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魔女と奇妙な男 (4) ネリス出勤
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この屋敷内においては、コリスが絶対権力者です。二人とも渋々、彼女のいう事を聞いて、静かに食事を取りました。
さて、食事が終ったところで、ネリスは魔女の薬工場へ出勤です。ただし、彼女は”やらかした事件”の罰として、一年間は無給で働かねばなりません。それが、クビにならない条件の一つなのでした。
「今日も今日とて、タダ働きさぁ。腹減るばかりの無一文~♪」
調子っぱずれの歌を口ずさみながら、自転車に乗ったネリスは清々しい森の中を走りぬけます。
一方、こちらはコリス邸の執務室。
「マダム。先ほど、魔女協会から早便が届きました」
すっかり真面目執事に戻ったレアロンが、主人に手紙を差し出します。
「こんなに朝早く? 何かしら」
怪訝な顔をして、コリスは封筒にペーパーナイフを差し入れます。そして中の手紙を呼んだ彼女の顔は、どんどん灰色に曇っていくのでした。
「何か?」
主人の変化を、敏感に見て取とったレアロンが尋ねます。
「いえ、ちょっと厄介な事が起きたみたい。ただ……」
手紙の終わりの方を見て、コリスが少しだけ微笑みました。
こちらは魔女の薬工場に到着したネリス。建物から少し離れた自転車置き場に、愛車を止めているところです。
「!?」
その時ネリスは、何とも言えない違和感を覚えました。それが、何なのかはわかりません。でも、自分の周りにまとわりつくようなものを感じ取ったのです。
辺りをキョロキョロ見回すも何もなく、気のせいかと思ったネリスは、そのまま薬工場の建物にダッシュして行きました。遅刻ギリギリだったんです。彼女の今の立場で、遅れるなんてありえません。ただでさえ、例の事で、工場のみんなに大きな迷惑を掛けてしまったのですからね。
そんなわけで、一目散に走りだした彼女が、木立の後ろに潜む黒い影に気がつく事はありませんでした。
ボーン、ボーン、ボーン。
柱時計の鐘が、心地の良い音を奏でます。
午後三時です。おやつ休憩を取る諸先輩方に挨拶をし、ネリスは工場を後にしました。これまでもお話しした通り、彼女は罰として、一年間は無給で工場勤務をしなくてはなりません。でもその期間が終わった後、彼女はコリスの自宅を出て自活をする必要が生じます。当然、アパートを借りるお金なんて、あるわけがありません。
そこで午後四時から二時間だけ「魔女の薬の相談所」で、有給にて働く事になったのです。魔女協会も、鬼ではありません。
その「魔女の相談所」。
何をする所かと言えば、魔女の薬の使い方や、そもそもどういう薬を購入すれば良いかの相談所です。魔女の薬は魔女協会直営のお店でも売っていますが、多くはそうでないお店で扱っています。ここは、そんなお客さんの為の場所なんです。もちろん魔女以外の薬剤師もいるにはいます。でもやっぱり魔女の薬の事は、魔女に聞くのが一番なんですね。
そしてこの場所は、色々な薬の種類や効能、使用上の注意を覚えなくてはならないし、直にお客さんと触れ合える事から、新米魔女のネリスには打ってつけのアルバイト先でした。もっともこういった魔女協会の恩情に対しても、ネリスは「働き方改革に、反するんじゃないんですかぁ~」などと、文句タラタラなんですけどね。
そんなネリスでしたが、彼女は相談所へ向かう道すがらでも、朝の違和感と同じ感覚を味わっていました。何か変に包み込まれるような、見つめられているような……。
「ひょっとして、ストーカー?」
一瞬、そんな言葉がネリスの脳裏をよぎります。
「……確かにこんな可愛い魔女なんだから、そういった輩が湧いて出ても不思議じゃないわよね」
