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リラス親方の呑み友達
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翌日は大工のリラス親方の所へ赴いて、これまでの仕事の残金を受け取った。
親方は、とても金払いが良い。ギルド経由で仕事をしていた頃はもちろんの事、直接契約をしてからも未払いや出し渋りは一度もなかった。ただし酒豪の彼に時々付き合わねばならないのが、暗黙の了解といえるのだが……。
早速、差し出された袋の中の貨幣を確認する。信じる信じないという事でなく、あくまでも商取引上の慣習だ。
「はい、確かに。また何かあったら、よろしくお願いします、親方」
「あぁ、ぜひ頼むよ。あんたがいると何かと心強いからな……。
ところでよ、小耳にはさんだんだが、ボンゼラン商会に三下り半を叩きつけたんだって? 酒場なんかじゃチョットした噂になってるぜ」
代金の袋をバッグに入れるボクを、繁々と見つめる大工の親方。
あぁ、やっぱり色々と伝わっちゃっているんだなぁ。まぁ、あれだけ啖呵を切ったのだから当たり前と言えば当たり前か。あの場には他の客もいたわけだから、そこから漏れ伝わっても何ら不思議じゃない。
「えぇ、まぁ……」
気のない返事をして誤魔化そうとするが、親方の興味津々といった顔は、ボクをまだ帰してはくれなさそうである。
「いやぁ、あそこは何かと悪い評判もあるところだからな。むしろ、あんたがあそこと契約していること自体が不思議だったんだ。まぁ、様々いきさつもあるんだろう」
酒を飲んでいる時以外はお喋りというわけではない親方が、思いもかけず饒舌になる。
「だけどボンゼランと縁を切るって事は、新しい魔使具屋と契約するって事だろ? 当てはあるのかい」
親方としては、次の仕事の依頼をどうしたものかと考えているのだろう。彼のところでの魔法仕事にも、魔使具を全く使わないというわけではないし、こちらに不備があれば建築作業全体に響いてしまう可能性が大いにある。
「えぇ、実はもう仮契約をしていまして、新しい魔使具が出来次第、調整に行く予定なんですよ」
親方の顔が、パッと明るくなる。
「へぇ、そりゃ手回しがいいねぇ。よければ、どこの魔使具屋か教えてもらえないかい」
親方が仕事を依頼する魔法使いは、ボクだけではない、そことの兼ね合いもあるので魔使具店の名前を聞くのはごく自然な事である。
「ザーレント通りの、ガドゼラン魔使具店です」
ボクは淡々と答える。
「は!? ガドゼランだって? あの超頑固なオッサンが経営している……。なんで、よりにもよってあの店にしたんだよ」
「……えぇっと、何かマズいですかね」
親方の驚きように、ボクはちょっと心配になった。
「マズいも何も、あそこの店主ヴァロンゼは、客泣かせの職人だって知っているのかい? 一般人は全く相手にしないし、魔法使いだって自分が気に入らなきゃ怒鳴り散らす。
もっとも言っている事はパーフェクトそのものだから、完膚なきまでに叩きのめされて泣きながら店を飛び出した魔法使いは、両手の指じゃ足りないって話だぜ」
あぁ、さもありなんて感じだ。でも、ボクはそれほど酷い扱いを受けた覚えはないけどなぁ。
「へぇ……。でも親方、何でそんなに詳しいんです?」
「あぁ、あのオヤジとは、まぁ呑み友達っていうか、妙に馬が合ってな。でもそれを見たお節介共が、何かと俺に”ご注進”ってな具合に言ってくるんだよ」
それは多分、あのオヤジさんに酷い目にあわされた連中なんだろうなぁ。ある事ない事ふきこんで、評判を落とそうって魂胆なんだろう。
「なるほど、頑固モノ同志、類は友を呼ぶってヤツですかね」
ボクは、ちょっとイタズラっぽい目をして軽口をたたく。
「冗談じゃない。あのオヤジに比べたら、俺なんぞ、しおらしい乙女みたいなもんさ」
どこまでが冗談かわからないたとえだが、この人がそこまで言うのなら、本当に折り紙付きの頑固モノなんだろうとボクは思った。
またの再会を約束して、親方の事務所をあとにする。
でも頑固オヤジの名前が”ヴァロンゼ”というのを初めて知った。ヴァロンゼ・ガドゼランかぁ、名は体をあらわすっていうけど、ホント頑固そうな名前だよなぁ。
ヴァロンゼというのは、いにしえの言葉で”神さえ手を焼く岩”っていう意味だし、ガドゼランというのも確か今から2000年くらい前、まわりの国とは一切連携せず、あくまでも単独の自国統治にこだわった国の領主の名前だった気がする。
