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扉の奥の秘宝 (29) 捕縛
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自室へと戻ったフューイが、これまでに得た、錠前の全ての情報を鍵開けノートに書きつけている間にも、外では大勢の人間が右往左往する様子が感じ取れました。
それが少し収まった頃、フューイの部屋のドアをノックする音が聞こえます。
ふん、もしドアを開けたその向こうに、レネフィルがいたらどうしたものか。
彼はそんな風に夢想しましたが、果たしてそこにいたのは、当然ながら別のスタッフでした。いつものように、食事の支度が出来た事を知らせに来たのです。
その日の夕食は、少しせわしないものでした。なにせ、出会う人出会う人、皆が「よくやったな」「凄いぜ」などなど、賛辞の言葉をフューイに投げかけたからです。フューイはこういう事に、慣れていないのですね。そしてどこか居心地が悪そうにしながらも、かなりサービスをされた豪華な夕食をペロリと平らげました。
さて、それでは、翌朝から起こった出来事をかいつまんで申し上げましょう。
まず、空が白み始めた頃、兵隊たちが何人かの男女を宝物要塞へと連行しました。彼らはモゼントの部下であり、近くに潜んでいた所を兵隊たちに取り押さえられたのです。盗賊どもからすれば、まさか自分たちの頭領が、既に捕らわれの身だとは知る由もなかったので、随分と油断をしていたようですね。
そして問題の親玉。扉の前に大勢の兵士が集まったのを感じ取ったのか、突然大声を張り上げ怒鳴り始めました。手もなくやっつけられてしまった事への、精一杯の虚勢なのでしょう。レネフィルも頭領に付き従って、罵詈雑言の限りを尽くします。
フューイが鍵を開けようと扉に近づくと、警備隊長が彼を制しました。
「ちょっとお待ちを。奴らを大人しくさせますので」
隊長の言葉遣いが、心なしか丁寧に聞こえます。それは難題の鍵開けを成功させたばかりでなく、名うての盗賊の首領をいとも簡単に捕らえてしまったフューイへの、尊敬の念が込められていたのかも知れませんね。まぁ、暗殺者のオマケつきなのですから、当然と言えば当然です。
フューイが後ろを見ると、兵士たちが何やら見慣れない品を携えています。タンクのようなものと、それに繋がったパイプです。パイプの先には、小さな棒状のパーツがついていました。
それが鍵穴へと差し込まれると、隊長の合図でタンクのバルブがひねられます。
あぁ、なるほど。
察しの良いフューイは、すぐに彼らの計り事を読み取りました。
タンクの中には眠りガスが入っていて、それを鍵穴を通して室内に充満させるのです。効果はてき面で、あれほど騒いでいた奸物どもはすぐに大人しくなりました。
頃合を見計らい、フューイが錠前を解除します。仕組みが分かった今、その仕事はわずか一分ほどで終わりました。
一応用心をしながら扉を開けると、果たしてそこに転がっていたのは、情けない顔をして倒れているモゼントと、狐の顔から再びレネフィルのそれに戻った暗殺者でした。
ここでもフューイは疑問に思います。盗賊どもを運び出す兵士たちの反応が、マチマチなのです。どうしてマチマチなのかの種明かしは、もう少しお待ちくださいね。
「フューイさん。ボンシック様の所へおいで下さい」
盗賊どもが連れ出されるのを確認したあと、隊長が言いました。
それが少し収まった頃、フューイの部屋のドアをノックする音が聞こえます。
ふん、もしドアを開けたその向こうに、レネフィルがいたらどうしたものか。
彼はそんな風に夢想しましたが、果たしてそこにいたのは、当然ながら別のスタッフでした。いつものように、食事の支度が出来た事を知らせに来たのです。
その日の夕食は、少しせわしないものでした。なにせ、出会う人出会う人、皆が「よくやったな」「凄いぜ」などなど、賛辞の言葉をフューイに投げかけたからです。フューイはこういう事に、慣れていないのですね。そしてどこか居心地が悪そうにしながらも、かなりサービスをされた豪華な夕食をペロリと平らげました。
さて、それでは、翌朝から起こった出来事をかいつまんで申し上げましょう。
まず、空が白み始めた頃、兵隊たちが何人かの男女を宝物要塞へと連行しました。彼らはモゼントの部下であり、近くに潜んでいた所を兵隊たちに取り押さえられたのです。盗賊どもからすれば、まさか自分たちの頭領が、既に捕らわれの身だとは知る由もなかったので、随分と油断をしていたようですね。
そして問題の親玉。扉の前に大勢の兵士が集まったのを感じ取ったのか、突然大声を張り上げ怒鳴り始めました。手もなくやっつけられてしまった事への、精一杯の虚勢なのでしょう。レネフィルも頭領に付き従って、罵詈雑言の限りを尽くします。
フューイが鍵を開けようと扉に近づくと、警備隊長が彼を制しました。
「ちょっとお待ちを。奴らを大人しくさせますので」
隊長の言葉遣いが、心なしか丁寧に聞こえます。それは難題の鍵開けを成功させたばかりでなく、名うての盗賊の首領をいとも簡単に捕らえてしまったフューイへの、尊敬の念が込められていたのかも知れませんね。まぁ、暗殺者のオマケつきなのですから、当然と言えば当然です。
フューイが後ろを見ると、兵士たちが何やら見慣れない品を携えています。タンクのようなものと、それに繋がったパイプです。パイプの先には、小さな棒状のパーツがついていました。
それが鍵穴へと差し込まれると、隊長の合図でタンクのバルブがひねられます。
あぁ、なるほど。
察しの良いフューイは、すぐに彼らの計り事を読み取りました。
タンクの中には眠りガスが入っていて、それを鍵穴を通して室内に充満させるのです。効果はてき面で、あれほど騒いでいた奸物どもはすぐに大人しくなりました。
頃合を見計らい、フューイが錠前を解除します。仕組みが分かった今、その仕事はわずか一分ほどで終わりました。
一応用心をしながら扉を開けると、果たしてそこに転がっていたのは、情けない顔をして倒れているモゼントと、狐の顔から再びレネフィルのそれに戻った暗殺者でした。
ここでもフューイは疑問に思います。盗賊どもを運び出す兵士たちの反応が、マチマチなのです。どうしてマチマチなのかの種明かしは、もう少しお待ちくださいね。
「フューイさん。ボンシック様の所へおいで下さい」
盗賊どもが連れ出されるのを確認したあと、隊長が言いました。
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