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お髭(ひげ)のニール (5) 蛇の正体
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「助けて、ママ!」
ニールは咄嗟に、母親へ助けを求めました。ママが聞いたら大喜び、パパが聞いたらちょっと落ち込むかも知れません。
救いの地、居間に辿り着いたニールでしたが、またもや蛇に足を取られて転んでしまいます。ここで大泣きすると思いきや、ニールは開き直りました。
「やいやい、蛇! いつまでボクにくっついるんだ」
ニールは初めて、落ち着いた目で蛇を睨みつけます。
「あれ?」
彼が呆気に取られたのも無理はありません。だって、彼にくっついていたのは、蛇ではなかったのですからね。
蛇だと思ったその長くてウネウネしたものは、ニールのアゴから”生えて”いました。そう、彼が蛇だと勘違いしていたのは、なんとニールのアゴから生えていた、長い長いお髭だったのです。
ニールは大急ぎで再び洗面所へ向かい、自分専用の鏡の前に立ちました。
「うひゃぁ~」
ニールが、悦びとも驚きともつかない雄叫びをあげます。
鏡の中のニールのアゴからは、立派な立派なお髭が垂れ下がっておりました。彼の背丈と同じくらいはあるようです。さすがは、ママが怒り出すような高価な薬です。効果に偽りはないようですね。
そうか、多分、冷蔵庫を閉める時に薬の効果が現れて、一気に髭が伸びたんだ。冷蔵庫の扉を閉めた時、凄く痛かったのは、この髭が扉に挟まったからなんだろうな。
そして挟まった髭が邪魔をして、扉は完全には閉まらなかった。だからすぐに開いてしまったんだ。で、慌てたボクは、この髭に足を取られて転んでしまった……。
八歳とは思えない、明晰な推理が光ります。
ニールは、鏡の前で様々なポーズをします。大魔法使いのようなポーズ、偉い政治家のようなポーズ、その他、髭にまつわりそうな人たちの真似を楽しみました。
その時です。柱時計の音がボーン、ボーンと何回か鳴りました。
「あっ、いけない!」
ママがそろそろ帰って来る時間です。こんなイタズラがバレてしまったら、パパと一緒に大目玉を食らうこと間違いなしの事態でした。
ニールは急いでハサミを取りに行きます。一刻も早く元通りの顔になるためです。でも大きなハサミは危ないので、ニールが知らない所へ隠してあります。だから、ニールは子供用の小さなハサミしか、使う事が出来ませんでした。
早速、お道具箱の中から、自分のハサミを取り出したニール。
ジョキ、ジョキと髭を切り落としていきます……、いえ、切り落としていく予定でした。
でも彼の予定は大幅に狂います。いくら切ろうと思っても、全く切れないのです。正確に言えば外側の何本かは切れました。でもそんなのは焼け石に水。見た目は全く変わりません。
「どうして? どうして!」
半泣きになったニールの声が、居間に響きます。でもこれは当然と言えば当然の話。
髭や髪の毛って、一本一本はすぐに切れても、束になると容易な事では切れません。子供用のハサミでは尚更です。大人だったらみんな知っている話ですが、子供のニ―ルが知らないのも無理はありませんでした。
さぁ、困りました。ママが帰ってくる時間が、刻一刻と迫っています。
「そうだ、マリアたちに相談しよう」
ニールは、即座に思いつきます。
ニールは咄嗟に、母親へ助けを求めました。ママが聞いたら大喜び、パパが聞いたらちょっと落ち込むかも知れません。
救いの地、居間に辿り着いたニールでしたが、またもや蛇に足を取られて転んでしまいます。ここで大泣きすると思いきや、ニールは開き直りました。
「やいやい、蛇! いつまでボクにくっついるんだ」
ニールは初めて、落ち着いた目で蛇を睨みつけます。
「あれ?」
彼が呆気に取られたのも無理はありません。だって、彼にくっついていたのは、蛇ではなかったのですからね。
蛇だと思ったその長くてウネウネしたものは、ニールのアゴから”生えて”いました。そう、彼が蛇だと勘違いしていたのは、なんとニールのアゴから生えていた、長い長いお髭だったのです。
ニールは大急ぎで再び洗面所へ向かい、自分専用の鏡の前に立ちました。
「うひゃぁ~」
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鏡の中のニールのアゴからは、立派な立派なお髭が垂れ下がっておりました。彼の背丈と同じくらいはあるようです。さすがは、ママが怒り出すような高価な薬です。効果に偽りはないようですね。
そうか、多分、冷蔵庫を閉める時に薬の効果が現れて、一気に髭が伸びたんだ。冷蔵庫の扉を閉めた時、凄く痛かったのは、この髭が扉に挟まったからなんだろうな。
そして挟まった髭が邪魔をして、扉は完全には閉まらなかった。だからすぐに開いてしまったんだ。で、慌てたボクは、この髭に足を取られて転んでしまった……。
八歳とは思えない、明晰な推理が光ります。
ニールは、鏡の前で様々なポーズをします。大魔法使いのようなポーズ、偉い政治家のようなポーズ、その他、髭にまつわりそうな人たちの真似を楽しみました。
その時です。柱時計の音がボーン、ボーンと何回か鳴りました。
「あっ、いけない!」
ママがそろそろ帰って来る時間です。こんなイタズラがバレてしまったら、パパと一緒に大目玉を食らうこと間違いなしの事態でした。
ニールは急いでハサミを取りに行きます。一刻も早く元通りの顔になるためです。でも大きなハサミは危ないので、ニールが知らない所へ隠してあります。だから、ニールは子供用の小さなハサミしか、使う事が出来ませんでした。
早速、お道具箱の中から、自分のハサミを取り出したニール。
ジョキ、ジョキと髭を切り落としていきます……、いえ、切り落としていく予定でした。
でも彼の予定は大幅に狂います。いくら切ろうと思っても、全く切れないのです。正確に言えば外側の何本かは切れました。でもそんなのは焼け石に水。見た目は全く変わりません。
「どうして? どうして!」
半泣きになったニールの声が、居間に響きます。でもこれは当然と言えば当然の話。
髭や髪の毛って、一本一本はすぐに切れても、束になると容易な事では切れません。子供用のハサミでは尚更です。大人だったらみんな知っている話ですが、子供のニ―ルが知らないのも無理はありませんでした。
さぁ、困りました。ママが帰ってくる時間が、刻一刻と迫っています。
「そうだ、マリアたちに相談しよう」
ニールは、即座に思いつきます。
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