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扉の奥の秘宝 (33) 扉の奥の秘宝

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「これにて”扉の奥の秘宝”、一巻の終わりとくらぁ」

骨董屋「エンシャント・ケイブ」のオーナー、老ゼペックが得意げに話を締めくくります。カウンターの向こうにいる常連客、マルロンはすっかり話に魅了され、改めて目の前に置かれた人形をまじまじと見つめました。

「どうだい? 凄い”いわれ”のある品だろう。二人は常連だから、こっちも勉強させてもらうよ」

ゼペックが早速、商談に入ります。

疑問が解けたパパは、品物の真偽はともかく、オーナーの話に感服しました。格安の美味しいコーヒー代に見合わない、上等なエンターテイメントです。

「ふふっ。なぁ、セディ。これは俺が買わせてもらうよ。だって、この人形を持っても、俺にはお宝の山は見えないしさ。それはつまり、俺が正直者だって証だろ?

これの所有者として、ふさわしい人物だよ」

マルロンが、もう自分の物だとばかりにはしゃぎました。カウンターの向こうでは、ゼペックがニヤニヤと笑っています。

「いや、何百年も前の話だろ? 封じ込められた魔法は、もうとっくの昔に切れてるんじゃないのかな?」

パパが友人に、冷静な判断を求めました。

「そうかなぁ……。じゃぁさ、セディ。君が、ちょっと持ってみろよ」

マルロンの意外な提案に、パパが少々驚きます。

いや、どう考えても魔法は切れてるだろう。でも、まだ少し魔法が残っていて、近くに寄っただけでは財宝は見えないけれど、触ったら見えるという事は有りえるかも知れないし……。

「ほら、どうしたセディ」

マルロンが突き出した人形を受け取るべきか迷っていたパパに、意外な救いの声が掛かります。

「パパ!」

それは、息子ニールの声でした。

驚いて振り返ると、そこには笑顔ではいるものの、目は般若のように睨みつけているママも一緒にいます。

「ニール? どうしてここに?」

ビックリしたパパが、尋ねます。

「どうしてじゃないでしょ? 急にいなくなったと思ったら、こんな所で何をしてるのよ!」

オーナーを目の前にして”こんな所”と言うのもいかがなものかと思いますが……。あぁ、そうでした。ママは、まだオーナーの顔を知らないのでしたね。

ママの後ろでオロオロしているスタッフが、

「オーナー、すいません。会員の方以外は入店できませんと申し上げたのですが……」

と、本当に困ったような顔で言いました。ママがどんな剣幕でまくしたてたのか、目に浮かぶようです。

「えぇっと、そちらがセディの息子さんという事は、あなたが奥さまですか。いや、いいんだ。会員のご家族ならビジターとして大歓迎ですよ。こちらで飲み物でもいかがです?」

ゼペックが商売人らしく、とっさの判断をします。

「いいえ、お構いなく。すぐに、おいとましますから。さぁ、パパ、帰るわよ」

ママが、静かながらもドスの効いた声でパパに命じます。ママには、早くこの場を立ち去りたいワケがありました

冗談じゃないわ。ニールがお店の骨董品を見つめる目、パパそっくりじゃない。親子そろって、ガラクタ趣味に走られてたまるもんですか!

店内の品に興味津々のニールの手を、ぎゅっと握りしめたママが思います。

「あぁ、どうも初めまして奥さん。私は彼の友人でマルロンと言います。ほら、セディ、奥さんを困らせちゃ駄目じゃないか。とっとと、帰った帰った」

ライバルを弾き飛ばそうと、調子の良い事を言うマルロン。

もはやこれまでと観念したパパは、コーヒー代を払って、二人の家族と店の出口へと向かいました。

「又のご来店をお待ちしています」

スタッフの声と共に、エンシャント・ケイブの重厚な扉が閉まります。

その、扉の奥の秘宝に後ろ髪を引かれつつ、パパは地上へと続く階段を、ママにつれられ足取り重く上っていきました。


【扉の奥の秘宝・終】
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