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魔女と奇妙な男 (13) 大人たち

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「そうですね。

確かにマダム・コリスは策士で、油断のならない方ですが、ことネリスに関してそう言う事はないですね。

クレオン、今回は信用していいと思うぞ」

何か含みのある言い方をするレアロンに、コリスは、

「まぁ、あなたまで!」

と、ぼやきました。

「だけど、それを止めたんですよね」

ネリスが、重ねて尋ねます。

「あぁ。

だって、また君が朝みたいに盛大にコケてだよ、それで大怪我でもされたら、こっちが会議の婆さん連中に怒られちまう。

彼女たちだって、ネリス君が憎くてやってるわけじゃないんだからさ」

クレオンが、困ったもんだよと首を振りました。

「ちょっと、怪我って何の事?」

コリスが、寝耳に水という顔をします。実はネリスったら、コリスにストーカーを見たとは報告しましたが、自転車で転んだ事は言っていなかったんですね。だって、カッコ悪いじゃないですか。

コリスが”何で、報告しなかったのよ”とでも言いたげに、ネリス顔をじっと睨みつけます。

「というよりも、小娘に尾行を気づかれる時点で、全然ダメじゃないかよ。寄る年波には勝てないってか?」

レアロンが、冗談めかして笑いました。

「いや、それは俺も驚いた。そこは凄いぞネリス君」

「そ、そうですかぁ~?」

褒められた手前、いきなり否定はしませんでしたが、ネリスは”それは、ちょっとウソっぽいな”と感じます。

「あ、そ、それと、もう一つ。

あの時、私は全力で自転車をこいでたんです。いくらクレオンさんの足が速くたって、姿を隠しながら追いかけられるもんじゃないでしょ?」

実はネリスにとって、こちらの方が不思議でした。

「ん~、それは秘密です」

クレオンが、即答します。

「だよな、小娘が知るには十年早い」

レアロンも、クレオンに同調します。

「師匠~」

ネリスはコリスの方を向いて、甘えたような声を出しましたが、

「そうね。せめて、第七等くらいまで出世したら教えてあげます」

と、そっけなく答えました。大人三人が、口をそろえて「まだ教える段階じゃない」と、言っているようです。


その日の晩、ネリスはなかなか寝付けませんでした。色んな事が、いっぺんに頭の中に入ってきたせいです。

でも、おかしいな。私がクレオンさんの気配に気がついたのはいいとして、包み込むような優しい感じと、凄く嫌な悪意みたいな感じと、果たしてあれが、両方とも同じ人のものなんだろうか?

ネリスは天窓から見える星を見ながら考えましたが、いつの間にか青い青い夜空の中に、彼女の意識は溶け込んでいきました。


翌朝。

まずい、まずい、まずい!

ネリスは大急ぎで着替えをして、階下へと急ぎます。何故、こんなに慌てているのかというと、盛大に寝坊をしてしまったからす。昨晩、あれやこれやと遅くまで考え込んでいたせいですね。

どう考えても、既に門前の掃除をしている時間はありません。レアロンに怒られるのは勿論ですが、その他にも、困った事態が待ち受けています。

食堂へ到着すると、既にコリスとレアロン、そしてクレオンもオリビアの給仕を受け、朝食を取っている最中でした。

「おせぇーぞ、居候。いつまで寝てれば、気が済むんだ!」

早速、レアロンの悪口がさく裂します。

「そうよ、ネリス。今日の門前のお掃除は、ちょっと間に合わないわね」

これまた師匠の厳しいお言葉。

「うむ……。ネリス、寝坊して掃除をサボる……と」

クレオンが、メモ帳にササっと書き込みました。
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