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魔女と奇妙な男 (10) バトル!

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「あ、そうでした。こりゃ失礼」

クレオンが、おどけた顔で返します。

「同い年なのに、差をつけられちゃったよなぁ」

続けて、彼がグチりました。

「……という事は、えぇっ? アラフォー! 見えなーい。もう、いいオジさんじゃないですか~」

ネリスが、素っ頓狂な声を上げました。

彼女が、驚くのも無理はありません。確かにクレオンの実年齢はコリスと同じですが、彼の性格もあるのでしょう、そうですね、まぁ、だいたい三十代半ばより、少し若く見えました。

「だってさ、コリスおばさん」

彼がニヤニヤして、コリスの方に目をやります。

「うるさいわね。工場の責任者ともなれば、苦労も多いのよ。お騒がせばかりしている新米魔女もいるしね。

そういうあれこれが、どうしても顔に出るものなの! 風来坊と、さして変わらないあなたとは違うんです」

コリスが、口を尖らせます。まるで、それに相槌を打つかのように、クレオンがハハハと笑いました。

師匠の皮肉に覚えのあるネリスは、ちょっと首をすぼめます。どうやら、藪蛇だったようですね。

自転車を小屋の中へ納め、三人は玄関の前に立ちました。コリスがポケットから鍵を取り出して、錠のあたりをコンコンと叩き呪文を唱えると、カチャリと音がしてドアが開きます。単に鍵穴に差し込んでも開きません。一瞬の防犯対策ですね。たとえ鍵を盗まれたり落としたりしても、まず泥棒に入られる心配はありませんでした。

玄関は、小さなロビーになっています。悪魔の力で外の様子を伺い知ったレアロンが、執事姿で控えておりました。珍しい事もあるものです。主人にしか忠誠を誓わない彼が、誰かを進んで出迎えるなんて滅多にありません。

「あっ」

コリスが何かに気がついて、小さな声を上げましたが、時すでに遅しです。

突然、アラフォーとは思えぬ勢いで、クレオンが執事めがけて驀進します。一方、レアロンはレアロンで、表情一つ変えずその場に立っています。

「な、なに、なに?」

ネリスは、出し抜けに起こった事態に、目を丸くするばかりでした。

どう猛な攻撃者と化したクレオンは執事の目の前まで来て、いきなり体を反転させます。そして目にも止まらぬ速さで回し蹴りを繰り出しました。

「えっ、えーっ!?」

ネリスが、調子っぱずれの声を出します。

ドゴンと何か鈍い音がしたかと思うと、クレオンの破竹の勢いがピタリと止まりました。レアロンが顔色一つ変えずに、右腕のみでクレオンの蹴りを防いだのです。

しかし黒ずくめの男の攻撃が、それで止んだわけではありません。素早く体勢を立て直したかと思うと、両拳による目にも止まらぬ連打に次ぐ連打。一方、レアロンも同じく、目にも止まらぬ凄まじい受けを見せて攻撃を封じます。

クレオンの勢いが僅かに鈍ったその時でした。使い魔執事の両手が青白く光りだし、相手の連打に勝るとも劣らないパンチを繰り出します。クレオンはたまらず、両手をクロスさせガードするほかはありません。

「おっさん、それまでか!?」

レアロンが、勝ち誇ったように歓喜の声を上げました。

「誰が、おっさんだ。二百歳越えのジジイのクセして」

そう言った瞬間、彼は交差させていた前腕を一気に解き放ち前へと振り出します。

その凄まじい事!

レアロンの両拳は弾き飛ばされ、攻撃を中断せざるを得ませんでした。その隙を、クレオンが見逃すはずがありません。咄嗟に相手の腕をつかみ、そのまま床へと投げ飛ばしました。

ドンという轟音と共に、レアロンの体が床に叩きつけられます。

「はい! そこまで! もう、毎回毎回こういうの、やめて頂戴。舞い上がったホコリを掃除するのはオリビアさんなのよ。ちょっとは、迷惑も考えて!」
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