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ガドゼランの噂
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とりあえず頭に浮かぶ理由は二つ。
一つはあちら側に何かが隠されているというもの。単純に宝箱の類か、逆に呪いのアイテムでも封印されているのか、とにかくその先には、行って欲しくはないという場合である。
もう一つは、向こう側からこちら側へ何かが出てくるのを防いでいる場合だ。恐ろしい魔物か、はたまた毒霧の類か、そうでなければ誰かを閉じ込めているのかも知れない。
当然、ゼットツ州お抱えのパーティーも調査はしたはずだ。彼らの面子もあるし、何より都市計画に遅れが出れば、役人たちの評価にも直結してしまう。それで尚、わからないというのはどうも解せないなぁ。何かの意図を感じずにはいられない。
「リンシードさん、お約束の”あれ”いいですか?」
後ろからザレドスが、声をかけてきた。今は休息時なので呼び方も普段通りに戻る。まぁ、そこら辺の融通は時と場合にもよるので、各メンバーの阿吽の呼吸とはなるのだが。
「あぁ、すいません。魔使具ですね。いま出します」
ザレドスがいたく気にしている”ガドゼラン魔使具店製”のアイテムを見せる約束をしていたのを、うっかり失念していた。
「いゃ~、すみませんねぇ。そもそもガドゼラン製の魔使具自体、持っている人が余りいない、というか私はあなた以外に出会った事がないもんでしてね」
細工師の顔はほころび、子供のように無邪気な表情となっている。仕事熱心なのか、純粋に個人の興味なのかはわからないが、ある意味パーティーの中で一番落ち着いた存在と言える彼とは思えぬ、浮ついた表情が印象的だ。
彼の期待に応えるべく、ボクは今回の探索に携行して来た魔使具を披露する。
「ほぉ、これが」
子供が待望のおもちゃを買ってもらった時のような顔つきで、差し出し出された魔使具を検分するザレドス。
「すいません。厚かましいようでなんですが、魔力波の相性を測定してもよろしいですか?」
ザレドスが測定器具を持ってこちらを見つめる。もう、計る気まんまんじゃん……。
「え、えぇ、いいですよ。今回の探索、ザレドスさんにはお世話になりっぱなしですし」
下手に断って気まずくなるのも困るので、ここはリーダーとしての器量を見せねばなるまいて。
「それでは!」
彼はボクと魔使具のシンクロ率を測定し始める。ボク個人の魔力波の周波数と魔使具のシンクロ率が高いほど、それは魔使具職人の腕が良いという事になるわけだ。
「これは、凄い。驚異的な高シンクロ率ですよ。しかもこれらの魔使具は、射光機のような単純なものじゃない。それをここまでピッタリに合わせられるとは……。いや、噂にたがわぬ腕前ですな、その魔使具職人は」
おーい、ヴァロンゼの旦那、褒められてるよ~。今頃、くしゃみをしているかな。まぁ、帰ったらこの事を話してみるか。もっとも”どこの誰かもわからん奴に褒められても、嬉しくもなんともないわい”とか、言うんだろうなぁ。
「お邪魔します。一体何の騒ぎですの?」
普段は冷静なザレドスの歓喜の声を聞きつけて、ポピッカが参戦する。
「え! これが”あの”ガドゼラン魔使具店の……!」
くつろいだコスチュームの僧侶が叫ぶ。
あ~、何か嫌な予感がする。
「ガドゼラン魔使具店をご存じで?」
ボクは恐る恐る尋ねてみる。
「そりゃ、知る人ぞ知る存在ですもの。魔使具の性能や調整の腕はもちろんの事、凄まじい店主がいるって話ですわよね」
「凄まじいと言うと……」
ある程度の予想はつくものの、ボクはあえて聞いてみた。
「私が聞いた話ですと、街にオークの強盗団が押し寄せた時、まず、いの一番にガドゼラン魔使具店に乱入したらしいのですが、そこの主人の一喝に皆一斉に土下座をして退散したらしいですわね」
ポピッカが、さも真実であるかのように語る。
「いや……、それはないです。私は長年、その町の近くに住んでいますが、そもそもオークが乱入した事なんてないですし、魔使具店のオヤジさんは”ただの”人間ですので有り得ませんよ」
常識で考えてくれと言いたくもなったが、噂というのはそういった観念を越えて尾ひれがつくものらしい。
「あら、そうですの……」
どこか残念そうなポピッカ。
「あぁ、そんな猛者がいるのなら、是非一度手合わせ願いてぇな!」
いつの間にか話の輪に入っていたゲルドーシュが、しゃしゃり出る。
「だから、ちがうって!」
ボクは必死になって否定する。もし万が一、この話を信じたゲルドーシュがガドゼラン魔使具店に来訪でもしたら、これはとんでもない騒ぎになるだろう。そしてその責任の一端を、ボクが背負わなくてはならなくなる。
「冗談だよ、冗談。しかし旦那がこれほど慌てるって事は、話半分だとしても相当な奴らしいな、その店主ってのは」
あ~、ゲルドーシュにもからかわれてるんだボク……。本当にこいつが、ガドゼラン魔使具店に来るわけないよな。確かにボクは冷静さを欠いているようだ。
その後もガドゼラン魔使具店の話で盛り上がったが、明日に備えて就寝となる。今より下層の未踏破部分は、どうなのだろうか。やはりこれまでと同様なのか、それとも何か新しい発見があるのか。
ただ心のどこかで、何かが引っかかっているような気がする。もちろん、これといった根拠があるわけではない。しかし何重にも張り巡らされた思惑の中を、それと気づかず漂っているのではないかといぶかりながら、ボクはダンジョン初晩の眠りについた。
