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テュラフィー
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「え? どういう事ですの。皆さん何かありますの?」
予期せぬ展開に、ポピッカが戸惑いを見せる。
「えぇ、あなた同様、実はこちらの二人にも、残金を手に入れなければならない切実な事情がありましてね。たまたまですが、ボクは両人から別々にその話を聞いていたんですよ」
戦士と細工師の合意を得て、ボクは簡潔に事のあらましを話した。
「まぁ、そうでしたの。まぁザレドスさんの方は、お人柄からすれば非常に納得できるのですが、ゲルドーシュの方は想定外中の想定外というところですわね。
女性の名前は前に出ていましたけど、筋肉ダヌキの妄想だと思っていましたの。あぁ、その酔狂な女性のお顔を是非とも拝みたいものですわね」
僧侶は相変わらず戦士に辛らつだ。そんな彼女の一言に、ゲルドーシュが怒って反撃するかと思いきや、彼は変に落ち着いており、むしろ何かニヤついている。
「ふ~ん、”拝みたいものですわね”ってか? そう? ほんとに見たい? 見せてやってもいいんだけとなぁ~」
誰もイエスと言わない内に、ゲルドーシュは鎧の内側にあるポケットから花札程の四角い何かを取り出した。
「あ、顔絵板ですね?」
ザレドスが興味を示す。
顔絵板、普通はポートレイターと呼ばれる魔使具の一種で、魔法で写実的に描いた人の顔を封じ込めておくアイテムである。大抵は家族や恋人の肖像画、他には人探しの対象者の顔などであった。
「へへっ、ちょっと待ってな」
ゲルドーシュが自慢げに裏のスライドスイッチを動かす。途端に小さいカードはメモ帳程度の大きさになった。基本的にこの魔使具には圧縮魔法がかけられており、このようにサイズを変更できるのが普通である。
「はぁ~? ちょっと、ゲルドーシュ。これ本物ですの? 全然関係ない人の顔絵じゃないんですの?」
ポピッカの訝しむ声が周りの壁に反響する。僧侶の意外な反応に、ザレドスとボクものぞき込んだ。
「ったりめぇよ。これが正真正銘、俺様の許嫁テュラフィーだ」
鼻の穴の膨らんだゲルドーシュを横目に見ながら、あぁ、ポピッカの反応もわかるよなぁ、とボクは思った。ザレドスも同様の感想を抱いたようである。
「これが本当だとする、正に”美少女と筋肉魔獣”ですわね!」
それもそのはず、ポートレイターに描かれている人物は、まだ幼さが残る二十代前半の可愛い女性のものだったのだ。
「こんな娘を孕ませたなんて、事と次第によっては犯罪行為ですわよ……。もっとも、これが本当の意味で事実だったらの話ですけどね」
ポピッカが含みを持たせた言い方をする。
おい、まさかボクが抱いた疑念と同じ事を感じているのでは……。それ、言っちゃ駄目だぞ絶対に。こんな状況で言ったらどんな事になるか、ボクはもう責任持てなくなるよ。
「本当の意味で事実って、どういうことだよ」
ゲルドーシュの表情が変わる。
「つ、ま、り、妊娠したって騙されてるんじゃないかって事ですわ」
わ~、言っちまった!こりゃ、大変だよ? ボクは速やかにポピッカとゲルドーシュの間に入る準備をする。しかしゲルドーシュの反応は意外なものだった。
「ふ~ん、ポピッカちゃん、うらやましいんだ。自分と変わらない年頃の娘が立派な戦士と幸せな結婚をするんで……。まぁ、わからないでもないぞ、うん」
あぁ、心底、その娘に惚れているんだな、こいつは……。ちょっと羨ましくもあるけれど、ボクとポピッカの予想が当たっていた時には目も当てられないぞ。
「はい!? なんで私が羨ましがらなきゃいけないんですの? たとえフォラシムの神があなたと結婚しろと仰ったとしても、脳みそまで筋肉で出来ているオジサン臭い戦士と一緒になるなんて絶対にありえませんわよ!」
「ったく、ええかげんにせぇよ!なんだよオジサン臭いってのは!」
