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魔女と奇妙な男 (5) ネリスの災難
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ピピッ、ピピッ。
そんな自惚れをかき消すように、腕時計のアラームが鳴り出しました。
「やっべ!」
相談所での勤務時間が、近づいている事を知らせる合図です。ネリスは立ちこぎをして、自転車を飛ばしました。この時のネリスは、自分がどれほどの厄介事に巻き込まれるかなんて、知る由もなかったのです。
さて、時は移って、その日の夜。
「ネリス、遅いわね」
屋敷の執務室で、掛け時計を見たコリスが呟きます。時間は既に午後八時、辺りは真っ暗です。もうとっくの昔に相談所での仕事を終えて、屋敷に戻っていなければならない時刻でした。
「どうせ、あちこち道草を食ってるんですよ」
傍らで書類の確認をしていたレアロンが、ヤレヤレといった仕草をします。
”違う”と、断言できないコリスが苦笑しました。でも今日は、何か嫌な予感がするのです。
「マダム。ネリスが帰宅しました」
ノックのあとに、オリビアの夫であるフレディが、嬉しい知らせを持って執務室にやって来ます。この夫婦も、ネリスの帰りが遅いのを心配していたのです。
「あぁ、そう。良かったわ!」
安堵の言葉が、思わずコリスの口からついて出ました。
「もう、みんな心配しすぎですよ。少し、とっちめてやらなきゃダメみたいですね」
レアロンの眉が、八の字になります。
「師匠、大変です。大変!」
使い魔執事の発言を知ってか知らずか、ネリスが執務室へ飛び込んできました。
「もう、あなた、今何時だと思ってるの? 」
ここで甘やかしては後々やっかいな事になると考えたコリスは、ネリスに向かって少しきつめの言葉を投げかけました。
「ストーカーです。ストーカー!」
開口一番、ネリスが訴えます。
「はぁ、ストーカー? お前なぁ、そんな心配は、百万年早いんじゃないのか?」
あぁ、やっぱりレアロンに言われちゃいましたね。でも、コリスも負けてはいません。
「何言ってんのよ。むしろ今まで、こんなに若くて可愛い魔女が、放っておかれたって方が不思議なくらいなのよ。師匠、あれ、絶対にストーカーです」
ネリスは、熱弁を振るいます。
実のところ、相談所の仕事自体は決まった時間に終わったのですが、帰り際、また誰かに見られているような、そんな気がしたのです。そこで彼女は遠回りを覚悟して、人通りが多い、明るいところを選んで帰って来たのですね。それで、こんなに遅くなってしまったんです。
ただネリスには、そうしただけの理由もありました。その違和感が朝に感じたものとは、悪い意味で違うような気がしたからです。もっとも途中で”景気づけ”と称し、喫茶店でジュースとケーキを食べたのも事実でしたけど。
ネリスの話を聞いて、コリスは考え込みます。
この子は気まぐれでオッチョコチョイだけど、屋敷のみんな、特に彼女を可愛がっているオリビアやフレディを無用に心配させたり、そのためにウソをつくような子ではない。それに……。
コリスの脳裏には、少し引っ掛るものがありました。それは最近、噂になっている出来事です。どんな噂かと言えば、化け物らしきものをみたという話が、チラホラと街から聞こえて来ていたのでした。
もっとも今のところ、襲われてケガをしたという類の話は聞きません。でも、街の備品が壊されたりするなどの報告は増えています。もしかしたら、それと何か関係があるのかも知れないと、コリスは思いを巡らせました。
考えすぎかしら……。
今の状況では、如何にも情報不足です。
「わかったわ、ネリス。あなたを信じましょう。もしこれからもそう言う事が続くようなら、対策を考えます」
コリスの判断に、レアロンは不満な表情を見せましたが、ネリスは自分を信用してくれたと大いに喜びました。執務室を出て行く際に、コリスには見つからないよう、レアロンに向かってアカンベーをしたのは言うまでもありません。
そんな自惚れをかき消すように、腕時計のアラームが鳴り出しました。
「やっべ!」
相談所での勤務時間が、近づいている事を知らせる合図です。ネリスは立ちこぎをして、自転車を飛ばしました。この時のネリスは、自分がどれほどの厄介事に巻き込まれるかなんて、知る由もなかったのです。
さて、時は移って、その日の夜。
「ネリス、遅いわね」
屋敷の執務室で、掛け時計を見たコリスが呟きます。時間は既に午後八時、辺りは真っ暗です。もうとっくの昔に相談所での仕事を終えて、屋敷に戻っていなければならない時刻でした。
「どうせ、あちこち道草を食ってるんですよ」
傍らで書類の確認をしていたレアロンが、ヤレヤレといった仕草をします。
”違う”と、断言できないコリスが苦笑しました。でも今日は、何か嫌な予感がするのです。
「マダム。ネリスが帰宅しました」
ノックのあとに、オリビアの夫であるフレディが、嬉しい知らせを持って執務室にやって来ます。この夫婦も、ネリスの帰りが遅いのを心配していたのです。
「あぁ、そう。良かったわ!」
安堵の言葉が、思わずコリスの口からついて出ました。
「もう、みんな心配しすぎですよ。少し、とっちめてやらなきゃダメみたいですね」
レアロンの眉が、八の字になります。
「師匠、大変です。大変!」
使い魔執事の発言を知ってか知らずか、ネリスが執務室へ飛び込んできました。
「もう、あなた、今何時だと思ってるの? 」
ここで甘やかしては後々やっかいな事になると考えたコリスは、ネリスに向かって少しきつめの言葉を投げかけました。
「ストーカーです。ストーカー!」
開口一番、ネリスが訴えます。
「はぁ、ストーカー? お前なぁ、そんな心配は、百万年早いんじゃないのか?」
あぁ、やっぱりレアロンに言われちゃいましたね。でも、コリスも負けてはいません。
「何言ってんのよ。むしろ今まで、こんなに若くて可愛い魔女が、放っておかれたって方が不思議なくらいなのよ。師匠、あれ、絶対にストーカーです」
ネリスは、熱弁を振るいます。
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ただネリスには、そうしただけの理由もありました。その違和感が朝に感じたものとは、悪い意味で違うような気がしたからです。もっとも途中で”景気づけ”と称し、喫茶店でジュースとケーキを食べたのも事実でしたけど。
ネリスの話を聞いて、コリスは考え込みます。
この子は気まぐれでオッチョコチョイだけど、屋敷のみんな、特に彼女を可愛がっているオリビアやフレディを無用に心配させたり、そのためにウソをつくような子ではない。それに……。
コリスの脳裏には、少し引っ掛るものがありました。それは最近、噂になっている出来事です。どんな噂かと言えば、化け物らしきものをみたという話が、チラホラと街から聞こえて来ていたのでした。
もっとも今のところ、襲われてケガをしたという類の話は聞きません。でも、街の備品が壊されたりするなどの報告は増えています。もしかしたら、それと何か関係があるのかも知れないと、コリスは思いを巡らせました。
考えすぎかしら……。
今の状況では、如何にも情報不足です。
「わかったわ、ネリス。あなたを信じましょう。もしこれからもそう言う事が続くようなら、対策を考えます」
コリスの判断に、レアロンは不満な表情を見せましたが、ネリスは自分を信用してくれたと大いに喜びました。執務室を出て行く際に、コリスには見つからないよう、レアロンに向かってアカンベーをしたのは言うまでもありません。
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