よろず魔法使いの日記帳 【第一部 ダンジョンの謎】

藻ノかたり

文字の大きさ
上 下
27 / 115

最初の晩餐

しおりを挟む
「やはりお二人もそう考えていたわけですのね。まぁ、誰が見ても不自然に多くの未踏破部分がありますからね。何かの意図があると考えるのが普通ですわ。普通でない人も、いるみたいですけれど」

ボクとザレドスの話に、ポピッカが割って入ってきた。

「悪かったな。普通でなくて」

ゲルドーシュが、ヘソを曲げる。

「ただ、私たちが気づいているのですから、役所のほうでも当然気づいているはずです。それを何故放置しているのか……」

ザレドスが疑問を呈する。

「そうですねぇ。可能性としては、気づいてはいるものの大した事ではないと思っているのか、あえて放っているのか、まぁ色々と考える事は出来るけど」

前を歩きながら、ボクは中衛のザレドスに言った。

「お役人なんて自分の責任になる事は敢えて手を付けないものですわ。下手に言い出せばヤブ蛇という事になりかねませんものね」

うん、こうなってみるとボクもポピッカの意見に賛成だ。ただ責任逃れの放置であったとしても、それを見越して誰かが利用している可能性はあるのではないか。

「いづれにせよ、今それを論じても結論は出ないし、ザレドスの言う通り出来るだけ急いで未踏破部分を片付けてしまおう」

ボクはリーダーらしくメンバーに檄を飛ばし、一同がそれぞれに応じる。このパーティーもそれなりにまとまりを持ってきたようだ。呑んだくれ戦士と、気難しい僧侶の間はともかくとして。


その後も探索は相変わらず順調に続く。ダンジョンの遠くの方から何がしかの鳴き声のような音が聞こえてはきたが、その主がボクたちの前に現れる事はなく、パーティーは未踏破部分を次々と制覇していった。

事前に渡された資料によれば、このダンジョンは地上一階地下8階の比較的浅い迷宮である。時代的にもそれほど古いものではない。故に痛みも少なく探索もしやすい。おまけに敵が出現しないともなれば、これは大変楽な仕事となろう。

もちろん最深部の謎の一件はあるものの、少なくともそれまでは何の支障もなく過ごせそうである。未だ手掛かりになるようなものは何ひとつ得られていないのは気にかかるが、皆あえてその事には触れないようにしている。

地下2階を制覇し終えたところで表では夕闇迫る時刻となった。ボクたちは予定通り、結界を張った安全地帯であるベースキャンプへと入る。

そこはダンジョン内部にある大き目の袋小路を利用した一角で、約6メートル四方の空間だ。壁がない部分にはかなり強力な結界が張ってあり、外からの侵入者を妨げるようになっていた。

中へ入るには、呪文とアイテムの両方が必要となる。ザレドスが州兵の隊長から預かっていたカード型の魔使具のスイッチを入れ、教えられていた呪文を唱えると、結界の一部にゲートが現れて中へと入る事が出来た。

「おぉっ! こりゃ思っていたより快適そうだぞ」

ゲルドーシュが、子供のようにはしゃぐ。

結界の中には簡易ベッドが数台と食料の入った保存庫があり、もちろんそこには保存魔法が掛かっている。また少し離れた場所にはマジックエッセンスが詰め込まれたタンクも設置されていて、様々な魔使具に対応したアタッチメントが装備されていた。

他には折り畳みの机や椅子、食器の類にチョットしたゲーム等々、数人が一晩滞在するのに十分な環境が整っている。

「さぁて、まずは飯だ飯!」

ゲルドーシュが、保存庫のドアに手をかける。

「ちょーっと、待ったぁ!」

ボクは慌てて、食い気に走る戦士を引き留めた。あいつに食事の差配をさせたら、一人で保存庫のもの全部を食っちまう可能性が大である。

「食事の準備はボクとポピッカさんがするよ。ここまでは君とザレドスさんが、大いに仕事をしてくれたからね。まぁ、まかせておいてくれ」

ポピッカの同意を得る前に口走ってしまった事を少し後悔したが、フードを頭から外し背中へ下した僧侶は、何も言わず素直に従った。

ボクとポピッカは保存庫の中身を確認し、パーティー揃って初めてとる夕食の用意を始める。意外だったのは、彼女が実にテキパキと要領よく食事の準備をしていった事である。ボクはといえば、ポピッカの指示に従い簡易テーブルを用意したり食器を並べたりと、彼女の小間使いとして大いに”こき使われた”のだった。

これは一朝一夕で出来る事ではない。彼女は普段から、こういった事をしているのだろう。

でも、ちょっと不思議だよなぁ。フォラシム教について詳しいわけではないけれど、神父である彼女がこういった事をいつもしているとは思えない。神父は司祭としての役割をも担う、現場レベルでは最高位の役職だ。むしろこういった事が得意な下位の者たちに、かしずかれる立場にいるはずである。

そんな疑問を抱いている内に、記念すべき”最初の晩餐”が始まった。食料は圧縮魔法がかけられた上で保存庫に蓄えられているので、実際の量としてはかなりある事になる。そのため簡易的な食事といっても、テーブルには多くのごちそうが並ぶ事となった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

貧弱の英雄

カタナヅキ
ファンタジー
この世界では誰もが生まれた時から「異能」と「レベル」呼ばれる能力を身に付けており、人々はレベルを上げて自分の能力を磨き、それに適した職業に就くのが当たり前だった。しかし、山奥で捨てられていたところを狩人に拾われ、後に「ナイ」と名付けられた少年は「貧弱」という異能の中でも異質な能力を身に付けていた。 貧弱の能力の効果は日付が変更される度に強制的にレベルがリセットされてしまい、生まれた時からナイは「レベル1」だった。どれだけ努力してレベルを上げようと日付変わる度にレベル1に戻ってしまい、レベルで上がった分の能力が低下してしまう。 自分の貧弱の技能に悲観する彼だったが、ある時にレベルを上昇させるときに身に付ける「SP」の存在を知る。これを使用すれば「技能」と呼ばれる様々な技術を身に付ける事を知り、レベルが毎日のようにリセットされる事を逆に利用して彼はSPを溜めて数々の技能を身に付け、落ちこぼれと呼んだ者達を見返すため、底辺から成り上がる―― ※修正要請のコメントは対処後に削除します。

2回目の人生は異世界で

黒ハット
ファンタジー
増田信也は初めてのデートの待ち合わせ場所に行く途中ペットの子犬を抱いて横断歩道を信号が青で渡っていた時に大型トラックが暴走して来てトラックに跳ね飛ばされて内臓が破裂して即死したはずだが、気が付くとそこは見知らぬ異世界の遺跡の中で、何故かペットの柴犬と異世界に生き返った。2日目の人生は異世界で生きる事になった

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

生活魔法は万能です

浜柔
ファンタジー
 生活魔法は万能だ。何でもできる。だけど何にもできない。  それは何も特別なものではないから。人が歩いたり走ったりしても誰も不思議に思わないだろう。そんな魔法。  ――そしてそんな魔法が人より少し上手く使えるだけのぼくは今日、旅に出る。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!

仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。 しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。 そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。 一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった! これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!

処理中です...