76 / 152
扉の奥の秘宝 (17) 不審者発見
しおりを挟む
フューイはすぐさま席を立って、自室へと駆け戻ります。忘れない内に、鍵開けノートに書き記すためです。もっとも、急に食事の席を立ったヨソ者の行動に、その場に居た多くの人が驚きました。まぁ、普通に考えればそうでしょうね。彼は元々、変わり者に見られていましたし。
自室がある三階への階段を昇り切った時、薄暗い廊下、彼の部屋の前には一人の兵士が立っておりました。その背の高い痩せた男は、フューイの部屋から”出てきた”ようにも見えました。
「おい、何をしている!」
フューイが兵士の方へ走り出すと、それに気づいた男は踵を返し、反対側へと逃げて行きます。思いのほかの駿足で、兵士はフューイの追跡を振り切り、三階廊下奥のT字路を右へ曲がりました。その先に何があるのか、それはこの宿舎へ初めて来たフューイには分かりません。ただ、躊躇する理由もありません。
脱兎の如く分かれ道へ到達したフューイは、兵士を追って右へと曲がりました。
「!?」
フューイは、呆然と立ち尽くします。そこに兵士の姿はありませんでした。さりとて、廊下は行き止まりです。板張りの通路の脇に、使っていない倉庫らしきものがありましたが、扉はなく、中も一つ二つの家具を除いては、ガランとした空間になっています。隠れる場所などありません。
まるで、狐につままれたような状況です。
しばらく辺りを探したフューイですが、諦めて自室へと戻りました。ノブを回してみると、回りません。フューイが夕食へ出た時のまま、鍵が掛かっています。となれば、謎の兵士はフューイの部屋から出てきたのではなく、入ろうとしていた所という事なのでしょうか。
フューイは鍵を開けて、部屋の中へ入ります。
「!」
その時、覚えのある感覚が細工師を襲いました。それは一回目の挑戦が終った日のやはり夕食後、部屋へ戻った時の違和感です。しかし今回も、部屋が荒らされたような痕跡は微塵もなく、鍵付き引き出しの中のノートにも異常はありませんでした。
廊下をパタパタと、急ぎ足で歩く音がフューイの耳に入ったかと思うと、
トントントン、トントントン
大き目なノックの響きに、彼が振り返ります。
「フューイさん、フューイさん。何かありましたか」
ドアを開けると、そこにはレネフィルが立っておりました。
「急に食堂を出て行ってしまわれたと聞いて、一体何事かと……」
心配そうな目で、フューイを見つめるレネフィルを尻目に、
「いや、なんでもない。ちょっと食欲がなかっただけだ」
と、フューイは何食わぬ顔をして”ウソ”をつきました。誰が味方で誰が敵かわからない今、余計な騒ぎを起こすのは得策ではないと彼は思ったのです。
翌日の朝、フューイは宿舎内にあるボンシックの部屋を訪ねました。
「つかぬ事を聞くが、今、この宝物要塞には、何人の兵士がいる」
突飛な質問に面食らったボンシックでしたが、
「14人だ。それが何か?」
と、落ち着いて答えます。
「いや、変な事を聞いてすまない」
フューイは、それだけ言うと小役人の部屋を出て、いつものようにゾルウッドと一緒に宝物棟へと向かいました。
自室がある三階への階段を昇り切った時、薄暗い廊下、彼の部屋の前には一人の兵士が立っておりました。その背の高い痩せた男は、フューイの部屋から”出てきた”ようにも見えました。
「おい、何をしている!」
フューイが兵士の方へ走り出すと、それに気づいた男は踵を返し、反対側へと逃げて行きます。思いのほかの駿足で、兵士はフューイの追跡を振り切り、三階廊下奥のT字路を右へ曲がりました。その先に何があるのか、それはこの宿舎へ初めて来たフューイには分かりません。ただ、躊躇する理由もありません。
脱兎の如く分かれ道へ到達したフューイは、兵士を追って右へと曲がりました。
「!?」
フューイは、呆然と立ち尽くします。そこに兵士の姿はありませんでした。さりとて、廊下は行き止まりです。板張りの通路の脇に、使っていない倉庫らしきものがありましたが、扉はなく、中も一つ二つの家具を除いては、ガランとした空間になっています。隠れる場所などありません。
まるで、狐につままれたような状況です。
しばらく辺りを探したフューイですが、諦めて自室へと戻りました。ノブを回してみると、回りません。フューイが夕食へ出た時のまま、鍵が掛かっています。となれば、謎の兵士はフューイの部屋から出てきたのではなく、入ろうとしていた所という事なのでしょうか。
フューイは鍵を開けて、部屋の中へ入ります。
「!」
その時、覚えのある感覚が細工師を襲いました。それは一回目の挑戦が終った日のやはり夕食後、部屋へ戻った時の違和感です。しかし今回も、部屋が荒らされたような痕跡は微塵もなく、鍵付き引き出しの中のノートにも異常はありませんでした。
廊下をパタパタと、急ぎ足で歩く音がフューイの耳に入ったかと思うと、
