よろず魔法使いの日記帳 【第一部 ダンジョンの謎】

藻ノかたり

文字の大きさ
上 下
31 / 115

悪い予感

しおりを挟む
ビーッ!

耳につく甲高い音が鳴り、ボクの腰につけていた使い魔召喚用の魔方陣プレートの一つが消滅する。プレートから召喚した使い魔が相手に届き、役目を終えるとこの様に作動する仕組みである。

そして地下6階へと降り立つ。相も変わらず平穏な探索が続いた。そして大体半分ほどを制覇したところで夜の時刻を迎える。安全地帯へと入り、昨晩と同様にボクとポピッカが夕食の準備に勤しんだ。

驚いた事にこの階の保存庫には、上の階とは毛色の違う異国風の食材が揃っていた。ゼットツ州が希少金属の採掘で莫大な利益を上げているとはいえ、少々やりすぎなのではないだろうか。まぁ、予算を使い切らなければならないという、お役所特有の悪癖のためかも知れないが、これでは只でさえ緩んだ気持ちが更に軟弱なものとなってしまう。

「おぉ、これまた豪勢だねぇ! 仕事で来てなきゃ最高だぜ」

未だ仕事らしい仕事をしていない大男が、歓喜の声をあげる。多分、彼以外のメンバーは、複雑な思いで戦士の悦びを受け止めているに違いない。

緊張を緩めてはいけない、油断してはいけない、そう思ってはいるものの、やはりこれだけ何もないとなると、心のどこかで不覚が生じるものだ。

そして、それは図らずも突然やってきた。

多少の緊張感があった昨晩とは違い、ボクは、いや多分全員が安らかな眠りについていた深夜、どこか遠くの方で何か唸るような音が聞こえた気がした。普段ならば全員を起こして相談をしたかも知れないが、真夜中だった事もあり、

(皆を起こすほどの事なのだろうか。仮に魔物や獣の類だとしても、結界内に入るにはそれなりの時間が掛かるだろうし、そもそも警報がなる仕組みだ。

今までの事を鑑みれば、それからでも対処は十分に出来るだろう。今、下手に皆を起こしたら、睡眠のリズムが崩れてしまい明日の探索にも響きかねない……)