一つはあちら側に何かが隠されているというもの。単純に宝箱の類か、逆に呪いのアイテムでも封印されているのか、とにかくその先には、行って欲しくはないという場合である。
もう一つは、向こう側からこちら側へ何かが出てくるのを防いでいる場合だ。恐ろしい魔物か、はたまた毒霧の類か、そうでなければ誰かを閉じ込めているのかも知れない。
当然、ゼットツ州お抱えのパーティーも調査はしたはずだ。彼らの面子もあるし、何より都市計画に遅れが出れば、役人たちの評価にも直結してしまう。それで尚、わからないというのはどうも解せないなぁ。何かの意図を感じずにはいられない。
「リンシードさん、お約束の”あれ”いいですか?」
後ろからザレドスが、声をかけてきた。今は休息時なので呼び方も普段通りに戻る。まぁ、そこら辺の融通は時と場合にもよるので、各メンバーの阿吽の呼吸とはなるのだが。
「あぁ、すいません。魔使具ですね。いま出します」
ザレドスがいたく気にしている”ガドゼラン魔使具店製”のアイテムを見せる約束をしていたのを、うっかり失念していた。
「いゃ~、すみませんねぇ。そもそもガドゼラン製の魔使具自体、持っている人が余りいない、というか私はあなた以外に出会った事がないもんでしてね」
細工師の顔はほころび、子供のように無邪気な表情となっている。仕事熱心なのか、純粋に個人の興味なのかはわからないが、ある意味パーティーの中で一番落ち着いた存在と言える彼とは思えぬ、浮ついた表情が印象的だ。
彼の期待に応えるべく、ボクは今回の探索に携行して来た魔使具を披露する。
「ほぉ、これが」
子供が待望のおもちゃを買ってもらった時のような顔つきで、差し出し出された魔使具を検分するザレドス。
「すいません。厚かましいようでなんですが、魔力波の相性を測定してもよろしいですか?」
ザレドスが測定器具を持ってこちらを見つめる。もう、計る気まんまんじゃん……。
「え、えぇ、いいですよ。今回の探索、ザレドスさんにはお世話になりっぱなしですし」
下手に断って気まずくなるのも困るので、ここはリーダーとしての器量を見せねばなるまいて。
「それでは!」
彼はボクと魔使具のシンクロ率を測定し始める。ボク個人の魔力波の周波数と魔使具のシンクロ率が高いほど、それは魔使具職人の腕が良いという事になるわけだ。
「これは、凄い。驚異的な高シンクロ率ですよ。しかもこれらの魔使具は、射光機のような単純なものじゃない。それをここまでピッタリに合わせられるとは……。いや、噂にたがわぬ腕前ですな、その魔使具職人は」
おーい、ヴァロンゼの旦那、褒められてるよ~。今頃、くしゃみをしているかな。まぁ、帰ったらこの事を話してみるか。もっとも”どこの誰かもわからん奴に褒められても、嬉しくもなんともないわい”とか、言うんだろうなぁ。
「お邪魔します。一体何の騒ぎですの?」
普段は冷静なザレドスの歓喜の声を聞きつけて、ポピッカが参戦する。
「え! これが”あの”ガドゼラン魔使具店の……!」
くつろいだコスチュームの僧侶が叫ぶ。
あ~、何か嫌な予感がする。
「ガドゼラン魔使具店をご存じで?」
ボクは恐る恐る尋ねてみる。
「そりゃ、知る人ぞ知る存在ですもの。魔使具の性能や調整の腕はもちろんの事、凄まじい店主がいるって話ですわよね」
「凄まじいと言うと……」
ある程度の予想はつくものの、ボクはあえて聞いてみた。
「私が聞いた話ですと、街にオークの強盗団が押し寄せた時、まず、いの一番にガドゼラン魔使具店に乱入したらしいのですが、そこの主人の一喝に皆一斉に土下座をして退散したらしいですわね」
ポピッカが、さも真実であるかのように語る。
「いや……、それはないです。私は長年、その町の近くに住んでいますが、そもそもオークが乱入した事なんてないですし、魔使具店のオヤジさんは”ただの”人間ですので有り得ませんよ」
常識で考えてくれと言いたくもなったが、噂というのはそういった観念を越えて尾ひれがつくものらしい。
「あら、そうですの……」
どこか残念そうなポピッカ。
「あぁ、そんな猛者がいるのなら、是非一度手合わせ願いてぇな!」
いつの間にか話の輪に入っていたゲルドーシュが、しゃしゃり出る。
「だから、ちがうって!」
ボクは必死になって否定する。もし万が一、この話を信じたゲルドーシュがガドゼラン魔使具店に来訪でもしたら、これはとんでもない騒ぎになるだろう。そしてその責任の一端を、ボクが背負わなくてはならなくなる。
「冗談だよ、冗談。しかし旦那がこれほど慌てるって事は、話半分だとしても相当な奴らしいな、その店主ってのは」
あ~、ゲルドーシュにもからかわれてるんだボク……。本当にこいつが、ガドゼラン魔使具店に来るわけないよな。確かにボクは冷静さを欠いているようだ。
その後もガドゼラン魔使具店の話で盛り上がったが、明日に備えて就寝となる。今より下層の未踏破部分は、どうなのだろうか。やはりこれまでと同様なのか、それとも何か新しい発見があるのか。
ただ心のどこかで、何かが引っかかっているような気がする。もちろん、これといった根拠があるわけではない。しかし何重にも張り巡らされた思惑の中を、それと気づかず漂っているのではないかといぶかりながら、ボクはダンジョン初晩の眠りについた。
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