ヴォルノースの森の なんてことない毎日

藻ノかたり

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お髭(ひげ)のニール (10) 最後の一人

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「ねぇ、ニール。何であなた、こんなものを塗りたくったの? 注意書きに”お子様へのご使用はお控えください”って、書いてあるじゃない」

マリアが、自慢げに言いました。

「え? 子供って文字は読めたから、てっきりボクも使っていいんだと思っちゃった」

平常心を取り戻していないのか、未だにコンテルランを模した紙袋をかぶっているニール。既にトイレットペーパーの芯は回収しており、また元のように長いお髭を巻き付けていました。

「だめねぇ、ニール。あなたってば、勢いで突っ走っちゃうところがあるでしょう? もっと、慎重にならなきゃね」

女の子の方が早熟なのは、どの世界でも同じ事。ここヴォルノースも、例外ではないようです。

「う……ん……」

なんだよ、お姉さんぶって……と思ったニールでしたが、反論する余地なんてありません。大人しく頭を垂れました。何か、ニールのパパとママのやり取りを見ているようです。

「で、どうしたらいいだろう?」

反省は反省として、ニールがマリアに問いかけます。落ち込んでも、すぐに現実を見つめなおす。そこがニールの良いところです。

「薬の説明文の所に”お問い合わせはこちらにって書いてあるわ。これは薬専門の相談所ね。一度、お母さんと訪ねた事があるわ。そこへ行ってみましょうか」

マリアが、自信なさげに言いました。

「だめだよ、そんなの。子供だけで行ったって、親と一緒に来てねって言われるだけだし、そもそもこんな格好で行ったら、住所を聞かれて連絡されちゃう」

ニールが、異議を唱えました。

マリアとしても、当然予想されていた反論なので”うーん”と溜息を一つつきました。

「そうなのよねぇ……。いっその事、あなたのお母さんに白状しちゃったら?」

「う~ん、それしかないのかなぁ……。この髭さえ切っちゃえば、どうにか誤魔化せるとは思うんだけど……」

ママの剣幕を想像すると、ニールには決心がつきませんでした。

その時です。

「話は聞かせてもらったぁ!!」

ニールとマリアがいる部屋のドアが、突然開きました。そしてその向こうには、年頃は二人と同じくらいではあるものの、明らかに大柄で、きかん坊そうな男の子が仁王立ちをしています。

「ドッジ!」

ニールとマリアが、同時に叫びました。

このドッジと呼ばれた少年。実は仲良し三人組の最後の一人なんです。見た目の通りガキ大将気質ですが、妙にニールとは馬が合い、マリアの博学さには一目置いています。もちろん、彼もこの隠れ家の存在を知っておりました。

「いやぁ、実は母ちゃんとケンカしちゃってさぁ。秘密の隠れ家に、避難して来たって寸法さ。そしたら、どうよ。先客がいたんでトックリと話を聞かせてもらったってわけさ」

子供のくせに、何か時代劇めいた言葉遣いをするドッジ。これは間違いなく、そういったお芝居が大好きな彼の父親からの影響でした。

「どうれ、見せてみな」

そう言うと、彼はニールのかぶっていた紙袋に手をかけて、一気に取り去ってしまいます。

「わぁ、やめて」

ニールの抵抗も空しく、彼は恥ずかしい格好を疲労せざるを得ませんでした。
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