39 / 115
ポピッカの事情
しおりを挟む
「じゃぁ、二人が是が非でも残金を持って帰らなきゃいけない事情がわかったところで、今度はポピッカさん、あなたの事情を教えてくれますか」
ボクは本題を促す。
「えぇ、わかりました……。私はこの州の二つ北にあるマレリーリョ州の教会に居を構えていますの。でもここ何ヶ月かの間に、災厄とも言える事態が州全体を覆っているのですわ」
ポピッカは重い口を開き始めた。
「災厄ってのは、何なんだい」
ゲルドーシュが口を挟む。
「それは、より北の方の州からやって来た違法魔使具を巧みに使う強盗団や、殺し屋の類ですわ。彼らは軍隊にも引けを取らぬほどの強力な魔使具を用いて、街を襲ったり、たてつく政治家や商人を次々と駆逐していってますの」
ポピッカ以外の三人が吃驚する。また”違法魔使具”である。ザレドスもゲルドーシュも結果的には、この違法魔使具のせいで今回の依頼を引き受ける事になった。これは只の偶然なのか、それとも違法魔使具がそれほど世の中に蔓延しているのか。
「当然の事ながら、一番泣きを見るのは名もない人達ですわ。家族が揃っていればまだマシな方で、働き手を失った母子や両親を失った孤児が街中に溢れかえっていますのよ。教会はそういった人たちを受け入れているのですが、私の所属する教会も手いっぱいになっていて……。
今まで何とか踏ん張って来たのですけれど、食べ物を買うお金にも汲々とするようになってきましたの」
「フォラシム教の中央組織から援助はないんですか? フォラシム教は、慈悲の心を第一とする宗教だと聞いておりますが」
ザレドスが疑問を投げかける。
「ご存じかも知れませんが、フォラシムの聖地にある中央教会は、二つ離れた大陸の西の端に位置しております関係上、マレリーリョ州はそこからみれば辺境扱いになります。支援を要請してはいるのですが、なかなか手が回らないようで……それに私は……」
言いかけて、ポピッカは口を閉ざす。まだ言えない何かがあるようだ。
神父というかなりの高位に位置するポピッカが、いわば出稼ぎに来なくてならないほど深刻な事態というわけか。中央からの援助が来るまでにまだ時間が掛かるようだから、それまでのつなぎとして彼女がなるだけ多くの金銭を持って帰らねば、被災者たちは座して死を待つ他ないのだろう。
なるほど、それは是が非でも残金を得なければなるまい。彼女が炊事など神父がまずやらないだろう仕事をテキパキとこなせるのは、神父みずからが被災者の世話をしなければならない過酷な状況であるためだったのか。
「なるほど、おめぇも大変なんだなぁ」
感情の起伏の激しいゲルドーシュが、鼻をすすり上げる。
「でもだからと言って、皆さんを危険にさらしてまで、何が何でも探索を続けなければとは考えていませんわ」
気丈に振る舞ってはいるが、ポピッカもつらいところだろう。
どうする。単純に安全だけを考えるのであれば、このままベースキャンプに籠っているのが最良だ。”妨害者”の行動には不信を抱かざるを得ないが、今のところ、是が非でもボクたちを殺そうとはしていない。そうしたいのであれば、単に閉じ込めるという消極的な手法を使うとは思えない。
それにもし崩落を地下1階ではなく、なるべく下の階で起こしていれば、そこから上のベースキャンプは使えなくなるわけだから、ボクたちが救助までに飢え死にする可能性だってあった。
でもそうしなかったという事は、ボクたちが生きているか死んでいるかは、妨害者にはあまり関係がないという事になるんじゃないのかな。
だがポピッカの言うように、このあと何週間かかるか判然としない救助活動を、この狭い安全地帯でただ待つだけの生活では、精神に異常をきたして何が起きるかわからない。もしかしたら妨害者はそれを狙っているのかも知れないし。
「ところでよ、旦那。旦那は何でこの依頼を受けたんだい。旦那だけ、まだ理由を言っていないぜ」
自分の世界に閉じ籠ってこの先の事をあれやこれやと考えていたボクを、ゲルドーシュが現実へと引き戻す。
「え、ボク? いや、大した理由はないんだな、これが。まぁ、色々と物入りだった時期があってさ、想定外の出費がかさんだんで、それで……」
急な問いかけに、ボクはしどろもどろになった。
「なんだ、全然ダメじゃんか。一体、何やってんだよ旦那は!」
はい~? ダメって? 何が? 確かに一人だけさしたる理由なくここにいるわけだけどさ、それはしょうがないんじゃないかな。文句を言われる筋合いはないぞ。
「あぁ、ごめん……」
しかし口をついて出たのは、意味不明の謝罪だった。
「何も謝る事ありませんわ。どういう事情で依頼を受けるかは人それぞれですしね」
「えぇ、そうですよ。それに、これはむしろ良い事かも知れませんよ」
僧侶に続いて細工師が援護射撃をしてくれる。
「良い事って、何が?」
ゲルドーシュが不満そうに尋ねた。
「リンシードさん以外の三人は、差し迫った理由でお金が必要だという事がわかりました。それだと幾ら冷静に考えているつもりでも、どこかでその事に引きずられると思うんですよ。つまりは判断を誤りやすいって事です」
「そうですわね。特にゲルドーシュは、そのテュラフィーさんのためなら、何も考えずに突進して行くに決まっていますもの」
ザレドスとポピッカの連係プレーが続く。
「ですから、そういった事情がないリンシードさんが、一番冷静に物事を考えられる可能性が高い。しかも彼がリーダーとなっているわけですから、これはもう天の配剤といって良いのではないでしょうか」
「う~ん」