トントントン、トントントン
大き目なノックの響きに、彼が振り返ります。
「フューイさん、フューイさん。何かありましたか」
ドアを開けると、そこにはレネフィルが立っておりました。
「急に食堂を出て行ってしまわれたと聞いて、一体何事かと……」
心配そうな目で、フューイを見つめるレネフィルを尻目に、
「いや、なんでもない。ちょっと食欲がなかっただけだ」
と、フューイは何食わぬ顔をして”ウソ”をつきました。誰が味方で誰が敵かわからない今、余計な騒ぎを起こすのは得策ではないと彼は思ったのです。
翌日の朝、フューイは宿舎内にあるボンシックの部屋を訪ねました。
「つかぬ事を聞くが、今、この宝物要塞には、何人の兵士がいる」
突飛な質問に面食らったボンシックでしたが、
「14人だ。それが何か?」
と、落ち着いて答えます。
「いや、変な事を聞いてすまない」
フューイは、それだけ言うと小役人の部屋を出て、いつものようにゾルウッドと一緒に宝物棟へと向かいました。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
〖完結〗その子は私の子ではありません。どうぞ、平民の愛人とお幸せに。
藍川みいな
恋愛
愛する人と結婚した…はずだった……
結婚式を終えて帰る途中、見知らぬ男達に襲われた。
ジュラン様を庇い、顔に傷痕が残ってしまった私を、彼は醜いと言い放った。それだけではなく、彼の子を身篭った愛人を連れて来て、彼女が産む子を私達の子として育てると言い出した。
愛していた彼の本性を知った私は、復讐する決意をする。決してあなたの思い通りになんてさせない。
*設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。
*全16話で完結になります。
*番外編、追加しました。
未亡人となった側妃は、故郷に戻ることにした
星ふくろう
恋愛
カトリーナは帝国と王国の同盟により、先代国王の側室として王国にやって来た。
帝国皇女は正式な結婚式を挙げる前に夫を失ってしまう。
その後、義理の息子になる第二王子の正妃として命じられたが、王子は彼女を嫌い浮気相手を溺愛する。
数度の恥知らずな婚約破棄を言い渡された時、カトリーナは帝国に戻ろうと決めたのだった。
他の投稿サイトでも掲載しています。
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
愛していました。待っていました。でもさようなら。
彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。
やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。
僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?
闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。
しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。
幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。
お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
稚拙→ちせつ
愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
あれ?なんでこうなった?
志位斗 茂家波
ファンタジー
ある日、正妃教育をしていたルミアナは、婚約者であった王子の堂々とした浮気の現場を見て、ここが前世でやった乙女ゲームの中であり、そして自分は悪役令嬢という立場にあることを思い出した。
…‥って、最終的に国外追放になるのはまぁいいとして、あの超屑王子が国王になったら、この国終わるよね?ならば、絶対に国外追放されないと!!
そう意気込み、彼女は国外追放後も生きていけるように色々とやって、ついに婚約破棄を迎える・・・・はずだった。
‥‥‥あれ?なんでこうなった?
義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。
克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位
11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位
11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位
11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる