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お髭(ひげ)のニール (14) 救出へ?

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ニールは瞬く間に、事の経緯を推理します。まぁ、後から分かった事なのですが、彼の考えは概ね当たっていました。そして、あらましを二人に説明します。

「どうしよう」

マリアが恐ろし気に呟きます。この先、何が起こるかわかっているからでした。

「どうしようって、何がどうしようなんだ?」

のんきに、袋の中のお菓子をつまんでいるドッジが尋ねます。

「だって、このままじゃ、あの子、流されちゃうわよ。あの様子から見て体力も余り持たないんじゃないかしら。そうすると、板切れにもつかまる事が出来なくて溺れちゃうわ」

マリアの顔が、ドンドン青ざめていきました。

「いや、平気だろう。犬なんだからさ。犬かきで、泳げるんじゃねぇのか?」

またまたドッジが、無邪気に返します。

「無理だよ。犬かきで泳げるくらいなら、板切れにつかまってなんかいない。それに、水の勢いもかなり強いよ。板切れから離れたら、マリアが言ったように溺れちゃう」

お髭を伸ばした、子供なんだか大人なんだか良くわからないニールが言いました。

「えぇ!? そりゃ、大変じゃないか。どうすんだよ」

やっと、事の重大さに気がついたドッジが叫びます。いや、決して悪気があるわけじゃないんです。そういう気質の子供って事なんですね。

「どうするって……、どうしようもないわよ」

マリアが泣きそうになって、言いました。頭がいいばっかりに、物事の先も他の子供より早く見えてしまうのです。

「そりゃ、ないだろ!? それじゃぁ人情に厚い、俺たちヴォルノースっ子の名折れだぜ!」

また時代劇めいた口調で、ドッジがたんかを切ります。

「それじゃぁ、どうやって助けるって言うのよ。これだけ川の流れが速いと、私たちが行ったって、こっちが溺れちゃうわ。

ロープのようなものがあれば、話は別だろうけど……」

マリアの言う事は、至極もっともです。普段の川の深さはそれほどではないものの、昨日の雨の影響で、増水し流れが速くなっている川に、子供が入るなんてとんでもありません。

それにロープなんて、ここにあるわけがない。子供たちのお家にはありますが、取りに行っている間に、子犬の力は尽きて、流されてしまうに決まってます。

「おい、ニール、どうすんだよ。見殺しにするのかよ?」

どうしようもない事は、マリアの説明でわかってはいましたが、ドッジはニールに詰め寄ります。でも、別にニールを責めているのではありません。

こういう時、ニールはとっても頼りになるのです。マリアに比べれば知識も少なく、ドッジと比べても腕っぷしの弱いニール。そんな彼が、二人と対等な仲良し三人組でいられるのは、そういうわけなんですね。

「そ、そんな事、急に言われても……」

話をふられたニールも困っています。でもね、困っていながらも、同時に頭をフル回転させているニールです。

ボクたちが、川へ入るなんて出来ない。マリアのいう通り、ロープやヒモの類もない。じゃぁ、どうするんだ……。助けるなんて、やっぱり無理……。

そこまで考えた時、ニールの頭の片隅にキラリと光る何かが現れました。

そうか、ロープっていうのは長くて丈夫なヒモだ。だからロープじゃなくても、同じようなものがあれば……。同じようなもの、長くて丈夫な……。

「あるじゃないか!」

ニールは思わず声を上げました。ビックリしたのは、傍にいた二人の仲間です。

「なに、なんなの?」

「お前、何言ってんだ。パニクって、いっちまったか!」

ニールの不意の発言に、マリアもドッジもまごついてしまいました。

「ドッジ! 隠れ家から、あの小ビンを持って来て。早く!」

ニールが、鋭い目つきでドッジを見ながら叫びます。彼の”スイッチ”が入ったのです。
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