから、そういった事情がないリンシードさんが、一番冷静に物事を考えられる可能性が高い。しかも彼がリーダーとなっているわけですから、これはもう天の配剤といって良いのではないでしょうか」
「う~ん」
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