二人の絶え間ない斬り込みに、ゲルドーシュは撃沈された。
ボクは本題を促す。
「えぇ、わかりました……。私はこの州の二つ北にあるマレリーリョ州の教会に居を構えていますの。でもここ何ヶ月かの間に、災厄とも言える事態が州全体を覆っているのですわ」
ポピッカは重い口を開き始めた。
「災厄ってのは、何なんだい」
ゲルドーシュが口を挟む。
「それは、より北の方の州からやって来た違法魔使具を巧みに使う強盗団や、殺し屋の類ですわ。彼らは軍隊にも引けを取らぬほどの強力な魔使具を用いて、街を襲ったり、たてつく政治家や商人を次々と駆逐していってますの」
ポピッカ以外の三人が吃驚する。また”違法魔使具”である。ザレドスもゲルドーシュも結果的には、この違法魔使具のせいで今回の依頼を引き受ける事になった。これは只の偶然なのか、それとも違法魔使具がそれほど世の中に蔓延しているのか。
「当然の事ながら、一番泣きを見るのは名もない人達ですわ。家族が揃っていればまだマシな方で、働き手を失った母子や両親を失った孤児が街中に溢れかえっていますのよ。教会はそういった人たちを受け入れているのですが、私の所属する教会も手いっぱいになっていて……。
今まで何とか踏ん張って来たのですけれど、食べ物を買うお金にも汲々とするようになってきましたの」
「フォラシム教の中央組織から援助はないんですか? フォラシム教は、慈悲の心を第一とする宗教だと聞いておりますが」
ザレドスが疑問を投げかける。
「ご存じかも知れませんが、フォラシムの聖地にある中央教会は、二つ離れた大陸の西の端に位置しております関係上、マレリーリョ州はそこからみれば辺境扱いになります。支援を要請してはいるのですが、なかなか手が回らないようで……それに私は……」
言いかけて、ポピッカは口を閉ざす。まだ言えない何かがあるようだ。
神父というかなりの高位に位置するポピッカが、いわば出稼ぎに来なくてならないほど深刻な事態というわけか。中央からの援助が来るまでにまだ時間が掛かるようだから、それまでのつなぎとして彼女がなるだけ多くの金銭を持って帰らねば、被災者たちは座して死を待つ他ないのだろう。
なるほど、それは是が非でも残金を得なければなるまい。彼女が炊事など神父がまずやらないだろう仕事をテキパキとこなせるのは、神父みずからが被災者の世話をしなければならない過酷な状況であるためだったのか。
「なるほど、おめぇも大変なんだなぁ」
感情の起伏の激しいゲルドーシュが、鼻をすすり上げる。
「でもだからと言って、皆さんを危険にさらしてまで、何が何でも探索を続けなければとは考えていませんわ」
気丈に振る舞ってはいるが、ポピッカもつらいところだろう。
どうする。単純に安全だけを考えるのであれば、このままベースキャンプに籠っているのが最良だ。”妨害者”の行動には不信を抱かざるを得ないが、今のところ、是が非でもボクたちを殺そうとはしていない。そうしたいのであれば、単に閉じ込めるという消極的な手法を使うとは思えない。
それにもし崩落を地下1階ではなく、なるべく下の階で起こしていれば、そこから上のベースキャンプは使えなくなるわけだから、ボクたちが救助までに飢え死にする可能性だってあった。
でもそうしなかったという事は、ボクたちが生きているか死んでいるかは、妨害者にはあまり関係がないという事になるんじゃないのかな。
だがポピッカの言うように、このあと何週間かかるか判然としない救助活動を、この狭い安全地帯でただ待つだけの生活では、精神に異常をきたして何が起きるかわからない。もしかしたら妨害者はそれを狙っているのかも知れないし。
「ところでよ、旦那。旦那は何でこの依頼を受けたんだい。旦那だけ、まだ理由を言っていないぜ」
自分の世界に閉じ籠ってこの先の事をあれやこれやと考えていたボクを、ゲルドーシュが現実へと引き戻す。
「え、ボク? いや、大した理由はないんだな、これが。まぁ、色々と物入りだった時期があってさ、想定外の出費がかさんだんで、それで……」
急な問いかけに、ボクはしどろもどろになった。
「なんだ、全然ダメじゃんか。一体、何やってんだよ旦那は!」
はい~? ダメって? 何が? 確かに一人だけさしたる理由なくここにいるわけだけどさ、それはしょうがないんじゃないかな。文句を言われる筋合いはないぞ。
「あぁ、ごめん……」
しかし口をついて出たのは、意味不明の謝罪だった。
「何も謝る事ありませんわ。どういう事情で依頼を受けるかは人それぞれですしね」
「えぇ、そうですよ。それに、これはむしろ良い事かも知れませんよ」
僧侶に続いて細工師が援護射撃をしてくれる。
「良い事って、何が?」
ゲルドーシュが不満そうに尋ねた。
「リンシードさん以外の三人は、差し迫った理由でお金が必要だという事がわかりました。それだと幾ら冷静に考えているつもりでも、どこかでその事に引きずられると思うんですよ。つまりは判断を誤りやすいって事です」
「そうですわね。特にゲルドーシュは、そのテュラフィーさんのためなら、何も考えずに突進して行くに決まっていますもの」
ザレドスとポピッカの連係プレーが続く。
「ですから、そういった事情がないリンシードさんが、一番冷静に物事を考えられる可能性が高い。しかも彼がリーダーとなっているわけですから、これはもう天の配剤といって良いのではないでしょうか」
「う~ん」
二人の絶え間ない斬り込みに、ゲルドーシュは撃沈された。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説

