上 下
145 / 151

魔女と奇妙な男 (22) 意外な出来事

しおりを挟む
ソファにグッタリと横たわったネリスは、それから何がどうなったのかわかりません。次に意識がハッキリしたのは、自分のベッドの上だったんですからね。カーテンの隙間から差し込む光は、もう朝が来た事を告げていました。

あれからフレディさんが、運んでくれたんだな。

身支度を整えながら、ネリスはぼんやりと考えます。そして恐る恐る部屋のドアを開きました。別にコソコソする理由はありませんでしたが、やっぱりバツが悪いと感じています。何せあれだけ大泣きをしたんですから、ちょっと恥ずかしい思いがありました。

もう、朝の掃除をする余裕はありません。またレアロンに嫌味を言われるのを覚悟して、ネリスは食堂へと向かいます。

あ、その前に、フレディさんにお礼を言わなきゃ。

こういった義理人情には、結構うるさいネリスです。彼女を男で一つで育てたお爺さんの影響でしょうか。

ネリスはとりえあず、台所へと向かいました。フレディは庭仕事や大工仕事など外での仕事が多いのですが、オリビアは大抵台所にいます。そして夫の行動を、逐一把握しているのでした。

台所へ続くドアを少し開け、隙間から中を伺うネリス。コンロの前ではオリビアがせっせと朝食の準備を進めています。コンソメスープのいい香りが、ネリスの鼻をくすぐりました。

ネリスは少しためらいましたが、ドアの
残りを開き切ります。

「あら、ネリスちゃん、おはよう。気分はどう?」

早速気のついたオリビアが、笑顔と共にネリスの具合を尋ねました。でも実の所、彼女は夕べから何度もネリスの部屋を訪れ、彼女が穏やかな寝息をたてているのを聞いて、安心していたのですけどね。

「もう大丈夫。心配かけました」

ネリスが、年相応の照れ笑いをします。

「すぐに朝食が出来ますからね。食堂の方へ行っていて」

オリビアが、料理の味見をしながら言いました。

「あの、フレディおじさんは? 部屋に運んでもらったお礼を言いたいんですけど……」

ネリスが、台所をキョロキョロと見回しました。

「お礼? それは見当違いだわ。だって、あなたを部屋まで運んだのは、フレディじゃないもの」

意外な答えに、ネリスはキョトンとします。

「え……、じゃぁ、まさか師匠とオリビアおばさんが?」

この屋の肝っ玉母さんオリビアが、ヤレヤレという顔をします。

「違うわよ。もう一人、誰かを忘れていない?」

少しイタズラっぽく笑いながら、オリビアが言いました。

「……? フレディおじさんでもオリビアおばさんでも、師匠でもない……。じゃぁ、他に誰が……」

ネリスには、全く思い当たるふしがありません。

「もう、そこまで言っちゃぁ、可哀そうよ。あとは、レアロンさんしかいないでしょ?」

オリビアが、棚から食器を出しながら笑います。

「え、えっえぇ!? レアロンが、何で!?」

ネリスの頭は、まだ半分寝ぼけているとはいえ、相当に混乱しました。

だって昨夜は、レアロンの奴、そうとう怒ってたわよね。それがまたどうして……。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

愚かな父にサヨナラと《完結》

アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」 父の言葉は最後の一線を越えてしまった。 その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・ 悲劇の本当の始まりはもっと昔から。 言えることはただひとつ 私の幸せに貴方はいりません ✈他社にも同時公開

王が気づいたのはあれから十年後

基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。 妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。 仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。 側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。 王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。 王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。 新たな国王の誕生だった。

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

美しい姉と痩せこけた妹

サイコちゃん
ファンタジー
若き公爵は虐待を受けた姉妹を引き取ることにした。やがて訪れたのは美しい姉と痩せこけた妹だった。姉が夢中でケーキを食べる中、妹はそれがケーキだと分からない。姉がドレスのプレゼントに喜ぶ中、妹はそれがドレスだと分からない。公爵はあまりに差のある姉妹に疑念を抱いた――

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

問い・その極悪令嬢は本当に有罪だったのか。

風和ふわ
ファンタジー
三日前、とある女子生徒が通称「極悪令嬢」のアース・クリスタに毒殺されようとした。 噂によると、極悪令嬢アースはその女生徒の美貌と才能を妬んで毒殺を企んだらしい。 そこで、極悪令嬢を退学させるか否か、生徒会で決定することになった。 生徒会のほぼ全員が極悪令嬢の有罪を疑わなかった。しかし── 「ちょっといいかな。これらの証拠にはどれも矛盾があるように見えるんだけど」 一人だけ。生徒会長のウラヌスだけが、そう主張した。 そこで生徒会は改めて証拠を見直し、今回の毒殺事件についてウラヌスを中心として話し合っていく──。

あなたの子ですが、内緒で育てます

椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」  突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。  夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。  私は強くなることを決意する。 「この子は私が育てます!」  お腹にいる子供は王の子。  王の子だけが不思議な力を持つ。  私は育った子供を連れて王宮へ戻る。  ――そして、私を追い出したことを後悔してください。 ※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ ※他サイト様でも掲載しております。 ※hotランキング1位&エールありがとうございます!

処理中です...