そう、考えてしまったのだった。

暫くは耳をそばだてていたものの、最初の唸り以降、新たな異変はないようである。ボクはいつの間にか、再び深い眠りの淵に吸い込まれていった。

「あぁ、昨日は良く寝たぜ、夢も見やがらねぇ。さぁってと、今日はようやく問題の最深部だ。気張って行こう!」

朝食を頬張りながら、ゲルドーシュが檄を飛ばす。

ボクは彼の”夢”という言葉を聞いて、昨晩の事をやっと思い出していた。夢、あれは夢だったのだろうか……。既に記憶が朧げになって来ているのを感じる。

「そういえば昨晩、なにかズズンっていうような音が聞こえませんでしたか?」

ザレドスが何気なく口にする。

「え? あなたにも聞こえましたの? 私、てっきり夢を見たのかと思っていましたが……」

ポピッカが驚いたように彼の方を向いた。

「音? 俺には何も聞こえなかったけどなぁ」

ゲルドーシュが、いぶかる。

違う!夢じゃなかった。ボクは本能的に不安を覚えた。そしてゲルドーシュ以外の全員が気の緩んでいた事を実感した。

「その音は私も聞いたような気がします。申し訳ない。本来ならばあそこで皆を起こして、何がしかの検討をするべきでした」

ボクは、リーダーとしてのシクジリを謝罪した。

「いえ、これは皆の責任ですよ。我々は少々油断をし過ぎていたのかも知れません。あの音が大した事ではない事を祈りましょう」

ザレドスがその場をまとめる。

「俺にはホントに、何も聞こえなかったけどなぁ……」

自分だけが仲間外れにされたように感じたのか、ゲルドーシュはご機嫌斜めのようだ。

食事を終えると、今日は皆で片づけを行った。各人がどこかしら居心地の悪さを感じており、作業に没頭する事で不安を紛らわしているかのようである。

出発の準備が整った。

皆、ダンジョンへ入った時の緊張感を思い出し、本日の探索を開始する。あいもかわらず順調に未踏破部分を完遂していったが、どこか心は晴れず全員が無言であった。

「やっぱり未踏破部分をバカ正直に調べてきたのは、どうだったのかなぁ。結局、今のところ何も出てきていないわけだしさぁ」

居たたまれない空気にしびれを切らし、ゲルドーシュが口を開く。

「いえ、やっぱり間違いではなかったと思いますよ。仮に未踏破部分の探索を適当に済ませて、最深部に到達したとしましょう。そこですぐに謎が解ければ良いですが、難航した場合”あぁ、もしかしたら見過ごした未踏破部分に、謎を解くカギがあったのかも知れない”と考えてしまうと思うのですよ」

すかさずザレドスが、ゲルドーシュの戯言をやんわりと否定する。

「そうですわね。その時になってから戻って調べ直すのは時間的に無理ですし、常にそういった疑念を抱きながら謎解きを続けるのは精神的につらいですものね。それが焦りに拍車をかけて、正しい判断が出来なくなる恐れが強いですわ」

間を開けず、ポピッカが細工師の講釈を引き継ぐ。

すぐには答えを出せないボクを、細工師と僧侶がフォローしてれた形である。情けない。本来ならリーダーとしてのボクが、彼らの言った事を堂々と主張するべきなのだ。

「へい、へい。そんなもんですかねぇ」

普段だったら気にも留めないゲルドーシュのぼやきが心に刺さる。

ほどなく地下6階の探索も無事終わり、ボクは報告用の使い魔を放った。そして後悔と焦りの入り混じった不安な気持ちを抱きつつ、更なる下層へと足を踏み入れるのであった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

貧弱の英雄

カタナヅキ
ファンタジー
この世界では誰もが生まれた時から「異能」と「レベル」呼ばれる能力を身に付けており、人々はレベルを上げて自分の能力を磨き、それに適した職業に就くのが当たり前だった。しかし、山奥で捨てられていたところを狩人に拾われ、後に「ナイ」と名付けられた少年は「貧弱」という異能の中でも異質な能力を身に付けていた。 貧弱の能力の効果は日付が変更される度に強制的にレベルがリセットされてしまい、生まれた時からナイは「レベル1」だった。どれだけ努力してレベルを上げようと日付変わる度にレベル1に戻ってしまい、レベルで上がった分の能力が低下してしまう。 自分の貧弱の技能に悲観する彼だったが、ある時にレベルを上昇させるときに身に付ける「SP」の存在を知る。これを使用すれば「技能」と呼ばれる様々な技術を身に付ける事を知り、レベルが毎日のようにリセットされる事を逆に利用して彼はSPを溜めて数々の技能を身に付け、落ちこぼれと呼んだ者達を見返すため、底辺から成り上がる―― ※修正要請のコメントは対処後に削除します。

2回目の人生は異世界で

黒ハット
ファンタジー
増田信也は初めてのデートの待ち合わせ場所に行く途中ペットの子犬を抱いて横断歩道を信号が青で渡っていた時に大型トラックが暴走して来てトラックに跳ね飛ばされて内臓が破裂して即死したはずだが、気が付くとそこは見知らぬ異世界の遺跡の中で、何故かペットの柴犬と異世界に生き返った。2日目の人生は異世界で生きる事になった

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

生活魔法は万能です

浜柔
ファンタジー
 生活魔法は万能だ。何でもできる。だけど何にもできない。  それは何も特別なものではないから。人が歩いたり走ったりしても誰も不思議に思わないだろう。そんな魔法。  ――そしてそんな魔法が人より少し上手く使えるだけのぼくは今日、旅に出る。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!

仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。 しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。 そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。 一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった! これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!

処理中です...