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魔女と奇妙な男 (25) 追跡の果て

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「行くしかない!」

ネリスは声を出して自らを勇気づけます。その分がプラスされ、ネリスの心の中の”追え!”という意思が勝利を収めました。彼女は黒い影の消え去った方へ、一心不乱にペダルをこぎ出します。

道はドンドン暗い方へと続いていきました。まぁ、当たり前と言えば当り前ですね。化け物としては、夜の暗闇に乗じて逃げおおせたいわけですから。

実際には一分にも満たなかったネリスの追跡でしたが、彼女にとってそれは一時間をゆうに超える心持ちだったでしょう。ただ残念ながら、ネリスは化け物を見失いました。それに自警団の人達が追いつかない状態で、これ以上の追跡をすれば、かえって危険が増す事は幾らあわてんぼうのネリスでもわかります。

見逃した。

自転車を止めたネリスは、肩で息をしながらほぞをかみました。しばらくは疲れてその場を動けなかった彼女ですが、遠くの方から多くの人の声が聞こえて来たので、自警団がネリスに追いつこうとしている事を知りました。

このままじゃ、あの人達にあれこれと聞かれて面倒だし、万が一コリス師匠の耳にでも入れば大目玉を食らってしまうと考えたネリスは、脇道へ入って彼らをやり過ごします。元来た道を帰るネリスの耳に、自警団の人達の悔しがる声が聞こえてきましたが、それもやがて闇の向こうへと消えて行きました。

「ネリス、遅かったじゃない」

屋敷へ着くなり、コリスが尋ねます。昨日の今日です。心配するのは当たり前ですよね。ネリスはその言葉を有り難く受け取りつつも、さっきの一件については何も話しませんでした。心配をかけるだけだからです。それにレアロンに知られれば「また、マダムをやきもきさせて」と怒鳴られるのは目に見えていました。

「すいません。時々自転車を止めて、後を確認していたので遅くなりました」

ネリスは、心ならずもウソをつきます。コリスは弟子の態度に不信を抱きましたが、ネリスの言葉を否定する事も出来ず、とりあえずは納得せざるを得ませんでした。

夕食をとり、ネリスは早々にベッドへと潜り込みます。でも、なかなか寝付けません。先ほどの場面が、繰り返し頭の中を駆け巡っていたからです。そしてようやく眠りに陥ったと思ったら、今度は化け物に逆襲される夢を見る羽目になりました。

寝不足で迎えた翌日の朝、未だにクレオンは姿を見せません。レアロンは色々とぼやきましたが、コリスは”そういう人だって事は、あなたも知っているでしょう?”と言って、とりあいませんでした。クレオンって男は、随分とチャランポランな男のようですね。

その日もネリスは、普段通りに出勤します。若い魔女たちは切り替えが早いのか、あれほど夢中になっていたクレオンの事など、もう全く話題にいたしません。視察を終えて、次の工場へ行ったものと思っているのでしょう。まぁ、それはそれで、ネリスにとっては好都合でありました。クレオンの一挙手一投足まで、魔女たちはネリスに問いただしていたのですからね。

さて、工場勤務の後のアルバイト先、魔女の薬相談店の椅子に、一人腰掛けてボンヤリとしている新米魔女ネリス。
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