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健康診断と古文書解析
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翌日は午前中に健康診断へ赴く。近くダンジョン探索の仕事が入っているからだ。こういった危険が伴う仕事の場合、ケガなどをすればギルドの労災保険が使える事になっている。ただし本当にギルド経由の仕事でケガをした事を証明するため、依頼実行前の一週間以内に、ギルド指定の医療機関で健康診断を受ける必要があった。
ボクの仕事の半分は何らかの危険を伴うものなので、顔なじみとなった医療機関へいつも通りに来院する。
「ふーん、今度はダンジョンだって? 危険な部類なのかい」
かかりつけの老ドクターが、カルテを書きながら尋ねる。
「そこそこですかねぇ。ま、行ってみなけりゃわからないって類の、準・未踏破ダンジョンですよ。もっともそれほど奥地にあるわけじゃないんで、とんでもなく危険な魔物がいるとは思えませんけどね」
ボクは診察の為に脱いでいた服を着る。脱ぎやすいように軽装で来院したが、それにはしっかりと防寒の魔法をかけてある。
「今まであんたが保険を使うようなケガをしてきた事は余りないけどさ。気をつけてくれよ。もし万が一の事があって、死亡確認の書類を書かされでもしたら良い気持のものではないからね」
医師のペンが、カリカリと音を奏でる。
「へぇ、心配してくれるんですか?」
「あぁ、なにせ今、五カ月連続で冒険者の死亡確認書を書いていないんだ。つまり縁起のいい医者ってわけさ。だけど、もしここでお前さんに死なれでもしたら、せっかくの記録が途切れてしまうからの」
冗談めかして老医師が笑う。
「なーんだ。ご自身の記録の為ですか。まぁ、お年寄りにはそれくらいしか、楽しみがないのかも知れませんけどね」
ボクも負けずに笑って返す。
二人で大笑いをしていると、少し離れたところにいる古株の看護師が物凄い怖い顔をして”お静かに!”とこちらを睨みつけたので、両者そろって何べんも頭を下げた。周りの患者たちもクスクスと笑う。
医療院を出たボクはその足でギルドへ行って診断書を提出し、ダンジョン探索依頼の最終確認書を受け取った。これで準備の半分は終りである。あとは依頼内容の最終的な把握と、ガドゼラン魔使具店に注文した商品が出来上がるのを待つばかりだ。
翌日は王立図書館の分室で、古文書の解読作業をする。ひとくちに古文書と言っても時代には大きな開きがあるものも多く、ボクが担当したのはかなり古い時代に関する書物であった。こういった古い文献の解読はあまり人気のない仕事なもので、常に人手不足が付きまとう。よってそちらに明るい人材は、かなり重宝されるのだ。
時代が古い書物だと、そもそも何について書かれたものなのか不明な場合が多い。よって大雑把な分類から始める必要があり大変だ。この作業は、ボクの他に三人ばかりが携わり、一人は分室づきの老学者、もう一人は本部から派遣されて来た中年の専門家、最後の一人はフリーの翻訳家であった。
ただ、ボクを含め皆が古文書を解読する力はあるものの、それぞれが違う立場で仕事をしているのでぶつかる事が多い。悪意はないのだが、仕事に対する考え方が違うのだ。まぁ、ボクなどは魔法仕事の片手間に解読の依頼も受けるといった具合なので、他の連中とは違い解読に対するプライドやポリシーは特にない。そういった関係上、彼らの仲裁をするのはいつもボクの役目であった。
苦労が多い割に実入りの少ない仕事ではあるが、クライアントが公の場合はそんなものであろう。役に立つかどうかわからない古文書の解読に、税金をバンバン投入するわけにも行かない事は理解できる。しかし様々な知識が身につく上に、仕事終わりに酒場で勃発する彼らとの議論が面白い。これは他の仕事の際にも思わぬ役に立つ事があるので、余りに忙しい時以外は必ず依頼を受けるようにしているのだ。