あの人の親は何を考えてそんな名前を付けたんだろう。そんな事を取りとめもなく考えながら、ボクは家路へとついた。
親方は、とても金払いが良い。ギルド経由で仕事をしていた頃はもちろんの事、直接契約をしてからも未払いや出し渋りは一度もなかった。ただし酒豪の彼に時々付き合わねばならないのが、暗黙の了解といえるのだが……。
早速、差し出された袋の中の貨幣を確認する。信じる信じないという事でなく、あくまでも商取引上の慣習だ。
「はい、確かに。また何かあったら、よろしくお願いします、親方」
「あぁ、ぜひ頼むよ。あんたがいると何かと心強いからな……。
ところでよ、小耳にはさんだんだが、ボンゼラン商会に三下り半を叩きつけたんだって? 酒場なんかじゃチョットした噂になってるぜ」
代金の袋をバッグに入れるボクを、繁々と見つめる大工の親方。
あぁ、やっぱり色々と伝わっちゃっているんだなぁ。まぁ、あれだけ啖呵を切ったのだから当たり前と言えば当たり前か。あの場には他の客もいたわけだから、そこから漏れ伝わっても何ら不思議じゃない。
「えぇ、まぁ……」
気のない返事をして誤魔化そうとするが、親方の興味津々といった顔は、ボクをまだ帰してはくれなさそうである。
「いやぁ、あそこは何かと悪い評判もあるところだからな。むしろ、あんたがあそこと契約していること自体が不思議だったんだ。まぁ、様々いきさつもあるんだろう」
酒を飲んでいる時以外はお喋りというわけではない親方が、思いもかけず饒舌になる。
「だけどボンゼランと縁を切るって事は、新しい魔使具屋と契約するって事だろ? 当てはあるのかい」
親方としては、次の仕事の依頼をどうしたものかと考えているのだろう。彼のところでの魔法仕事にも、魔使具を全く使わないというわけではないし、こちらに不備があれば建築作業全体に響いてしまう可能性が大いにある。
「えぇ、実はもう仮契約をしていまして、新しい魔使具が出来次第、調整に行く予定なんですよ」
親方の顔が、パッと明るくなる。
「へぇ、そりゃ手回しがいいねぇ。よければ、どこの魔使具屋か教えてもらえないかい」
親方が仕事を依頼する魔法使いは、ボクだけではない、そことの兼ね合いもあるので魔使具店の名前を聞くのはごく自然な事である。
「ザーレント通りの、ガドゼラン魔使具店です」
ボクは淡々と答える。
「は!? ガドゼランだって? あの超頑固なオッサンが経営している……。なんで、よりにもよってあの店にしたんだよ」
「……えぇっと、何かマズいですかね」
親方の驚きように、ボクはちょっと心配になった。
「マズいも何も、あそこの店主ヴァロンゼは、客泣かせの職人だって知っているのかい? 一般人は全く相手にしないし、魔法使いだって自分が気に入らなきゃ怒鳴り散らす。
もっとも言っている事はパーフェクトそのものだから、完膚なきまでに叩きのめされて泣きながら店を飛び出した魔法使いは、両手の指じゃ足りないって話だぜ」
あぁ、さもありなんて感じだ。でも、ボクはそれほど酷い扱いを受けた覚えはないけどなぁ。
「へぇ……。でも親方、何でそんなに詳しいんです?」
「あぁ、あのオヤジとは、まぁ呑み友達っていうか、妙に馬が合ってな。でもそれを見たお節介共が、何かと俺に”ご注進”ってな具合に言ってくるんだよ」
それは多分、あのオヤジさんに酷い目にあわされた連中なんだろうなぁ。ある事ない事ふきこんで、評判を落とそうって魂胆なんだろう。
「なるほど、頑固モノ同志、類は友を呼ぶってヤツですかね」
ボクは、ちょっとイタズラっぽい目をして軽口をたたく。
「冗談じゃない。あのオヤジに比べたら、俺なんぞ、しおらしい乙女みたいなもんさ」
どこまでが冗談かわからないたとえだが、この人がそこまで言うのなら、本当に折り紙付きの頑固モノなんだろうとボクは思った。
またの再会を約束して、親方の事務所をあとにする。
でも頑固オヤジの名前が”ヴァロンゼ”というのを初めて知った。ヴァロンゼ・ガドゼランかぁ、名は体をあらわすっていうけど、ホント頑固そうな名前だよなぁ。
ヴァロンゼというのは、いにしえの言葉で”神さえ手を焼く岩”っていう意味だし、ガドゼランというのも確か今から2000年くらい前、まわりの国とは一切連携せず、あくまでも単独の自国統治にこだわった国の領主の名前だった気がする。
あの人の親は何を考えてそんな名前を付けたんだろう。そんな事を取りとめもなく考えながら、ボクは家路へとついた。
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