よろず魔法使いの日記帳 【第一部 ダンジョンの謎】

藻ノかたり

文字の大きさ
上 下
29 / 115

ガドゼランの噂

しおりを挟む
とりあえず頭に浮かぶ理由は二つ。

一つはあちら側に何かが隠されているというもの。単純に宝箱の類か、逆に呪いのアイテムでも封印されているのか、とにかくその先には、行って欲しくはないという場合である。

もう一つは、向こう側からこちら側へ何かが出てくるのを防いでいる場合だ。恐ろしい魔物か、はたまた毒霧の類か、そうでなければ誰かを閉じ込めているのかも知れない。

当然、ゼットツ州お抱えのパーティーも調査はしたはずだ。彼らの面子もあるし、何より都市計画に遅れが出れば、役人たちの評価にも直結してしまう。それで尚、わからないというのはどうも解せないなぁ。何かの意図を感じずにはいられない。

「リンシードさん、お約束の”あれ”いいですか?」

後ろからザレドスが、声をかけてきた。今は休息時なので呼び方も普段通りに戻る。まぁ、そこら辺の融通は時と場合にもよるので、各メンバーの阿吽の呼吸とはなるのだが。

「あぁ、すいません。魔使具ですね。いま出します」

ザレドスがいたく気にしている”ガドゼラン魔使具店製”のアイテムを見せる約束をしていたのを、うっかり失念していた。

「いゃ~、すみませんねぇ。そもそもガドゼラン製の魔使具自体、持っている人が余りいない、というか私はあなた以外に出会った事がないもんでしてね」

細工師の顔はほころび、子供のように無邪気な表情となっている。仕事熱心なのか、純粋に個人の興味なのかはわからないが、ある意味パーティーの中で一番落ち着いた存在と言える彼とは思えぬ、浮ついた表情が印象的だ。

彼の期待に応えるべく、ボクは今回の探索に携行して来た魔使具を披露する。

「ほぉ、これが」

子供が待望のおもちゃを買ってもらった時のような顔つきで、差し出し出された魔使具を検分するザレドス。

「すいません。厚かましいようでなんですが、魔力波の相性を測定してもよろしいですか?」

ザレドスが測定器具を持ってこちらを見つめる。もう、計る気まんまんじゃん……。

「え、えぇ、いいですよ。今回の探索、ザレドスさんにはお世話になりっぱなしですし」

下手に断って気まずくなるのも困るので、ここはリーダーとしての器量を見せねばなるまいて。

「それでは!」

彼はボクと魔使具のシンクロ率を測定し始める。ボク個人の魔力波の周波数と魔使具のシンクロ率が高いほど、それは魔使具職人の腕が良いという事になるわけだ。

「これは、凄い。驚異的な高シンクロ率ですよ。しかもこれらの魔使具は、射光機のような単純なものじゃない。それをここまでピッタリに合わせられるとは……。いや、噂にたがわぬ腕前ですな、その魔使具職人は」

おーい、ヴァロンゼの旦那、褒められてるよ~。今頃、くしゃみをしているかな。まぁ、帰ったらこの事を話してみるか。もっとも”どこの誰かもわからん奴に褒められても、嬉しくもなんともないわい”とか、言うんだろうなぁ。

「お邪魔します。一体何の騒ぎですの?」

普段は冷静なザレドスの歓喜の声を聞きつけて、ポピッカが参戦する。

「え! これが”あの”ガドゼラン魔使具店の……!」

くつろいだコスチュームの僧侶が叫ぶ。

あ~、何か嫌な予感がする。

「ガドゼラン魔使具店をご存じで?」

ボクは恐る恐る尋ねてみる。

「そりゃ、知る人ぞ知る存在ですもの。魔使具の性能や調整の腕はもちろんの事、凄まじい店主がいるって話ですわよね」

「凄まじいと言うと……」

ある程度の予想はつくものの、ボクはあえて聞いてみた。

「私が聞いた話ですと、街にオークの強盗団が押し寄せた時、まず、いの一番にガドゼラン魔使具店に乱入したらしいのですが、そこの主人の一喝に皆一斉に土下座をして退散したらしいですわね」

ポピッカが、さも真実であるかのように語る。

「いや……、それはないです。私は長年、その町の近くに住んでいますが、そもそもオークが乱入した事なんてないですし、魔使具店のオヤジさんは”ただの”人間ですので有り得ませんよ」

常識で考えてくれと言いたくもなったが、噂というのはそういった観念を越えて尾ひれがつくものらしい。

「あら、そうですの……」

どこか残念そうなポピッカ。

「あぁ、そんな猛者がいるのなら、是非一度手合わせ願いてぇな!」

いつの間にか話の輪に入っていたゲルドーシュが、しゃしゃり出る。

「だから、ちがうって!」

ボクは必死になって否定する。もし万が一、この話を信じたゲルドーシュがガドゼラン魔使具店に来訪でもしたら、これはとんでもない騒ぎになるだろう。そしてその責任の一端を、ボクが背負わなくてはならなくなる。

「冗談だよ、冗談。しかし旦那がこれほど慌てるって事は、話半分だとしても相当な奴らしいな、その店主ってのは」

あ~、ゲルドーシュにもからかわれてるんだボク……。本当にこいつが、ガドゼラン魔使具店に来るわけないよな。確かにボクは冷静さを欠いているようだ。

その後もガドゼラン魔使具店の話で盛り上がったが、明日に備えて就寝となる。今より下層の未踏破部分は、どうなのだろうか。やはりこれまでと同様なのか、それとも何か新しい発見があるのか。

ただ心のどこかで、何かが引っかかっているような気がする。もちろん、これといった根拠があるわけではない。しかし何重にも張り巡らされた思惑の中を、それと気づかず漂っているのではないかといぶかりながら、ボクはダンジョン初晩の眠りについた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

妹が真の聖女だったので、偽りの聖女である私は追放されました。でも、聖女の役目はものすごく退屈だったので、最高に嬉しいです【完結】

小平ニコ
ファンタジー
「お姉様、よくも私から夢を奪ってくれたわね。絶対に許さない」  私の妹――シャノーラはそう言うと、計略を巡らし、私から聖女の座を奪った。……でも、私は最高に良い気分だった。だって私、もともと聖女なんかになりたくなかったから。  退職金を貰い、大喜びで国を出た私は、『真の聖女』として国を守る立場になったシャノーラのことを思った。……あの子、聖女になって、一日の休みもなく国を守るのがどれだけ大変なことか、ちゃんと分かってるのかしら?  案の定、シャノーラはよく理解していなかった。  聖女として役目を果たしていくのが、とてつもなく困難な道であることを……

二度目の転生は傍若無人に~元勇者ですが二度目『も』クズ貴族に囲まれていてイラッとしたのでチート無双します~

K1-M
ファンタジー
元日本人の俺は転生勇者として異世界で魔王との戦闘の果てに仲間の裏切りにより命を落とす。 次に目を覚ますと再び赤ちゃんになり二度目の転生をしていた。 生まれた先は下級貴族の五男坊。周りは貴族至上主義、人間族至上主義のクズばかり。 …決めた。最悪、この国をぶっ壊す覚悟で元勇者の力を使おう…と。 ※『小説家になろう』様、『カクヨム』様にも掲載しています。

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

転生前のチュートリアルで異世界最強になりました。 準備し過ぎて第二の人生はイージーモードです!

小川悟
ファンタジー
いじめやパワハラなどの理不尽な人生から、現実逃避するように寝る間を惜しんでゲーム三昧に明け暮れた33歳の男がある日死んでしまう。 しかし異世界転生の候補に選ばれたが、チートはくれないと転生の案内女性に言われる。 チートの代わりに異世界転生の為の研修施設で3ヶ月の研修が受けられるという。 研修施設はスキルの取得が比較的簡単に取得できると言われるが、3ヶ月という短期間で何が出来るのか……。 ボーナススキルで鑑定とアイテムボックスを貰い、適性の設定を始めると時間がないと、研修施設に放り込まれてしまう。 新たな人生を生き残るため、3ヶ月必死に研修施設で訓練に明け暮れる。 しかし3ヶ月を過ぎても、1年が過ぎても、10年過ぎても転生されない。 もしかしてゲームやりすぎで死んだ為の無間地獄かもと不安になりながらも、必死に訓練に励んでいた。 実は案内女性の手違いで、転生手続きがされていないとは思いもしなかった。 結局、研修が15年過ぎた頃、不意に転生の案内が来る。 すでにエンシェントドラゴンを倒すほどのチート野郎になっていた男は、異世界を普通に楽しむことに全力を尽くす。 主人公は優柔不断で出て来るキャラは問題児が多いです。

【完結】元婚約者であって家族ではありません。もう赤の他人なんですよ?

つくも茄子
ファンタジー
私、ヘスティア・スタンリー公爵令嬢は今日長年の婚約者であったヴィラン・ヤルコポル伯爵子息と婚約解消をいたしました。理由?相手の不貞行為です。婿入りの分際で愛人を連れ込もうとしたのですから当然です。幼馴染で家族同然だった相手に裏切られてショックだというのに相手は斜め上の思考回路。は!?自分が次期公爵?何の冗談です?家から出て行かない?ここは私の家です!貴男はもう赤の他人なんです! 文句があるなら法廷で決着をつけようではありませんか! 結果は当然、公爵家の圧勝。ヤルコポル伯爵家は御家断絶で一家離散。主犯のヴィランは怪しい研究施設でモルモットとしいて短い生涯を終える……はずでした。なのに何故か薬の副作用で強靭化してしまった。化け物のような『力』を手にしたヴィランは王都を襲い私達一家もそのまま儚く……にはならなかった。 目を覚ましたら幼い自分の姿が……。 何故か十二歳に巻き戻っていたのです。 最悪な未来を回避するためにヴィランとの婚約解消を!と拳を握りしめるものの婚約は継続。仕方なくヴィランの再教育を伯爵家に依頼する事に。 そこから新たな事実が出てくるのですが……本当に婚約は解消できるのでしょうか? 他サイトにも公開中。

イレーヌ

青葉めいこ
恋愛
魔族に祖国を侵略され家族を殺されたイレーヌ。唯一残された産んだばかりの息子は身を寄せたゼドゥ国の王妃に奪われた。 十八年後、イレーヌは魔族と戦い重傷を負った息子ウィルと再会した。彼女の看護により回復した彼は再び魔族と戦おうとする。そんなウィルをとめるためイレーヌは全てを話す決意をする。 「身代わりで愛されても意味がない」 「私が私である事まで、あなたにも誰にも奪わせない!」 小説家になろうにも投稿しました。 完結しました。

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

処理中です...