こちらの期待通り、ファレイパスタを食べながらの今日の議論も大いに白熱し、ボクが密かにカームダウンの魔法を使わなければ掴み合いのケンカになるところであった。知識欲も食欲も、目いっぱいの満足を得た一日となる。
ボクの仕事の半分は何らかの危険を伴うものなので、顔なじみとなった医療機関へいつも通りに来院する。
「ふーん、今度はダンジョンだって? 危険な部類なのかい」
かかりつけの老ドクターが、カルテを書きながら尋ねる。
「そこそこですかねぇ。ま、行ってみなけりゃわからないって類の、準・未踏破ダンジョンですよ。もっともそれほど奥地にあるわけじゃないんで、とんでもなく危険な魔物がいるとは思えませんけどね」
ボクは診察の為に脱いでいた服を着る。脱ぎやすいように軽装で来院したが、それにはしっかりと防寒の魔法をかけてある。
「今まであんたが保険を使うようなケガをしてきた事は余りないけどさ。気をつけてくれよ。もし万が一の事があって、死亡確認の書類を書かされでもしたら良い気持のものではないからね」
医師のペンが、カリカリと音を奏でる。
「へぇ、心配してくれるんですか?」
「あぁ、なにせ今、五カ月連続で冒険者の死亡確認書を書いていないんだ。つまり縁起のいい医者ってわけさ。だけど、もしここでお前さんに死なれでもしたら、せっかくの記録が途切れてしまうからの」
冗談めかして老医師が笑う。
「なーんだ。ご自身の記録の為ですか。まぁ、お年寄りにはそれくらいしか、楽しみがないのかも知れませんけどね」
ボクも負けずに笑って返す。
二人で大笑いをしていると、少し離れたところにいる古株の看護師が物凄い怖い顔をして”お静かに!”とこちらを睨みつけたので、両者そろって何べんも頭を下げた。周りの患者たちもクスクスと笑う。
医療院を出たボクはその足でギルドへ行って診断書を提出し、ダンジョン探索依頼の最終確認書を受け取った。これで準備の半分は終りである。あとは依頼内容の最終的な把握と、ガドゼラン魔使具店に注文した商品が出来上がるのを待つばかりだ。
翌日は王立図書館の分室で、古文書の解読作業をする。ひとくちに古文書と言っても時代には大きな開きがあるものも多く、ボクが担当したのはかなり古い時代に関する書物であった。こういった古い文献の解読はあまり人気のない仕事なもので、常に人手不足が付きまとう。よってそちらに明るい人材は、かなり重宝されるのだ。
時代が古い書物だと、そもそも何について書かれたものなのか不明な場合が多い。よって大雑把な分類から始める必要があり大変だ。この作業は、ボクの他に三人ばかりが携わり、一人は分室づきの老学者、もう一人は本部から派遣されて来た中年の専門家、最後の一人はフリーの翻訳家であった。
ただ、ボクを含め皆が古文書を解読する力はあるものの、それぞれが違う立場で仕事をしているのでぶつかる事が多い。悪意はないのだが、仕事に対する考え方が違うのだ。まぁ、ボクなどは魔法仕事の片手間に解読の依頼も受けるといった具合なので、他の連中とは違い解読に対するプライドやポリシーは特にない。そういった関係上、彼らの仲裁をするのはいつもボクの役目であった。
苦労が多い割に実入りの少ない仕事ではあるが、クライアントが公の場合はそんなものであろう。役に立つかどうかわからない古文書の解読に、税金をバンバン投入するわけにも行かない事は理解できる。しかし様々な知識が身につく上に、仕事終わりに酒場で勃発する彼らとの議論が面白い。これは他の仕事の際にも思わぬ役に立つ事があるので、余りに忙しい時以外は必ず依頼を受けるようにしているのだ。
こちらの期待通り、ファレイパスタを食べながらの今日の議論も大いに白熱し、ボクが密かにカームダウンの魔法を使わなければ掴み合いのケンカになるところであった。知識欲も食欲も、目いっぱいの満足を得た一日となる。
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