孤児院で育った俺、ある日目覚めたスキル、万物を見通す目と共に最強へと成りあがる
シア07
ファンタジー
主人公、ファクトは親の顔も知らない孤児だった。
そんな彼は孤児院で育って10年が経った頃、突如として能力が目覚める。
なんでも見通せるという万物を見通す目だった。
目で見れば材料や相手の能力がわかるというものだった。
これは、この――能力は一体……なんなんだぁぁぁぁぁぁぁ!?
その能力に振り回されながらも孤児院が魔獣の到来によってなくなり、同じ孤児院育ちで幼馴染であるミクと共に旅に出ることにした。
魔法、スキルなんでもあるこの世界で今、孤児院で育った彼が個性豊かな仲間と共に最強へと成りあがる物語が今、幕を開ける。
※他サイトでも連載しています。
大体21:30分ごろに更新してます。

忘れられた手紙
空道さくら
現代文学
この物語は、成長と挑戦の物語です。自分自身と向き合い、周囲の人々との関係を築き上げていく過程を描いています。初めての経験に戸惑い、失敗を重ねながらも、手紙に込められた過去の声に励まされ、次第に自信を持ち始める結衣。彼女の奮闘と成長の姿勢は、誰しもが感じる不安や挫折を乗り越える力を思い起こさせてくれます。

婚約破棄をされるのですね、そのお相手は誰ですの?
綴
恋愛
フリュー王国で公爵の地位を授かるノースン家の次女であるハルメノア・ノースン公爵令嬢が開いていた茶会に乗り込み突如婚約破棄を申し出たフリュー王国第二王子エザーノ・フリューに戸惑うハルメノア公爵令嬢
この婚約破棄はどうなる?
ザッ思いつき作品
恋愛要素は薄めです、ごめんなさい。