ゲルドーシュもついに怒り出した。
こりゃ、本当に二人の間に割って入らなければいけないと思った瞬間、ポピッカがゲルドーシュを制止する。
「ちょっと待って! この顔絵に描いてある女性がしているロザリオ。これはこの人の持ち物ですの? それともどこかから買ってきた物か何か……」
彼女の意外な発言に、ゲルドーシュが少したじろいだ。
「ポピッカさん、どうかしましたか」
事の成り行きを黙って見ていたザレドスが、興味深そうに尋ねる。
「このロザリオ、フォラシム教のものなのですが……、これ第6等級の品ですわ」
「ほう、それは凄い」
驚くザレドスに、ゲルドーシュが問いかける。
「は? 何が凄いんだ?」
「いや、私自身はフォラシム教の信徒ではないのですが、知り合いがそうでしてね。かの宗教では信心深さや教会に対する貢献度によって、賜るロザリオの形が変わるそうです。
等級は特級から10級まであって、二十代前半の単なる信徒で6級というのは、かなりのものだと思いますよ。
もっとも盗賊などに奪われたロザリオが、周り周ってアクセサリーとして売られている事もあるらしいのですがね」
物知りザレドスが、さらっとこたえる。ゲルドーシュは、今一つピンとこないようだ。
「そういや前に、教会から新しい首飾りを貰ったって、えらく喜んでたなぁ。俺は宗教全く関心ねぇんだが、テュラフィーは、近くの教会に割と行ってるみてぇだ」
気勢をそがれた戦士が、記憶を辿る。
「申し訳ありません。騙されていると言ったのは撤回しますわ。6級のロザリオを持っている信徒が、いくら相手が筋肉バカとはいえ、騙すなんて有り得ませんもの」
「え、あ、いや、わかればいいって事よ……」
筋肉バカと言われたにもかかわらず、ポピッカの予想外の謝罪にゲルドーシュも矛を収める。
なるほど、ボクもフォラシム教には詳しくないが、神父まで勤める彼女がそういうのであれば、実際そうなのだろう。ただ、善人ぶった宗教者が酷い事をしてきた例は山ほど見てきたので、ボクの中にまだわずかだが疑念が残る。
予期せぬ展開に、ポピッカが戸惑いを見せる。
「えぇ、あなた同様、実はこちらの二人にも、残金を手に入れなければならない切実な事情がありましてね。たまたまですが、ボクは両人から別々にその話を聞いていたんですよ」
戦士と細工師の合意を得て、ボクは簡潔に事のあらましを話した。
「まぁ、そうでしたの。まぁザレドスさんの方は、お人柄からすれば非常に納得できるのですが、ゲルドーシュの方は想定外中の想定外というところですわね。
女性の名前は前に出ていましたけど、筋肉ダヌキの妄想だと思っていましたの。あぁ、その酔狂な女性のお顔を是非とも拝みたいものですわね」
僧侶は相変わらず戦士に辛らつだ。そんな彼女の一言に、ゲルドーシュが怒って反撃するかと思いきや、彼は変に落ち着いており、むしろ何かニヤついている。
「ふ~ん、”拝みたいものですわね”ってか? そう? ほんとに見たい? 見せてやってもいいんだけとなぁ~」
誰もイエスと言わない内に、ゲルドーシュは鎧の内側にあるポケットから花札程の四角い何かを取り出した。
「あ、顔絵板ですね?」
ザレドスが興味を示す。
顔絵板、普通はポートレイターと呼ばれる魔使具の一種で、魔法で写実的に描いた人の顔を封じ込めておくアイテムである。大抵は家族や恋人の肖像画、他には人探しの対象者の顔などであった。
「へへっ、ちょっと待ってな」
ゲルドーシュが自慢げに裏のスライドスイッチを動かす。途端に小さいカードはメモ帳程度の大きさになった。基本的にこの魔使具には圧縮魔法がかけられており、このようにサイズを変更できるのが普通である。
「はぁ~? ちょっと、ゲルドーシュ。これ本物ですの? 全然関係ない人の顔絵じゃないんですの?」
ポピッカの訝しむ声が周りの壁に反響する。僧侶の意外な反応に、ザレドスとボクものぞき込んだ。
「ったりめぇよ。これが正真正銘、俺様の許嫁テュラフィーだ」
鼻の穴の膨らんだゲルドーシュを横目に見ながら、あぁ、ポピッカの反応もわかるよなぁ、とボクは思った。ザレドスも同様の感想を抱いたようである。
「これが本当だとする、正に”美少女と筋肉魔獣”ですわね!」
それもそのはず、ポートレイターに描かれている人物は、まだ幼さが残る二十代前半の可愛い女性のものだったのだ。
「こんな娘を孕ませたなんて、事と次第によっては犯罪行為ですわよ……。もっとも、これが本当の意味で事実だったらの話ですけどね」
ポピッカが含みを持たせた言い方をする。
おい、まさかボクが抱いた疑念と同じ事を感じているのでは……。それ、言っちゃ駄目だぞ絶対に。こんな状況で言ったらどんな事になるか、ボクはもう責任持てなくなるよ。
「本当の意味で事実って、どういうことだよ」
ゲルドーシュの表情が変わる。
「つ、ま、り、妊娠したって騙されてるんじゃないかって事ですわ」
わ~、言っちまった!こりゃ、大変だよ? ボクは速やかにポピッカとゲルドーシュの間に入る準備をする。しかしゲルドーシュの反応は意外なものだった。
「ふ~ん、ポピッカちゃん、うらやましいんだ。自分と変わらない年頃の娘が立派な戦士と幸せな結婚をするんで……。まぁ、わからないでもないぞ、うん」
あぁ、心底、その娘に惚れているんだな、こいつは……。ちょっと羨ましくもあるけれど、ボクとポピッカの予想が当たっていた時には目も当てられないぞ。
「はい!? なんで私が羨ましがらなきゃいけないんですの? たとえフォラシムの神があなたと結婚しろと仰ったとしても、脳みそまで筋肉で出来ているオジサン臭い戦士と一緒になるなんて絶対にありえませんわよ!」
「ったく、ええかげんにせぇよ!なんだよオジサン臭いってのは!」
ゲルドーシュもついに怒り出した。
こりゃ、本当に二人の間に割って入らなければいけないと思った瞬間、ポピッカがゲルドーシュを制止する。
「ちょっと待って! この顔絵に描いてある女性がしているロザリオ。これはこの人の持ち物ですの? それともどこかから買ってきた物か何か……」
彼女の意外な発言に、ゲルドーシュが少したじろいだ。
「ポピッカさん、どうかしましたか」
事の成り行きを黙って見ていたザレドスが、興味深そうに尋ねる。
「このロザリオ、フォラシム教のものなのですが……、これ第6等級の品ですわ」
「ほう、それは凄い」
驚くザレドスに、ゲルドーシュが問いかける。
「は? 何が凄いんだ?」
「いや、私自身はフォラシム教の信徒ではないのですが、知り合いがそうでしてね。かの宗教では信心深さや教会に対する貢献度によって、賜るロザリオの形が変わるそうです。
等級は特級から10級まであって、二十代前半の単なる信徒で6級というのは、かなりのものだと思いますよ。
もっとも盗賊などに奪われたロザリオが、周り周ってアクセサリーとして売られている事もあるらしいのですがね」
物知りザレドスが、さらっとこたえる。ゲルドーシュは、今一つピンとこないようだ。
「そういや前に、教会から新しい首飾りを貰ったって、えらく喜んでたなぁ。俺は宗教全く関心ねぇんだが、テュラフィーは、近くの教会に割と行ってるみてぇだ」
気勢をそがれた戦士が、記憶を辿る。
「申し訳ありません。騙されていると言ったのは撤回しますわ。6級のロザリオを持っている信徒が、いくら相手が筋肉バカとはいえ、騙すなんて有り得ませんもの」
「え、あ、いや、わかればいいって事よ……」
筋肉バカと言われたにもかかわらず、ポピッカの予想外の謝罪にゲルドーシュも矛を収める。
なるほど、ボクもフォラシム教には詳しくないが、神父まで勤める彼女がそういうのであれば、実際そうなのだろう。ただ、善人ぶった宗教者が酷い事をしてきた例は山ほど見てきたので、ボクの中にまだわずかだが疑念が残る。
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