よろず魔法使いの日記帳 【第一部 ダンジョンの謎】

藻ノかたり

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戦士ゲルドーシュ

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ただ州政府の方にも色々と思惑はあるのだろうが、こちらがそれに従う義理はない。あくまで依頼をこなせばそれで良いのである。とういう事で、ボクは早々にザレドスの部屋を訪ねて自分の知り得た情報を伝えた。

その後、二人で施設内をあれこれと散策する。其処此処にスタッフの眼が光っているのを感じたが、ある意味ボクたちの行為は”あなたたちの思惑通りにはなりませんよ”という意思表示にもなり得るものだ。ケンカを売るつもりはないけれど、部外者はとかく舐められがちになる事をボクは長年の経験から学び取っている。それに対する牽制の意味もあるというわけだ

一通り歩いた末、ザレドスとラウンジでお茶を飲みながら魔使具談議に花を咲かせていると、かなり離れたところを如何にも役人風の人間と一緒に歩く大柄な男が目に入った。あぁ、多分あれがパーティーの”戦士”を受け持つ奴なんだろうな。

ところがその大男、こちらに気が付いたのかピタリと歩みを止めた。それどころか役人が止めるのも聞かず、ツカツカとこちらへと歩み寄って来る。その大柄な体とゴッツイ顔の為に”突進してくる”と言っても良い勢いを感じてしまう程である。

「よぉ~、誰かと思えばリンシードの旦那じゃねぇか! 奇遇だねぇ。あんたも今回呼ばれたクチかい!?」

爆弾が炸裂したような大声を発しながら迫りくる男、ボクはハッと気が付いた。

「あぁ、ゲルドーシュ! 久しぶり」

ボクは幸運と不運をいっぺんに覚えるような不思議な感覚に襲われた。彼は生粋の戦士であるが、問題大ありの人物なのだ。

いや、決して悪い奴というわけではない。むしろ屈託がなく正義感の強い頼もしい男だといって良いし、実力も折り紙付きである。一対一の格闘限定の試合であれば、こちらが近距離攻撃用魔使具及び身体強化魔法をフルに使った場合でも、ボクは3本に2本は取られてしまうだろう。

ただその分、こだわりも強く周囲とぶつかる事が多い。実際、彼と組んで仕事をした時は、パーティー崩壊寸前までいった事が一度や二度ではないと記憶している。州政府としては、そういう所は吟味していないのかな。

まぁ、唯一の救いは、ボクが彼の操縦法をそこそこ身につけている事だろうか。そして、彼がそれを受け入れるだけの信頼関係も築けている……つもりだ。うーん、でもやっぱり不安の方が大きいなぁ。

「ちょっと、困ります!こちらについてきて下さい」

慌てて追いかけてきた役人に”おとなしく”引っ張られていくゲルドーシュ。

「おう、じゃまたあとでな。再会を祝して大いに乾杯しよう!」

大柄な戦士は、屈託のない笑顔で上り階段の方へ消えていった。

”へぇ、珍しいな”と、ボクは思った。普通なら役人の制止など屁とも思わず、我を通す男のはずなのに……。

それによく考えれば、今回の依頼で彼の本領が発揮される場面などあるのか疑問である。ゲルドーシュは手練れの戦士だ。殆ど踏破済みのダンジョン探索依頼など、ロクな敵がいない状況では幾ら報酬が良いとはいえ、血気にあふれる彼の方から断るのではないだろうか。

「やはり、何らかの事情で報酬に魅力を感じたのではないですかねぇ」

疑問を口にしたボクに、ザレドスがつぶやく。

まぁ、確かに今回の報酬は依頼内容に照らせば破格といって良いだろう。ボクとしては、彼が”大人”になったと思いたいところだが、それはまずあるまい。しかしゲルドーシュが戦士としての矜持より報酬を選んだのならば、それは余程の理由があるに違いない。

「私の場合も、ほら、ビークルの中でお話しした犯罪に手を染めてしまった魔使具職人なのですが、彼は私の古い友人でしてね。商売が上手く行かずお金に困っているのを知っていたのに、恥ずかしながら私には何もできなかった。だから彼が刑期を終えて戻ってくるまで、せめて残された家族を援助したいと思って今回の依頼に飛びついたのですよ」

沈痛な面持ちの細工師が、冷めたお茶を一気に飲み干す。それをきっかけに歓談はお開きとなり、各々自室へと戻っていった。

ソファに身を委ねながら、ボクは考える。今回の依頼、ボクが仕入れた情報通り、本当に州政府内のしがらみの結果、簡単な依頼に高額な報酬がついているのだろうか。もしかしたらボクの得た情報自体、州政府が流したものであり、ボクはまんまと彼らの思惑通りの考え方に囚われているのでないだろうか。

そんな事を考えているうちに、ついウトウトとしてしまい、ボクの意識は白い霧に包まれていった。
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