お前じゃないと、追い出されたが最強に成りました。ざまぁ~見ろ(笑)
いくみ
ファンタジー
お前じゃないと、追い出されたので楽しく復讐させて貰いますね。実は転生者で今世紀では貴族出身、前世の記憶が在る、今まで能力を隠して居たがもう我慢しなくて良いな、開き直った男が楽しくパーティーメンバーに復讐していく物語。
---------
掲載は不定期になります。
追記
「ざまぁ」までがかなり時間が掛かります。
お知らせ
カクヨム様でも掲載中です。

神様のミスで女に転生したようです
結城はる
ファンタジー
34歳独身の秋本修弥はごく普通の中小企業に勤めるサラリーマンであった。
いつも通り起床し朝食を食べ、会社へ通勤中だったがマンションの上から人が落下してきて下敷きとなってしまった……。
目が覚めると、目の前には絶世の美女が立っていた。
美女の話を聞くと、どうやら目の前にいる美女は神様であり私は死んでしまったということらしい
死んだことにより私の魂は地球とは別の世界に迷い込んだみたいなので、こっちの世界に転生させてくれるそうだ。
気がついたら、洞窟の中にいて転生されたことを確認する。
ん……、なんか違和感がある。股を触ってみるとあるべきものがない。
え……。
神様、私女になってるんですけどーーーー!!!
小説家になろうでも掲載しています。
URLはこちら→「https://ncode.syosetu.com/n7001ht/」

【完結】白い結婚で生まれた私は王族にはなりません〜光の精霊王と予言の王女〜
白崎りか
ファンタジー
「悪女オリヴィア! 白い結婚を神官が証明した。婚姻は無効だ! 私は愛するフローラを王妃にする!」
即位したばかりの国王が、宣言した。
真実の愛で結ばれた王とその恋人は、永遠の愛を誓いあう。
だが、そこには大きな秘密があった。
王に命じられた神官は、白い結婚を偽証していた。
この時、悪女オリヴィアは娘を身ごもっていたのだ。
そして、光の精霊王の契約者となる予言の王女を産むことになる。
第一部 貴族学園編
私の名前はレティシア。
政略結婚した王と元王妃の間にできた娘なのだけど、私の存在は、生まれる前に消された。
だから、いとこの双子の姉ってことになってる。
この世界の貴族は、5歳になったら貴族学園に通わないといけない。私と弟は、そこで、契約獣を得るためのハードな訓練をしている。
私の異母弟にも会った。彼は私に、「目玉をよこせ」なんて言う、わがままな王子だった。
第二部 魔法学校編
失ってしまったかけがえのない人。
復讐のために精霊王と契約する。
魔法学校で再会した貴族学園時代の同級生。
毒薬を送った犯人を捜すために、パーティに出席する。
修行を続け、勇者の遺産を手にいれる。
前半は、ほのぼのゆっくり進みます。
後半は、どろどろさくさくです。
小説家になろう様にも投稿してます。
雑草令嬢とハキダメの愛 ◆悪役令嬢スペック ✕ 雑草根性で世界を救うミッションはクリアできるか!?
丸インコ
ファンタジー
悪役令嬢のスペックに雑草根性を注入したら、パーフェクト令嬢は誕生するのか?
◆スペックは最高なのに能力は雑魚な乙女ゲームの悪役シャギー・ソルジャー。すべてのルートに登場しコロッと退場するシャギーにユーザーからつけられたあだ名は「噛ませ令嬢」。そんな残念令嬢に転生したのは大家族の長女として苦労してきたド根性少女。恵まれたスペックを持ち前の根性で鍛え上げ、断罪される隙もない最強令嬢になる! ──はずが、なぜか最強騎士が出来上がってしまい……。
◆与えられたのは、死ぬ直前に願った『次は“持ってる側”で生まれたい』という身分。願いどおりの「持ってる人生」を、前世から「持って来た」根性で切り開いていく、掃き溜めに咲く雑草菊の小さな愛の物語。
♥表紙・登場人物などイラストは自作のものです

7個のチート能力は貰いますが、6個は別に必要ありません
ひむよ
ファンタジー
「お詫びとしてどんな力でも与えてやろう」
目が覚めると目の前のおっさんにいきなりそんな言葉をかけられた藤城 皐月。
この言葉の意味を説明され、結果皐月は7個の能力を手に入れた。
だが、皐月にとってはこの内6個はおまけに過ぎない。皐月にとって最も必要なのは自分で考えたスキルだけだ。
だが、皐月は貰えるものはもらうという精神一応7個貰った。
そんな皐月が異世界を安全に楽しむ物語。
人気ランキング2位に載っていました。
hotランキング1位に載っていました。
ありがとうございます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる