上 下
106 / 172

お髭(ひげ)のニール (14) 救出へ?

しおりを挟む
ニールは瞬く間に、事の経緯を推理します。まぁ、後から分かった事なのですが、彼の考えは概ね当たっていました。そして、あらましを二人に説明します。

「どうしよう」

マリアが恐ろし気に呟きます。この先、何が起こるかわかっているからでした。

「どうしようって、何がどうしようなんだ?」

のんきに、袋の中のお菓子をつまんでいるドッジが尋ねます。

「だって、このままじゃ、あの子、流されちゃうわよ。あの様子から見て体力も余り持たないんじゃないかしら。そうすると、板切れにもつかまる事が出来なくて溺れちゃうわ」

マリアの顔が、ドンドン青ざめていきました。

「いや、平気だろう。犬なんだからさ。犬かきで、泳げるんじゃねぇのか?」

またまたドッジが、無邪気に返します。

「無理だよ。犬かきで泳げるくらいなら、板切れにつかまってなんかいない。それに、水の勢いもかなり強いよ。板切れから離れたら、マリアが言ったように溺れちゃう」

お髭を伸ばした、子供なんだか大人なんだか良くわからないニールが言いました。

「えぇ!? そりゃ、大変じゃないか。どうすんだよ」

やっと、事の重大さに気がついたドッジが叫びます。いや、決して悪気があるわけじゃないんです。そういう気質の子供って事なんですね。

「どうするって……、どうしようもないわよ」

マリアが泣きそうになって、言いました。頭がいいばっかりに、物事の先も他の子供より早く見えてしまうのです。

「そりゃ、ないだろ!? それじゃぁ人情に厚い、俺たちヴォルノースっ子の名折れだぜ!」

また時代劇めいた口調で、ドッジがたんかを切ります。

「それじゃぁ、どうやって助けるって言うのよ。これだけ川の流れが速いと、私たちが行ったって、こっちが溺れちゃうわ。

ロープのようなものがあれば、話は別だろうけど……」

マリアの言う事は、至極もっともです。普段の川の深さはそれほどではないものの、昨日の雨の影響で、増水し流れが速くなっている川に、子供が入るなんてとんでもありません。

それにロープなんて、ここにあるわけがない。子供たちのお家にはありますが、取りに行っている間に、子犬の力は尽きて、流されてしまうに決まってます。

「おい、ニール、どうすんだよ。見殺しにするのかよ?」

どうしようもない事は、マリアの説明でわかってはいましたが、ドッジはニールに詰め寄ります。でも、別にニールを責めているのではありません。

こういう時、ニールはとっても頼りになるのです。マリアに比べれば知識も少なく、ドッジと比べても腕っぷしの弱いニール。そんな彼が、二人と対等な仲良し三人組でいられるのは、そういうわけなんですね。

「そ、そんな事、急に言われても……」

話をふられたニールも困っています。でもね、困っていながらも、同時に頭をフル回転させているニールです。

ボクたちが、川へ入るなんて出来ない。マリアのいう通り、ロープやヒモの類もない。じゃぁ、どうするんだ……。助けるなんて、やっぱり無理……。

そこまで考えた時、ニールの頭の片隅にキラリと光る何かが現れました。

そうか、ロープっていうのは長くて丈夫なヒモだ。だからロープじゃなくても、同じようなものがあれば……。同じようなもの、長くて丈夫な……。

「あるじゃないか!」

ニールは思わず声を上げました。ビックリしたのは、傍にいた二人の仲間です。

「なに、なんなの?」

「お前、何言ってんだ。パニクって、いっちまったか!」

ニールの不意の発言に、マリアもドッジもまごついてしまいました。

「ドッジ! 隠れ家から、あの小ビンを持って来て。早く!」

ニールが、鋭い目つきでドッジを見ながら叫びます。彼の”スイッチ”が入ったのです。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

スクールカースト最底辺の俺、勇者召喚された異世界でクラスの女子どもを見返す

九頭七尾
ファンタジー
名門校として知られる私立天蘭学園。 女子高から共学化したばかりのこの学校に、悠木勇人は「女の子にモテたい!」という不純な動機で合格する。 夢のような学園生活を思い浮かべていた……が、待っていたのは生徒会主導の「男子排除運動」。 酷い差別に耐えかねて次々と男子が辞めていき、気づけば勇人だけになっていた。 そんなある日のこと。突然、勇人は勇者として異世界に召喚されてしまう。…クラスの女子たちがそれに巻き込まれる形で。 スクールカースト最底辺だった彼の逆転劇が、異世界で始まるのだった。

クラス転移から逃げ出したイジメられっ子、女神に頼まれ渋々異世界転移するが職業[逃亡者]が無能だと処刑される

こたろう文庫
ファンタジー
日頃からいじめにあっていた影宮 灰人は授業中に突如現れた転移陣によってクラスごと転移されそうになるが、咄嗟の機転により転移を一人だけ回避することに成功する。しかし女神の説得?により結局異世界転移するが、転移先の国王から職業[逃亡者]が無能という理由にて処刑されることになる 初執筆作品になりますので日本語などおかしい部分があるかと思いますが、温かい目で読んで頂き、少しでも面白いと思って頂ければ幸いです。 なろう・カクヨム・アルファポリスにて公開しています こちらの作品も宜しければお願いします [イラついた俺は強奪スキルで神からスキルを奪うことにしました。神の力で学園最強に・・・]

転生メイドは絆されない ~あの子は私が育てます!~

志波 連
ファンタジー
息子と一緒に事故に遭い、母子で異世界に転生してしまったさおり。 自分には前世の記憶があるのに、息子は全く覚えていなかった。 しかも、愛息子はヘブンズ王国の第二王子に転生しているのに、自分はその王子付きのメイドという格差。 身分差故に、自分の息子に敬語で話し、無理な要求にも笑顔で応える日々。 しかし、そのあまりの傍若無人さにお母ちゃんはブチ切れた! 第二王子に厳しい躾を始めた一介のメイドの噂は王家の人々の耳にも入る。 側近たちは不敬だと騒ぐが、国王と王妃、そして第一王子はその奮闘を見守る。 厳しくも愛情あふれるメイドの姿に、第一王子は恋をする。 後継者争いや、反王家貴族の暗躍などを乗り越え、元親子は国の在り方さえ変えていくのだった。

妖精族を統べる者

暇野無学
ファンタジー
目覚めた時は死の寸前であり、二人の意識が混ざり合う。母親の死後村を捨てて森に入るが、そこで出会ったのが小さな友人達。

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

通販で買った妖刀がガチだった ~試し斬りしたら空間が裂けて異世界に飛ばされた挙句、伝説の勇者だと勘違いされて困っています~

日之影ソラ
ファンタジー
ゲームや漫画が好きな大学生、宮本総司は、なんとなくネットサーフィンをしていると、アムゾンの購入サイトで妖刀が1000円で売っているのを見つけた。デザインは格好よく、どことなく惹かれるものを感じたから購入し、家に届いて試し切りをしたら……空間が斬れた!  斬れた空間に吸い込まれ、気がつけばそこは見たことがない異世界。勇者召喚の儀式最中だった王城に現れたことで、伝説の勇者が現れたと勘違いされてしまう。好待遇や周りの人の期待に流され、人違いだとは言えずにいたら、王女様に偽者だとバレてしまった。  偽物だったと世に知られたら死刑と脅され、死刑を免れるためには本当に魔王を倒して、勇者としての責任を果たすしかないと宣言される。 「偽者として死ぬか。本物の英雄になるか――どちらか選びなさい」  選択肢は一つしかない。死にたくない総司は嘘を本当にするため、伝説の勇者の名を騙る。

御者のお仕事。

月芝
ファンタジー
大陸中を巻き込んだ戦争がようやく終わった。 十三あった国のうち四つが地図より消えた。 大地のいたるところに戦争の傷跡が深く刻まれ、人心は荒廃し、文明もずいぶんと退化する。 狂った環境に乱れた生態系。戦時中にバラ撒かれた生体兵器「慮骸」の脅威がそこいらに充ち、 問題山積につき夢にまでみた平和とはほど遠いのが実情。 それでも人々はたくましく、復興へと向けて歩き出す。 これはそんな歪んだ世界で人流と物流の担い手として奮闘する御者の男の物語である。

転生幼女のチートな悠々自適生活〜伝統魔法を使い続けていたら気づけば賢者になっていた〜

犬社護
ファンタジー
ユミル(4歳)は気がついたら、崖下にある森の中にいた。 馬車が崖下に落下した影響で、前世の記憶を思い出す。周囲には散乱した荷物だけでなく、さっきまで会話していた家族が横たわっており、自分だけ助かっていることにショックを受ける。 大雨の中を泣き叫んでいる時、1体の小さな精霊カーバンクルが現れる。前世もふもふ好きだったユミルは、もふもふ精霊と会話することで悲しみも和らぎ、互いに打ち解けることに成功する。 精霊カーバンクルと仲良くなったことで、彼女は日本古来の伝統に関わる魔法を習得するのだが、チート魔法のせいで色々やらかしていく。まわりの精霊や街に住む平民や貴族達もそれに振り回されるものの、愛くるしく天真爛漫な彼女を見ることで、皆がほっこり心を癒されていく。 人々や精霊に愛されていくユミルは、伝統魔法で仲間たちと悠々自適な生活を目指します。

処理中です...