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扉の奥の秘宝 (20) 錠前の心

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「その自信の源は、今まで隠していた秘密兵器にあるのかい?」

ゾルウッドが、ニヤニヤしながら言いました。

「秘密兵器?」

フューイが、怪訝な顔をします。

「隠しなさんな。レネフィルに聞いたぜ。魔法のレンズを持ってるんだって?」

あぁ、そうか。このお調子者、初日から接客係のレネフィルと親しく話してたな。まぁ、レネフィルもどちらかを贔屓には出来ないと言っていたから、公平性を保つという意味で喋ったんだろう。

ライバルに魔法のレンズの存在を知られても、特段どうという事のないフューイは、ゾルウッドの話を軽く受け流しました。

さて、食堂へ到着した二人。フューイは、勝負前の最後の昼食を取ります。ゾルウッドならば「勝負メシだ」とかなんとか言って、特別な料理でも注文するところでしょうが、この若い細工師にはトンと縁のない話でした。

昼食後、フューイは文字通り、最後の勝負に挑みます。宝物棟へ入る前には、門番から激励の言葉も授かっています。

いつもの曲がり角へ到着したところで、

「じゃぁ、頑張ってくんな。あんたのチャンスが終るのは、もう秒読み段階に入ってきたわけだからさ」

と、ゾルウッドが、激励とも皮肉ともつかない言葉を投げかけました。

「あぁ」

いつもの如く、フューイはそっけなく応じ、一人、鍵穴の前へと陣取ります。実の所、彼には残り時間で鍵を開ける自信がありました。

もう少し、もう少しなんだ。もう少しで流れがつかめる。こいつを作った錠前師の心が読めそうなんだ。

フューイは、心の中で呟きます。

彼の考えによれば、錠前というのはその製作者の生きざまが表われるものであり、優れた品であればあるほど、はっきりとそれが分かるそうなのです。

お前の魂を見せてみろ!

フューイは、調整され抜かれ、自らの指の延長と化した鍵開けツールに、細心の注意を傾けました。

先端が小さいカギの形になった道具が、わずかに錠前内のパーツに引っ掛ります。

カシリ。

振動の感触としては、テントウムシが指の上に止まったくらいの、極々弱々しいものでした。しかし、それが錠前に秘められた魂の扉を開ける、正に”鍵”となったのです。

錠前は鍵開けツールを通して、フューイにその生きざまを語り出しました。

よし!

フューイの心に、小さな炎が灯ります。でもそれは、嬉しさとか興奮とか、そう言う類のものではありません。錠前の魂と語り合うための、落ち着いた静かな静かな炎でした。

錠前は徐々に、その心をフューイに開き始めます。彼も決して急がず慌てず、錠前の心を通じて製作者の生きざまを理解していきました。

そんな達人と達人の情念が、静かにまじりあったその瞬間、

「オレはあんたを理解した。素晴らしい生きざまだ」

その言葉が、無意識の内に彼の口から漏れ出ました。

錠前は全てを受け入れた様に、その仕掛けを次々と解き放ち、フューイが鍵開け道具の角度を僅かに変えた次の刹那、

ガチャリ。

何とも言えない荘厳な音を響かせ、錠前はその役目を終えました。
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