ヴォルノースの森の なんてことない毎日

藻ノかたり

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お髭(ひげ)のニール (20) はじめましての挨拶

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「”ありがとう”は? ドッジ」
「そうよ、”ありがとう”は?ドッジ」

ドッジは二人の文句に辟易したようでしたが、彼女たちがいなくては、作戦が成功しなかったのも事実でしたので、

「わかったよ、ありがとうよ。ミリナにファリナ」

と、しぶしぶ礼を言いました。二人の精霊が、満面の笑みを浮かべたのは言うまでもありません。

「えっと、ドッジ。良ければ紹介してくれないかな」

話に割って入るタイミングを見はからっていたニールが、恐る恐る尋ねました。

「あ、あぁ。こいつらは、ミリナとファリナ。まぁ、俺の子分みたいなもんだ」

「子分?」

ニールが聞き返そうとした時、

「い、痛て!」

ドッジが、いきなり甲高い声を上げました。

「子分じゃないでしょ。友だちでしょ!」
「そうよ、友だちでしょ!」

ドッジの肩から飛び立った可愛らしい妖精たちが、彼に折檻をします。ミリナはドッジの髪の毛を引っ張り、ファリナは彼の鼻のあたりを蹴飛ばしました。

「や、やめろよ。わ、わかったよ。友だちだよ、友だち!」

これはたまらんと言った口調で、ドッジがすぐに紹介しなおしました。

「その二人は、あなたが魔法で呼び出したの?」

今度はマリアが、興味津々に尋ねます。

「ま、まぁな……」

隠れ家でドッジは”雷を落とす魔法とか、火の玉を発射する魔法”を、これから発揮するんだと言っていましたよね。本当は、既に魔法が使えているのに……。

まぁ、バツが悪かったって事なんでしょう。だって、見るからにガキ大将と言った風情の彼の使う魔法が、こんなに可愛いらしい精霊を呼び出す魔法だったんですからね。

「ふふ、かわいい……!」

マリアが、思わず笑いました。

「あ、マリア。お前、いま笑ったな。覚えてるだろうな。笑ったら、引っぱたくって!」

恥ずかしさで顔を真っ赤にしたドッジが、体をズイっとマリアの方へ近づけます。

「ダメ、乱暴は!」
「ダメ、乱暴は!」

二人の精霊が、そろってドッジの前に立ちはだかります。

「どけ、これは男のコケンにかかわる問題だ。女の出る幕じゃねぇ!」

本当に引っぱたく気はないものの、行きがかり上、ドッジは啖呵を切りました。

「お母さんに、言っちゃうからね」
「そうよ、たっぷり叱ってもらうからね」

ミリナとファリナは、二人そろってアゴを突き出し言いました。

”お母さん”という言葉を聞いて、ドッジがひるみます。ガキ大将とはいえ、所詮は八歳の男の子。まだまだお母さんは怖いのです。特にドッジのお母さんは、ニールのママを遥かにしのぐ豪傑なんですね。ドッジのお父さんだってかないません。

「わ、わかったよ。母ちゃんには、絶対内緒だぞ!」

「内緒ね。ふふふ」
「内緒ね。ふふふ」

二人の精霊は、ケラケラと笑いました。

「あぁ、ミリナとファリナ。はじめました。ボクは、ドッジの友だちのニール」

「私は、同じくマリア」

初体面の二人が、それぞれ挨拶をします。

「こちらこそ、はじめまして」
「こちらこそ、はじめまして」

ミリナとファリナは、そろって挨拶を返します。

「でもドッジ。何で隠してたのさ。こんなに素敵な魔法が、使えるようになったっていうのに」

ニールがお髭をブラブラさせながら言いました。マリアも異論はないとばかりに、ウンウンとうなづきます。

「だ、だって格好悪いじゃねぇか。このドッジ様の使える魔法が、女の子の喜びそうな変てこな魔法だなんて……」

ドッジがそう言いかけると、またしてもミリナとファリナが彼の髪を引っ張ったり、顔面を蹴とばしたりして抗議します。
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