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魔女と奇妙な男 (17) 出入り商人
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さて、こちらは魔女の薬相談所に到着したネリス。
「あれ? ネリス~。今日はクレオンさん、来ないの?」
こちらでも人気者となっていたクレオンが訪れない事態に、店員一同ガッカリという感じです。本当、政治家にでもなった方が良いような人たらしです。だけど、彼が屋敷を訪れた時に見せた信じられないような格闘技術。それを知っているネリスは「あれを見たら、みんな引くだろうなぁ」と思って可笑しくなりました。
失望を隠せない同僚を尻目に、ネリスは相談室のテーブルに着きます。この場所がアルバイト先における、彼女の定位置でした。
二、三人のお客さんが訪れ、彼女は慣れた様子で対応します。新米魔女とは言っても一応専門家ですから、一般人の素人相手には十分すぎる知識を持っているんですね。本当は大した事ではないんですけど、お客さんは「若いのに、詳しいねぇ」と感心して帰っていきます。
「ふっ~。一休み一休み」
どこかの小坊主のようなセリフを言って、奥のカウンターへと下がるネリス。そこで来客用に沸かしているコーヒーを、カップに注ぎます。お客さんに提供量が十分に確保されている時は、従業員も飲んで良い事になっているんです。
サボりかですって? 一応違います。正直、この時間帯には来訪者が殆どいないんですね。だからこそ、新米のネリスでも何とか務まるんです。
それに相談所の諸先輩方も奥の仕事をしたいのだけれど、お客さんが来る可能性がある以上、接客スペースを空にしておくわけにはいきません。それをネリスに任せられるので、みんな大助かりなんです。
「おや、ネリスさん。一人?」
声がしました。ですが、店の入り口からではありません。
「あ、サジルさん、いらっしゃい」
スタッフオンリーの裏口から入って来たのは、店の備品などを扱っている業者のサジルと、最近彼が雇った従業員のメサイトでした。薬のサンプルを入れる容器などはもちろんの事、スタッフが使用する日用品等、様々な物品を一手に扱う商家の主で、気の良い中年男です。
若いメサイトにあれこれと指示を出すと、サジルは、よっこらしょとネリスのいるカウンターの所へやってきました。彼はもうずっと前から魔女の薬屋と商売をしており、この相談所のメンバーとも顔なじみです。商売向きの人懐っこい性格から、ネリスともすぐ仲良しになりました。
雑談に花が咲く内に、話は評判の怪物の話に移ります。先日、ネリスが尾行されたのなんのと、大袈裟に話した事をサジルが覚えていたのでした。ネリスは少し困ります。多分、あの時の尾行者の正体はクレオンです。確かめたわけではありませんが、それ以外に彼女の後を付けようなんて輩がいるわけありません。
困ったな……。
ネリスは、心の中で呟きました。
ここで「あぁ、あれはクレオンさんが、私を見張るために……」と言えば、話は簡単です。しかしクレオンは表向き、工場や店の視察という話になっています。サジルにも、そう言っていました。
本当の事を教えるわけにも行かないので、ネリスは何とか、彼を誤魔化さなければなりません。おしゃべりは災いの元であると、ネリスは後悔しきりです。
もっともサジルの方でも、気を使って話をしているフシがありました。たとえアルバイト魔女であっても、一応はお得意様の店員です。それに彼女はまだ若いので、ご機嫌を取って関係を良くしておけば、ネリスが一人前の魔女になった時、何か商売につながるかも知れません。
「あ、あれはですね……」
「あれ? ネリス~。今日はクレオンさん、来ないの?」
こちらでも人気者となっていたクレオンが訪れない事態に、店員一同ガッカリという感じです。本当、政治家にでもなった方が良いような人たらしです。だけど、彼が屋敷を訪れた時に見せた信じられないような格闘技術。それを知っているネリスは「あれを見たら、みんな引くだろうなぁ」と思って可笑しくなりました。
失望を隠せない同僚を尻目に、ネリスは相談室のテーブルに着きます。この場所がアルバイト先における、彼女の定位置でした。
二、三人のお客さんが訪れ、彼女は慣れた様子で対応します。新米魔女とは言っても一応専門家ですから、一般人の素人相手には十分すぎる知識を持っているんですね。本当は大した事ではないんですけど、お客さんは「若いのに、詳しいねぇ」と感心して帰っていきます。
「ふっ~。一休み一休み」
どこかの小坊主のようなセリフを言って、奥のカウンターへと下がるネリス。そこで来客用に沸かしているコーヒーを、カップに注ぎます。お客さんに提供量が十分に確保されている時は、従業員も飲んで良い事になっているんです。
サボりかですって? 一応違います。正直、この時間帯には来訪者が殆どいないんですね。だからこそ、新米のネリスでも何とか務まるんです。
それに相談所の諸先輩方も奥の仕事をしたいのだけれど、お客さんが来る可能性がある以上、接客スペースを空にしておくわけにはいきません。それをネリスに任せられるので、みんな大助かりなんです。
「おや、ネリスさん。一人?」
声がしました。ですが、店の入り口からではありません。
「あ、サジルさん、いらっしゃい」
スタッフオンリーの裏口から入って来たのは、店の備品などを扱っている業者のサジルと、最近彼が雇った従業員のメサイトでした。薬のサンプルを入れる容器などはもちろんの事、スタッフが使用する日用品等、様々な物品を一手に扱う商家の主で、気の良い中年男です。
若いメサイトにあれこれと指示を出すと、サジルは、よっこらしょとネリスのいるカウンターの所へやってきました。彼はもうずっと前から魔女の薬屋と商売をしており、この相談所のメンバーとも顔なじみです。商売向きの人懐っこい性格から、ネリスともすぐ仲良しになりました。
雑談に花が咲く内に、話は評判の怪物の話に移ります。先日、ネリスが尾行されたのなんのと、大袈裟に話した事をサジルが覚えていたのでした。ネリスは少し困ります。多分、あの時の尾行者の正体はクレオンです。確かめたわけではありませんが、それ以外に彼女の後を付けようなんて輩がいるわけありません。
困ったな……。
ネリスは、心の中で呟きました。
ここで「あぁ、あれはクレオンさんが、私を見張るために……」と言えば、話は簡単です。しかしクレオンは表向き、工場や店の視察という話になっています。サジルにも、そう言っていました。
本当の事を教えるわけにも行かないので、ネリスは何とか、彼を誤魔化さなければなりません。おしゃべりは災いの元であると、ネリスは後悔しきりです。
もっともサジルの方でも、気を使って話をしているフシがありました。たとえアルバイト魔女であっても、一応はお得意様の店員です。それに彼女はまだ若いので、ご機嫌を取って関係を良くしておけば、ネリスが一人前の魔女になった時、何か商売につながるかも知れません。
「あ、あれはですね……」
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