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魔女と奇妙な男 (14) ネリスの災難
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そうです。ネリスが恐れていたのは、クレオンの存在です。ネリスがきちんと約束を果たしているかを確認する為に、彼はやって来たのです。それなのに、早速この体たらく。魔女会議の覚えは定めし悪くなるでしょう。
「師匠、なんで起こしてくれなかったんですかーっ?」
自分の失敗を棚に上げ、コリスをキッと睨みます。
「あら、だって前に起こしに行ったら、”子供じゃないんだから、一人で起きられます”って言ったじゃない。忘れたの?」
……確かに、そう言ったような……。
ネリスは、ここへ来たばかりの頃の記憶を辿ります。
「ネリス、寝坊した上に、責任をコリスに押し付ける……と」
クレオンが報告メモに、ネリスの失態を更に書き込みます。
「わーっ、たまたまです、たまたま。いつもはきちんと起きて、門前の掃除をしてるんですよ~」
「ネリス、更に言い訳がましく弁解をする……と」
クレオンがネリスの方を見て、二コリと笑いました。
「い、いいです。もう、いいです。好きに書いて下さい……」
ネリスはテーブルにガクッと手をついて観念しました。
あ~ぁ、こんな事があと何日続くんだろう。い、いや悩んでいる暇なんてない。早いところ工場へ行かないと、また遅刻をしたとか何とか報告されちゃう。
だけど、まずは朝食よ。腹がへっては戦は出来ぬって言うもんね。
ネリスは席につこうとしましたが、彼女の分の皿がありません。
「えぇっと、私の分の朝食は……」
コリスの方を見るネリスに、
「ご免。君の分も、僕が食べちゃった」
と、クレオンが事もなげに言いました。
「えっー! 酷いですーっ」
ネリスが、泣きそうになって抗議をします。だってこの窮屈な生活の中で、唯一の楽しみがオリビアの美味しい料理なんですから。
「ウソですよ。ちゃんと、ここにあります」
そう言うと、オリビアがサンドイッチを乗せた皿をネリスの前に置きました。
「ゆっくり食べている時間がないと思って、ネリスちゃんには、こっちの方がいいでしょう」
「ナイス! オリビアおばさん」
オリビアの気の利いた配慮に、ネリスは心から感謝します。
「オリビア、あんまり甘やかしちゃダメだよ。クセになっちまう」
既に食後のコーヒーを飲んでいたレアロンが、冷ややかに言いました。
そんな執事のクレームを尻目に、ネリスは大急ぎでサンドイッチを平らげ、自転車小屋へとすっ飛んでいきます。
嵐が去った、コリス邸の食堂。
「やれやれ、慌ただしいねぇ」
クレオンが、クスっと笑います。
「あいつが来てから、本当にウルサクてかなわないよ」
そう言いながら、レアロンがコーヒーカップを皿に戻します。
「でも、私はあの子に特別な才能があると確信しているし、オッチョコチョイだけど、とてもいい子よ」
コリスが、穏やかにほほ笑みます。
「そうだな。大切に育てなきゃいけないな」
クレオンが、旧友二人の顔を見て言いました。それに異論をはさむ者は誰もいません。普段は厳しいレアロンさえも。
それから一週間。ネリスは息つく暇もありませんでした。何せ、大っぴらに視察をする事になったわけですから、クレオンはそれこそ一日中、一定の距離を保ちながらではありますが、ネリスにピッタリとくっついて来ます。
だけど、意外な状況が一つ。
当然ながら、魔女の薬工場へも彼はやって来ました。工場では魔女の他に、お手伝いの人も沢山務めています。その中には男の人もいるにはいますが、やっぱり魔女は女ばかりです。
そんな中に、男の魔女が入って来たら……。
「師匠、なんで起こしてくれなかったんですかーっ?」
自分の失敗を棚に上げ、コリスをキッと睨みます。
「あら、だって前に起こしに行ったら、”子供じゃないんだから、一人で起きられます”って言ったじゃない。忘れたの?」
……確かに、そう言ったような……。
ネリスは、ここへ来たばかりの頃の記憶を辿ります。
「ネリス、寝坊した上に、責任をコリスに押し付ける……と」
クレオンが報告メモに、ネリスの失態を更に書き込みます。
「わーっ、たまたまです、たまたま。いつもはきちんと起きて、門前の掃除をしてるんですよ~」
「ネリス、更に言い訳がましく弁解をする……と」
クレオンがネリスの方を見て、二コリと笑いました。
「い、いいです。もう、いいです。好きに書いて下さい……」
ネリスはテーブルにガクッと手をついて観念しました。
あ~ぁ、こんな事があと何日続くんだろう。い、いや悩んでいる暇なんてない。早いところ工場へ行かないと、また遅刻をしたとか何とか報告されちゃう。
だけど、まずは朝食よ。腹がへっては戦は出来ぬって言うもんね。
ネリスは席につこうとしましたが、彼女の分の皿がありません。
「えぇっと、私の分の朝食は……」
コリスの方を見るネリスに、
「ご免。君の分も、僕が食べちゃった」
と、クレオンが事もなげに言いました。
「えっー! 酷いですーっ」
ネリスが、泣きそうになって抗議をします。だってこの窮屈な生活の中で、唯一の楽しみがオリビアの美味しい料理なんですから。
「ウソですよ。ちゃんと、ここにあります」
そう言うと、オリビアがサンドイッチを乗せた皿をネリスの前に置きました。
「ゆっくり食べている時間がないと思って、ネリスちゃんには、こっちの方がいいでしょう」
「ナイス! オリビアおばさん」
オリビアの気の利いた配慮に、ネリスは心から感謝します。
「オリビア、あんまり甘やかしちゃダメだよ。クセになっちまう」
既に食後のコーヒーを飲んでいたレアロンが、冷ややかに言いました。
そんな執事のクレームを尻目に、ネリスは大急ぎでサンドイッチを平らげ、自転車小屋へとすっ飛んでいきます。
嵐が去った、コリス邸の食堂。
「やれやれ、慌ただしいねぇ」
クレオンが、クスっと笑います。
「あいつが来てから、本当にウルサクてかなわないよ」
そう言いながら、レアロンがコーヒーカップを皿に戻します。
「でも、私はあの子に特別な才能があると確信しているし、オッチョコチョイだけど、とてもいい子よ」
コリスが、穏やかにほほ笑みます。
「そうだな。大切に育てなきゃいけないな」
クレオンが、旧友二人の顔を見て言いました。それに異論をはさむ者は誰もいません。普段は厳しいレアロンさえも。
それから一週間。ネリスは息つく暇もありませんでした。何せ、大っぴらに視察をする事になったわけですから、クレオンはそれこそ一日中、一定の距離を保ちながらではありますが、ネリスにピッタリとくっついて来ます。
だけど、意外な状況が一つ。
当然ながら、魔女の薬工場へも彼はやって来ました。工場では魔女の他に、お手伝いの人も沢山務めています。その中には男の人もいるにはいますが、やっぱり魔女は女ばかりです。
そんな中に、男の魔女が入って来たら……。
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