よろず魔法使いの日記帳 【第一部 ダンジョンの謎】

藻ノかたり

文字の大きさ
上 下
2 / 115

リラス親方

しおりを挟む
あ月末になったので、色々な経費を精算する。だが、今月のマジックエッセンス使用量を計算してみてビックリした。去年同月の1.5倍も使っている。

細かく見てみると、やはり寒さ関連の消費が増大しているようだ。外出時の防寒魔法や暖炉の火を絶やさぬための魔法、料理や風呂に使うお湯を沸かすための魔法にも、去年より多くのマジックエッセンスを使っている。

これも今年の厳冬のせいか…。

マジックエッセンスの年間消費における予算内には収まりそうだが、いつもは余剰分を繰り越せていたので少し痛い。しかし、寒さ対策に使うマジックエッセンスの節約は難しい。即、健康に響いてくるからだ。それで仕事を休んだり病気になってしまっては、元も子もなくなる。

ここは、じっと我慢をするしかないだろう。

我が家は家屋外のあちこちに、マジックエッセンスを吸収するアイテムが設置してあるのでまだマシか。森の中の一軒家という事も、自然のマジックエッセンスを集めるのにはもってこいだ。

しかしマジックエッセンスを買わなければいけない人達は大変だろうなぁ。魔法を使えない人にとっても、今や魔使具を動かす燃料であるマジックエッセンスは生活に欠かせない。そうなると余剰なお金を使わなくなるから景気が悪くなり、周り周ってボクの仕事にも響いてきそうだ。

翌日、今日は久々の休日だ。この機会を逃すまいと、自宅地下一階にある研究室での作業に明け暮れる。魔法使いとして長く食べていくには、魔法の研究は不可欠だ。

魔法使いは誰でもなれるわけではなく、ある程度以上の才を生まれながらに持っていなくてはならない。その事におぼれてしまい、魔法使いであるだけで人生盤石と思う輩も多いのが、現実はそう甘くはない。便利な魔使具がドンドン開発される昨今、マジックエッセンスだけ購入すれば魔法使いは必要ないという場面も昔に比べれば増えてきたせいである。

もっとも一定以上強力な魔使具の所有は国の許可が必要なので、庶民は低レベルの魔使具しか持つ事が出来ない。よって、庶民が所有できない中レベルの魔使具以上の魔法を多く使えなければ、魔法使いとしての仕事は成り立たなくなっていくだろう。

魔法研究に明け暮れた一日、大変ながらも楽しくもある。ついつい時間の過ぎるのを忘れ夜更かしをしてしまった。

そんな事もあり、翌日は少々寝不足となったが、今日も大工のリラス親方の現場で作業補助の仕事が入っている。目が赤い事を親方に気づかれなければ良いのだが……。あの人、自分自身には勿論、弟子やボクにも厳しいからなぁ。

それでも何とか普段通りに仕事をこなしていると、昼食時、特殊素材を運んで来た商人や大工職人たちと同席する機会があった。商人はゴラス湾を渡ってこの地に荷物を運んで来ているのだが、航海中、霧の中でコールドドラゴンらしき竜を見たと自慢げに話しているのを聞いて皆は驚いた。

この幻の竜の目撃談は、いやが上にも昼食の席を盛り上げる。ただ、ボクはそれが商人の作り話であると確信している。彼の話には明らかな矛盾点が幾つもあるからだ。

でも、ボクはその間違いを指摘しようとは思わない。水掛け論になるのは分かっているし、彼が間違いを認めたところでボクには何の益もない。ここにはあくまで魔法仕事で来ているのであって、議論をしに来ているわけではないからだ。ただリラス親方に到っては、全てを御見通しといった面持ちで、苦笑しているのが印象的だった。そして帰り際のボクに一言。

「さっきは口を挟まないでくれて有難うよ。アンタくらい博識なら言いたい事もあったろうに……。あの商人、悪い奴じゃないんだが、お調子者なのが玉に傷でな」

ボクは笑って軽く会釈をし、現場を後にした。今日は酒場へは寄らず、一直線に我が家へと向かう。気になる魔法実験のテーマを思いついたからだ。

翌朝、ボクは”いつもの如く”寝ぼけまなこをこする羽目になっていた。昨晩はチョットだけと思って始めた魔法の研究実験が想定以上にのびてしまい、ベッドに倒れ込んだのは予定をかなり過ぎてからであった。

