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細工師ザレドス

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車内での代わり映えしない具合の中、どちらからともなく、ボクとザレドスは言葉を交わすようになった。当初の推測通り、かなりの場数を踏んだ老獪な細工師であり、様々な知識を持ち合わせている事もわかった。

また大変意外だったのは、彼が”ガドゼラン魔使具店”の存在を知っていた事である。知っているとは言っても直接来店した事はなく、あくまで仲間内での噂の類ではあるのだが、その内容は当たらずとも遠からずであり、”魔法使い泣かせの途轍もない頑固で狂暴な職人がいる”という、知っている者としてはウンウンと頷くしかない内容であった。

また、ボクがガドゼラン製の魔使具を持っていると知るや大変な興味を示し、圧縮魔法を解いた後にはそれらを見せる約束までした。魔使具職人と細工師、相通ずるところがあるのだろう。そしてボクが”あの”頑固オヤジとそれなりに上手くやっている事がわかると、ますます身を乗り出してあれこれと質問攻めにしてきたのだが、何か理解者が出来たような気持になりマンザラ悪い気はしなかった。

「ところでリンシードさん。魔使具と言えば、最近、違法な製品がかなり流通しているという話をご存じですか」

ザレドスが切り出す。

「一部の経営が傾いている魔使具屋や、そうではないが、違法を承知で金儲けを企んでいる輩がからんでいるようなのですよ」

彼の表情は曇り、どんよりとした溜息をついた。

「えぇ、噂には聞いた事があります。ただ、ボクのまわりでは実際にそういう者を見た事がないし、具体的な話も出ませんねぇ」

確かにそういう話はある。しかしボクの住んでいるノルオイック州は大陸の中でも治安が良い地方だし、まわりの州も州境近辺の治安に問題はない。そういった事もあり、違法な魔使具はまだ出回っていないし、それを使った犯罪も起こってはいないようだった。

「ところがですね、治安の悪い大陸の北の方から、密売組織が着々と南の方へ手を伸ばして来ているらしいのですよ。もちろん、いきなり正面切ってやって来るわけではありません。

今もお話ししたように、問題を抱えた一部の魔使具屋に、最初はそれと知らせないまま違法な魔使具を作らせるんです。挙句、それらを使い犯罪を犯した後に、自らの正体を打ち明ける。”お前の作った魔使具が犯罪に使われた。もう後戻りはできないぞ”と、手を引けなくするわけですな。

ですから、最初は余り表ざたにはなりません。しかし気が付いた時には、その地方に違法魔使具が蔓延している状態になってしまうのですよ。本当に恐ろしい話です。

実は私の見知っている魔使具屋も言葉巧みに引き込まれてしまいましてね。違法魔使具を使う盗賊団の摘発と共に捕縛されました。決して元からの悪党ってわけじゃなかったんですがねぇ……」

職業柄、ザレドスが魔使具に関わっているのは理解できる。魔使具屋ともそれなり以上の付き合いがあるのだろう。彼にとって、この問題は他人事ではないのである。

「あと10分程で、到着します。準備をお願いします」

重苦しい空気が漂い始めた中、同行の役人が声をかけてきた。

役人の一言がこれほど有り難いと思ったのは、長い人生の中で初めてではないだろうか。ボクはそんな事を考えながら降車の支度をした。

ビークルを降りると、意外な事に気が付いた。そこはどちらかといえば閑散とした街中であり、少なくとも州庁舎が存在する中央都市の雰囲気ではなかったのである。

「どうやら、中心街というわけではなさそうですな」

ザレドスも不審な表情で、辺りをキョロキョロと見回す。

ボクも少し驚いたが、すぐに見当がついた。ボクたちは州政府お抱えのパーティが探索しきれないダンジョンを踏破するという、いわば”後始末”というか”尻ぬぐい”をする為に呼ばれたメンバーなのだ。そんな者たちが州庁舎の表玄関から意気揚々と入場したのでは、様々な所でいらぬ波紋を呼び起こすのだろう。

ただしこの情報はボクが独自のルートで仕入れたものであり、ザレドスが知らないのも無理はない。まぁ、役所らしいと言えば役所らしい対応ではあるのだが……。

役人の案内で比較的大きな建物に入る。どうやら州の保養施設のようで、明らかに民間の宿泊施設とは雰囲気が違う。当然の事ながら、スタッフをはじめ出入りの業者なども州政府の息が掛かった連中なのであろう。都合の悪い秘密を守るには、もってこいの場所だと言える。

「私たちが一番乗りのようです。お二人は案内係についていって、それぞれの部屋にお入りください。依頼についての説明は夕食後に行われますので、申し訳ありませんが、それまでは建物の外には出ないようお願い致します」

杓子定規というか、どこなく命令口調というか、そんな役人らしい対応が続く。

ここでも予想外の展開が少しあった。他に客がいるようにも見えないのだが、ボクとザレドスの部屋はかなり離れた位置関係にあり、気楽に行き来できるようにはなっていない。うがった見方をすれば、パーティーメンバー同士が、いらぬ情報共有をする事を避けているようにも思えてしまう。

”そこまで神経を使うかね”と、思ってはみたものの、役所内の色々なしがらみや事情もあるのだろう。ボクたち招集された者たちは実力こそ認められているのだろうが、信用問題という観点から言えば、どこの馬の骨ともわからない連中という事になるのであろうから。
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