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大魔法使いの死 (1) 大爆発

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ここはヴォルノースの影の森。異形の者たちの隠れ住む土地だ。この森は危険に満ち満ちており、滅多に俗世の人間は立ち入らない。彼らの方でも、立ち入りを”禁”として固く守っているからだ。もしそれを破れば、どれだけの豪傑であろうと命の保証はないだろう。

だが、人が全く存在しないわけではない。その深く憂いに満ちた樹海のどこかに、年老いた大魔法使いパーパスの住処がある。

「あぁ、もう。マスターったら、また研究に没頭してるな。もうすぐ昼ご飯の時間なのに、まだこっちへ来ていない」

大魔法使いが暮らす家の食堂で、生きたカラクリ人形・シュプリンが嘆く。彼自慢の料理の大半が、既にテーブルに用意されているにも関わらず、肝心の主人が魔法の研究室から出てくる気配が全くないのであった。

「結局、私が呼びに行かなくちゃいけないんだから、本当、あの人には世話がやける」

一見、四十代の生真面目な執事に見えるこのカラクリ人形、彼の主人である大魔法パーパスが、自ら作り出した珠玉の作品であった。魔法液の染みわたった特殊なオーク材をメインに構築されており、その強度はそこらの重鎧に勝るとも劣らない。

もちろん、ただ頑丈というばかりではない。メタルハートに刻まれたその繊細な心は、ワガママいっぱいの主人を優しく包み込み、そのしなやかで器用な手が作り出す料理の味と言ったら、どんな一流シェフでもかなわない出来栄えなのである。

シュプリンは、ほかほかと湯気を立てている料理の方をチラと振り返り、いまいましそうな顔をしながら地下への階段を下りて行った。悠久の時を生きてきた大魔法使いパーパスの仕事は、主に魔法の研究である。その研究に専念する為、この誰も立ち入る事のない闇の地に住まいしているのだった。

あぁ、そういえばマスター、昨日は絶対に風呂へ入っていないぞ。入る入ると言っていたけれど、私が寝室に下がったあとも、きっと魔法書を読み続けていたに違いない。朝一番で風呂場を確認してみたものの、使った形跡はまるでなかったからね。

このカラクリ人形、一見、口うるさいように見えても、それは全て主人の為、大魔法使いパーパスに、健康的な暮らしをしてもらいたいが一心のやかましさなのである。

一方で、彼は単に、かしましいだけの執事兼召使いではない。家事労働はあくまで能力の一つに過ぎず、剣を取らせれば天下無双を誇り、徒手空拳とても無類の強さを発揮する強者なのだ。

おまけにその頭脳は明晰などという言葉では表し切れないほど優秀で、一国の軍師と比べても、何ら遜色のない賢者なのである。こんな素晴らしい従者を持てるとは、大魔法パーパスは幸せ者だ。

カツーン、カツーン。

シュプリンの足音が寒々とした階段室に響く。その虚しい音を耳にしながら、シュプリンは早くも夕飯のメニューを考えていた。

その時である。彼の類まれなる感覚が、これから起こるであろう厄災をいち早く読み取った。自らの直感を信じ、シュプリンは歩を早める。

実験室の入り口が視界に入ったかと思うや否や、金属で出来た扉が轟音と共にひしゃげ飛んだ。遮るものが何もなくなった戸口からは、オレンジ色の煙が濛々と噴き出している。

「マスター!」

シュプリンは、主人の名を呼び、大声を張り上げた。それは、パーパスの命にかかわる事態であるとの直感を得たからだった。

シュプリンは、主人がどんな実験をしていたかを知らない。たとえ聞いたとしても、頑固な魔法使いがその内容を召使いに教える事などありはしなかった。

しかし彼は、そんな薄情な主人の為に、危険を顧みず実験室の中へと迷いなく飛び込んだのである。
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