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魔女と奇妙な男 (1) 魔女屋敷
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ここはヴォルノースの南の森。街からは少し離れ、自然豊かな場所にある小さなお屋敷。
「あ~、眠いなぁ」
新米魔女のネリスが、お屋敷の玄関前を掃除しています。これが彼女の日課。というより、この屋敷に住まいするため、こなす必要がある条件の一つなんです。
このお嬢さん、先々月に自らが勤める「魔女の薬工場」で、とんでもない失敗をやってしまい、本来ならばクビになるところでした。しかし諸般の事情で、職を失う羽目にはならず、このお屋敷に身を寄せる事になったのです。
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魔女の薬 (1) 新米魔女・ネリス
https://ncode.syosetu.com/n0236iv/61
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でもね、引っ越しから一ヶ月も経っていないのにも関わらず、厳しいルールにヘトヘトになってるんですね。どうするつもりなのでしょう? まだここへ、残り十一ヶ月も住まいしなければいけないのに(それが、クビにならない条件なんです)。
まぁ”厳しいルール”とは言いましても、それはお気楽な性格の上に、自由奔放なネリスから見た場合の話であって、実際の所は”少し厳しいかな”程度の水準です。でも当屋敷に来る前は、アパートで気ままな一人暮らしを送っていたネリスでしたから、すぐにでも飛び出したいくらい窮屈な生活でした。
「早く、年季が明けないかなぁ」
ネリスはホウキを持ったまま、門扉に続く赤い石の壁にもたれかかります。まだ掃除は十分に終わっていないのに……。
魔女にホウキ。なんてスタンダードな取り合わせだと、思われた方もいるかも知れません。でも、ここヴォルノースの世界では、魔女とホウキは関係ないんです。ですから、それにまたがって空を飛ぶなんて事もありません。
ヴォルノースでは、全ての住人が何らかの魔法を使えます。もっともその殆どは、軽い奇術程度のパッとしないものなんですけどね。
だけど中には、世の中にとても役に立つ魔法を使える者もいます。薬づくりの魔法もその一つで、そういった能力を持つ者を「魔女」と呼ぶんですね。なぜ”魔女”なのかって? それは、薬づくりの魔法を使える者の殆どが女性だからです。
さて、早くも掃除に飽きて鼻歌なんぞを歌っている魔女ネリスですが、突然の声に彼女は飛び上がります。
「おら! サボってんじゃねぇぞ。居候!!」
まだ少し幼さが残る男の声が響きました。
でもネリスが慌てて辺りを見回しても、人っ子一人おりません。しかし彼女には、声の主が誰かハッキリ分かっておりました。この一カ月の間、怒鳴られない日は只の一日もなかったからです。
「レアロン。あんた、何処にいるのよ!?」
ネリスが、仇敵と言って良い者の名を口にします。
「マダム・コリスの執務室だよ。
まったく……。誰も見ていないと思って、サボってんじゃねぇぞ」
「サボってなんかいないわよ。休憩中よ、休憩中!」
姿も見えぬ声の主に向かって、ネリスが早速かみつきました。
「たかが門前の掃除に、休憩なんて必要ないだろうが。朝食の時間だ。さっさと、食堂へ来い」
そう言い放つと、その声は煙のように掻き消えます。どうしてこういう事が出来るのか、そもそも彼は誰なのか。それは、もう少し後でご説明しますね。
「あいつ、本当にムカツクわ~。ここを出て行く時は、絶対、このホウキでぶん殴ってやるんだから」
おやおや……。思春期も後半に差し掛かったお転婆魔女が、毒づきました。
「あ~、眠いなぁ」
新米魔女のネリスが、お屋敷の玄関前を掃除しています。これが彼女の日課。というより、この屋敷に住まいするため、こなす必要がある条件の一つなんです。
このお嬢さん、先々月に自らが勤める「魔女の薬工場」で、とんでもない失敗をやってしまい、本来ならばクビになるところでした。しかし諸般の事情で、職を失う羽目にはならず、このお屋敷に身を寄せる事になったのです。
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魔女の薬 (1) 新米魔女・ネリス
https://ncode.syosetu.com/n0236iv/61
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でもね、引っ越しから一ヶ月も経っていないのにも関わらず、厳しいルールにヘトヘトになってるんですね。どうするつもりなのでしょう? まだここへ、残り十一ヶ月も住まいしなければいけないのに(それが、クビにならない条件なんです)。
まぁ”厳しいルール”とは言いましても、それはお気楽な性格の上に、自由奔放なネリスから見た場合の話であって、実際の所は”少し厳しいかな”程度の水準です。でも当屋敷に来る前は、アパートで気ままな一人暮らしを送っていたネリスでしたから、すぐにでも飛び出したいくらい窮屈な生活でした。
「早く、年季が明けないかなぁ」
ネリスはホウキを持ったまま、門扉に続く赤い石の壁にもたれかかります。まだ掃除は十分に終わっていないのに……。
魔女にホウキ。なんてスタンダードな取り合わせだと、思われた方もいるかも知れません。でも、ここヴォルノースの世界では、魔女とホウキは関係ないんです。ですから、それにまたがって空を飛ぶなんて事もありません。
ヴォルノースでは、全ての住人が何らかの魔法を使えます。もっともその殆どは、軽い奇術程度のパッとしないものなんですけどね。
だけど中には、世の中にとても役に立つ魔法を使える者もいます。薬づくりの魔法もその一つで、そういった能力を持つ者を「魔女」と呼ぶんですね。なぜ”魔女”なのかって? それは、薬づくりの魔法を使える者の殆どが女性だからです。
さて、早くも掃除に飽きて鼻歌なんぞを歌っている魔女ネリスですが、突然の声に彼女は飛び上がります。
「おら! サボってんじゃねぇぞ。居候!!」
まだ少し幼さが残る男の声が響きました。
でもネリスが慌てて辺りを見回しても、人っ子一人おりません。しかし彼女には、声の主が誰かハッキリ分かっておりました。この一カ月の間、怒鳴られない日は只の一日もなかったからです。
「レアロン。あんた、何処にいるのよ!?」
ネリスが、仇敵と言って良い者の名を口にします。
「マダム・コリスの執務室だよ。
まったく……。誰も見ていないと思って、サボってんじゃねぇぞ」
「サボってなんかいないわよ。休憩中よ、休憩中!」
姿も見えぬ声の主に向かって、ネリスが早速かみつきました。
「たかが門前の掃除に、休憩なんて必要ないだろうが。朝食の時間だ。さっさと、食堂へ来い」
そう言い放つと、その声は煙のように掻き消えます。どうしてこういう事が出来るのか、そもそも彼は誰なのか。それは、もう少し後でご説明しますね。
「あいつ、本当にムカツクわ~。ここを出て行く時は、絶対、このホウキでぶん殴ってやるんだから」
おやおや……。思春期も後半に差し掛かったお転婆魔女が、毒づきました。
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