今日は日帰り出来るギリギリの距離への出張仕事となる。幸いクライアントの厚意により、現地へ向かう乗り物は個室を用意してもらっていたので、そこで爆睡する。だが乗りもの内ゆえに、安眠出来たとは言い難い。その証拠に夢ばかり見ていた気がする。もちろん、その後の魔法作業に失敗する悪夢である。

とはいっても作業に差支えのない程度には眠る事が出来たので、何とかまともにやる事をこなして無事帰還となった。

もっとも魔法で寝不足を解消する事は出来るのだが、本来の体のリズムを強制的に操作するような魔法を乱用すると、それがクセになる事が知られている。よって、自然に元のリズムへと戻す事にした。

明日は何も仕事が入っていない。思う存分、寝るぞー。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】初級魔法しか使えない低ランク冒険者の少年は、今日も依頼を達成して家に帰る。

アノマロカリス
ファンタジー
少年テッドには、両親がいない。 両親は低ランク冒険者で、依頼の途中で魔物に殺されたのだ。 両親の少ない保険でやり繰りしていたが、もう金が尽きかけようとしていた。 テッドには、妹が3人いる。 両親から「妹達を頼む!」…と出掛ける前からいつも約束していた。 このままでは家族が離れ離れになると思ったテッドは、冒険者になって金を稼ぐ道を選んだ。 そんな少年テッドだが、パーティーには加入せずにソロ活動していた。 その理由は、パーティーに参加するとその日に家に帰れなくなるからだ。 両親は、小さいながらも持ち家を持っていてそこに住んでいる。 両親が生きている頃は、父親の部屋と母親の部屋、子供部屋には兄妹4人で暮らしていたが…   両親が死んでからは、父親の部屋はテッドが… 母親の部屋は、長女のリットが、子供部屋には、次女のルットと三女のロットになっている。 今日も依頼をこなして、家に帰るんだ! この少年テッドは…いや、この先は本編で語ろう。 お楽しみくださいね! HOTランキング20位になりました。 皆さん、有り難う御座います。

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~

シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。 主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。 追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。 さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。 疫病? これ飲めば治りますよ? これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。

八十神天従は魔法学園の異端児~神社の息子は異世界に行ったら特待生で特異だった

根上真気
ファンタジー
高校生活初日。神社の息子の八十神は異世界に転移してしまい危機的状況に陥るが、神使の白兎と凄腕美人魔術師に救われ、あれよあれよという間にリュケイオン魔法学園へ入学することに。期待に胸を膨らますも、彼を待ち受ける「特異クラス」は厄介な問題児だらけだった...!?日本の神様の力を魔法として行使する主人公、八十神。彼はその異質な能力で様々な苦難を乗り越えながら、新たに出会う仲間とともに成長していく。学園×魔法の青春バトルファンタジーここに開幕!

捨て犬の神様は一つだけ願いを叶えてくれる

竹比古
児童書・童話
犬と暮らす全ての人へ……。 捨てられた仔犬の前に現れたのは、捨て犬の願いを一つだけ叶えてくれるという神さま。 だが、神さまに願いを叶えてもらう前に、一人の青年に拾われ、新しい生活が始まる。 それは、これまで体験したことのない心地よい時間で……。 それでも別れはやってくる。  ――神さま、まだ願いは叶えてくれる……?  ※表紙はフリーイラストを加工したものです。

この争いの絶えない世界で ~魔王になって平和の為に戦いますR

ばたっちゅ
ファンタジー
相和義輝(あいわよしき)は新たな魔王として現代から召喚される。 だがその世界は、世界の殆どを支配した人類が、僅かに残る魔族を滅ぼす戦いを始めていた。 無為に死に逝く人間達、荒廃する自然……こんな無駄な争いは止めなければいけない。だが人類にもまた、戦うべき理由と、戦いを止められない事情があった。 人類を会話のテーブルまで引っ張り出すには、結局戦争に勝利するしかない。 だが魔王として用意された力は、死を予感する力と全ての文字と言葉を理解する力のみ。 自分一人の力で戦う事は出来ないが、強力な魔人や個性豊かな魔族たちの力を借りて戦う事を決意する。 殺戮の果てに、互いが共存する未来があると信じて。

転生したらスキル転生って・・・!?

ノトア
ファンタジー
世界に危機が訪れて転生することに・・・。 〜あれ?ここは何処?〜 転生した場所は森の中・・・右も左も分からない状態ですが、天然?な女神にサポートされながらも何とか生きて行きます。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 初めて書くので、誤字脱字や違和感はご了承ください。

処理中です...