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魔女と奇妙な男 (9) お調子者
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ムッとした表情になったコリスが、クレオンの襟首をグイとつかんで自転車小屋へと引っ張って行きました。
「おい、おい、乱暴は良してくれよ。仮にも最高位の魔女様だろ? 乱暴はいけないなぁ」
黒ずくめの男が、軽口を叩きます。
「だったら、その最高位に従いなさい」
コリスのいつにない、ドスの効いた声を聞き、
「はいはい。
だけどな。お前、その堅苦しい性格を早く直さないと、もう本当に結婚できなくなるぞ。いい年なんだしさ」
あぁ、それは禁句……。
ネリスは、他人事ながら肝が冷えました。でも、これから起こる何事かを、密かに期待してもいたのです。
その期待を知ってか知らずか、コリスは
「ふ~ん。クレオン三等魔女さん。今のは、明らかにセクハラですよねぇ。魔女会議に、報告しましょうか? ペナルティーが、随分と重なっているみたいだけど」
その言葉を聞いて、クレオンの顔が青くなっていきます。まぁ、この性格ですから、彼も魔女会議のメンバーに要注意人物として睨まれており、余りペナルティーが重なると、今の三等魔女からドーンと降格させられてしまうのですね。
「えっ、えぇえ、冗談だよコリス。いえ、コリス様。あ、自転車、重いでしょう。俺、いや、私が引いてしんぜましょう」
途端に、お調子者の態度が変わります。
「師匠、なんなんですか、これ」
ネリスが、コリスに耳打ちします。
「彼、色々な所に借金があるんだけど、降格されるとお給金が下がるでしょう? そうすると、本当に首が回らなくなっちゃうのよ。ね、クレオン」
振り返ったクレオンが、愛想笑いをします。
へぇ~、なーんだ。勝負は最初からついていたんだ。
ネリスは、チョットがっかりしました。悪い子ですねぇ。
でも、何か引っかかるものを聞いたような気がしたネリス。おつむをフル回転させました。
「……うん? 三等? 師匠、今、クレオンさんの事、三等魔女って言いませんでした?」
ネリスが、慌てたように尋ねます。
「そうよ。この人、これでも一応は三等なの」
コリスが、シレッと答えました。
「えっ~、うっそー!」
ネリスが、思わず口走ります。
それもそのはず。
魔女は十段階の階級に分かれています。一番低い位は見習い魔女です。魔女としての適性があるかを、見極める間の仮の位です。薬に関する魔法が使えるからって、必ずしも魔女に向いているとは限りませんからね。
そして第九等になって、はじめて正式な魔女と認められるのです。ちなみにネリスは、この第九等です。
語弊のあるたとえかも知れませんが、会社組織で言えば、第九等が新入の平社員。最高位である第一等は社長。第二等が専務、第三等は上級部長くらいに当たります。
先ほども申し上げた通り、男の魔女は、どちらかと言えば忌み嫌われて来た存在でした。その彼が、第三等というのは大変な事なのです。もっとも、これには深い事情があるのですけどね。それはまたいつか、別のお話で。
「うっそー、とは失礼だね。ネリス君」
クレオンが、ちょっと怖い顔になりました。ネリスは、急に臆します。だって、考えても見て下さい。ペーペーの新入社員が、実力者の部長にあれやこれやと無礼な言動を発したのです。まぁ、当然と言えば当然ですね。
「あ、い、いえ……」
「ほら、あんまりイジメない。それを言ったら、さっきの私に対するあなたの言動はどうなのよ」
クレオンが本気でない事はわかっていましたが、コリスは呆れたように言いました。
「おい、おい、乱暴は良してくれよ。仮にも最高位の魔女様だろ? 乱暴はいけないなぁ」
黒ずくめの男が、軽口を叩きます。
「だったら、その最高位に従いなさい」
コリスのいつにない、ドスの効いた声を聞き、
「はいはい。
だけどな。お前、その堅苦しい性格を早く直さないと、もう本当に結婚できなくなるぞ。いい年なんだしさ」
あぁ、それは禁句……。
ネリスは、他人事ながら肝が冷えました。でも、これから起こる何事かを、密かに期待してもいたのです。
その期待を知ってか知らずか、コリスは
「ふ~ん。クレオン三等魔女さん。今のは、明らかにセクハラですよねぇ。魔女会議に、報告しましょうか? ペナルティーが、随分と重なっているみたいだけど」
その言葉を聞いて、クレオンの顔が青くなっていきます。まぁ、この性格ですから、彼も魔女会議のメンバーに要注意人物として睨まれており、余りペナルティーが重なると、今の三等魔女からドーンと降格させられてしまうのですね。
「えっ、えぇえ、冗談だよコリス。いえ、コリス様。あ、自転車、重いでしょう。俺、いや、私が引いてしんぜましょう」
途端に、お調子者の態度が変わります。
「師匠、なんなんですか、これ」
ネリスが、コリスに耳打ちします。
「彼、色々な所に借金があるんだけど、降格されるとお給金が下がるでしょう? そうすると、本当に首が回らなくなっちゃうのよ。ね、クレオン」
振り返ったクレオンが、愛想笑いをします。
へぇ~、なーんだ。勝負は最初からついていたんだ。
ネリスは、チョットがっかりしました。悪い子ですねぇ。
でも、何か引っかかるものを聞いたような気がしたネリス。おつむをフル回転させました。
「……うん? 三等? 師匠、今、クレオンさんの事、三等魔女って言いませんでした?」
ネリスが、慌てたように尋ねます。
「そうよ。この人、これでも一応は三等なの」
コリスが、シレッと答えました。
「えっ~、うっそー!」
ネリスが、思わず口走ります。
それもそのはず。
魔女は十段階の階級に分かれています。一番低い位は見習い魔女です。魔女としての適性があるかを、見極める間の仮の位です。薬に関する魔法が使えるからって、必ずしも魔女に向いているとは限りませんからね。
そして第九等になって、はじめて正式な魔女と認められるのです。ちなみにネリスは、この第九等です。
語弊のあるたとえかも知れませんが、会社組織で言えば、第九等が新入の平社員。最高位である第一等は社長。第二等が専務、第三等は上級部長くらいに当たります。
先ほども申し上げた通り、男の魔女は、どちらかと言えば忌み嫌われて来た存在でした。その彼が、第三等というのは大変な事なのです。もっとも、これには深い事情があるのですけどね。それはまたいつか、別のお話で。
「うっそー、とは失礼だね。ネリス君」
クレオンが、ちょっと怖い顔になりました。ネリスは、急に臆します。だって、考えても見て下さい。ペーペーの新入社員が、実力者の部長にあれやこれやと無礼な言動を発したのです。まぁ、当然と言えば当然ですね。
「あ、い、いえ……」
「ほら、あんまりイジメない。それを言ったら、さっきの私に対するあなたの言動はどうなのよ」
クレオンが本気でない事はわかっていましたが、コリスは呆れたように言いました。
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