思春期特有の勘違いが、ネリスの心にポッと浮かびました。もしレアロンにでも聞かれたら「そんな心配は、百万年早い」と言われそうです。
さて、食事が終ったところで、ネリスは魔女の薬工場へ出勤です。ただし、彼女は”やらかした事件”の罰として、一年間は無給で働かねばなりません。それが、クビにならない条件の一つなのでした。
「今日も今日とて、タダ働きさぁ。腹減るばかりの無一文~♪」
調子っぱずれの歌を口ずさみながら、自転車に乗ったネリスは清々しい森の中を走りぬけます。
一方、こちらはコリス邸の執務室。
「マダム。先ほど、魔女協会から早便が届きました」
すっかり真面目執事に戻ったレアロンが、主人に手紙を差し出します。
「こんなに朝早く? 何かしら」
怪訝な顔をして、コリスは封筒にペーパーナイフを差し入れます。そして中の手紙を呼んだ彼女の顔は、どんどん灰色に曇っていくのでした。
「何か?」
主人の変化を、敏感に見て取とったレアロンが尋ねます。
「いえ、ちょっと厄介な事が起きたみたい。ただ……」
手紙の終わりの方を見て、コリスが少しだけ微笑みました。
こちらは魔女の薬工場に到着したネリス。建物から少し離れた自転車置き場に、愛車を止めているところです。
「!?」
その時ネリスは、何とも言えない違和感を覚えました。それが、何なのかはわかりません。でも、自分の周りにまとわりつくようなものを感じ取ったのです。
辺りをキョロキョロ見回すも何もなく、気のせいかと思ったネリスは、そのまま薬工場の建物にダッシュして行きました。遅刻ギリギリだったんです。彼女の今の立場で、遅れるなんてありえません。ただでさえ、例の事で、工場のみんなに大きな迷惑を掛けてしまったのですからね。
そんなわけで、一目散に走りだした彼女が、木立の後ろに潜む黒い影に気がつく事はありませんでした。
ボーン、ボーン、ボーン。
柱時計の鐘が、心地の良い音を奏でます。
午後三時です。おやつ休憩を取る諸先輩方に挨拶をし、ネリスは工場を後にしました。これまでもお話しした通り、彼女は罰として、一年間は無給で工場勤務をしなくてはなりません。でもその期間が終わった後、彼女はコリスの自宅を出て自活をする必要が生じます。当然、アパートを借りるお金なんて、あるわけがありません。
そこで午後四時から二時間だけ「魔女の薬の相談所」で、有給にて働く事になったのです。魔女協会も、鬼ではありません。
その「魔女の相談所」。
何をする所かと言えば、魔女の薬の使い方や、そもそもどういう薬を購入すれば良いかの相談所です。魔女の薬は魔女協会直営のお店でも売っていますが、多くはそうでないお店で扱っています。ここは、そんなお客さんの為の場所なんです。もちろん魔女以外の薬剤師もいるにはいます。でもやっぱり魔女の薬の事は、魔女に聞くのが一番なんですね。
そしてこの場所は、色々な薬の種類や効能、使用上の注意を覚えなくてはならないし、直にお客さんと触れ合える事から、新米魔女のネリスには打ってつけのアルバイト先でした。もっともこういった魔女協会の恩情に対しても、ネリスは「働き方改革に、反するんじゃないんですかぁ~」などと、文句タラタラなんですけどね。
そんなネリスでしたが、彼女は相談所へ向かう道すがらでも、朝の違和感と同じ感覚を味わっていました。何か変に包み込まれるような、見つめられているような……。
「ひょっとして、ストーカー?」
一瞬、そんな言葉がネリスの脳裏をよぎります。
「……確かにこんな可愛い魔女なんだから、そういった輩が湧いて出ても不思議じゃないわよね」
思春期特有の勘違いが、ネリスの心にポッと浮かびました。もしレアロンにでも聞かれたら「そんな心配は、百万年早い」と言われそうです。
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