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扉の奥の秘宝 (17) 不審者発見
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フューイはすぐさま席を立って、自室へと駆け戻ります。忘れない内に、鍵開けノートに書き記すためです。もっとも、急に食事の席を立ったヨソ者の行動に、その場に居た多くの人が驚きました。まぁ、普通に考えればそうでしょうね。彼は元々、変わり者に見られていましたし。
自室がある三階への階段を昇り切った時、薄暗い廊下、彼の部屋の前には一人の兵士が立っておりました。その背の高い痩せた男は、フューイの部屋から”出てきた”ようにも見えました。
「おい、何をしている!」
フューイが兵士の方へ走り出すと、それに気づいた男は踵を返し、反対側へと逃げて行きます。思いのほかの駿足で、兵士はフューイの追跡を振り切り、三階廊下奥のT字路を右へ曲がりました。その先に何があるのか、それはこの宿舎へ初めて来たフューイには分かりません。ただ、躊躇する理由もありません。
脱兎の如く分かれ道へ到達したフューイは、兵士を追って右へと曲がりました。
「!?」
フューイは、呆然と立ち尽くします。そこに兵士の姿はありませんでした。さりとて、廊下は行き止まりです。板張りの通路の脇に、使っていない倉庫らしきものがありましたが、扉はなく、中も一つ二つの家具を除いては、ガランとした空間になっています。隠れる場所などありません。
まるで、狐につままれたような状況です。
しばらく辺りを探したフューイですが、諦めて自室へと戻りました。ノブを回してみると、回りません。フューイが夕食へ出た時のまま、鍵が掛かっています。となれば、謎の兵士はフューイの部屋から出てきたのではなく、入ろうとしていた所という事なのでしょうか。
フューイは鍵を開けて、部屋の中へ入ります。
「!」
その時、覚えのある感覚が細工師を襲いました。それは一回目の挑戦が終った日のやはり夕食後、部屋へ戻った時の違和感です。しかし今回も、部屋が荒らされたような痕跡は微塵もなく、鍵付き引き出しの中のノートにも異常はありませんでした。
廊下をパタパタと、急ぎ足で歩く音がフューイの耳に入ったかと思うと、
トントントン、トントントン
大き目なノックの響きに、彼が振り返ります。
「フューイさん、フューイさん。何かありましたか」
ドアを開けると、そこにはレネフィルが立っておりました。
「急に食堂を出て行ってしまわれたと聞いて、一体何事かと……」
心配そうな目で、フューイを見つめるレネフィルを尻目に、
「いや、なんでもない。ちょっと食欲がなかっただけだ」
と、フューイは何食わぬ顔をして”ウソ”をつきました。誰が味方で誰が敵かわからない今、余計な騒ぎを起こすのは得策ではないと彼は思ったのです。
翌日の朝、フューイは宿舎内にあるボンシックの部屋を訪ねました。
「つかぬ事を聞くが、今、この宝物要塞には、何人の兵士がいる」
突飛な質問に面食らったボンシックでしたが、
「14人だ。それが何か?」
と、落ち着いて答えます。
「いや、変な事を聞いてすまない」
フューイは、それだけ言うと小役人の部屋を出て、いつものようにゾルウッドと一緒に宝物棟へと向かいました。
自室がある三階への階段を昇り切った時、薄暗い廊下、彼の部屋の前には一人の兵士が立っておりました。その背の高い痩せた男は、フューイの部屋から”出てきた”ようにも見えました。
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フューイが兵士の方へ走り出すと、それに気づいた男は踵を返し、反対側へと逃げて行きます。思いのほかの駿足で、兵士はフューイの追跡を振り切り、三階廊下奥のT字路を右へ曲がりました。その先に何があるのか、それはこの宿舎へ初めて来たフューイには分かりません。ただ、躊躇する理由もありません。
脱兎の如く分かれ道へ到達したフューイは、兵士を追って右へと曲がりました。
「!?」
フューイは、呆然と立ち尽くします。そこに兵士の姿はありませんでした。さりとて、廊下は行き止まりです。板張りの通路の脇に、使っていない倉庫らしきものがありましたが、扉はなく、中も一つ二つの家具を除いては、ガランとした空間になっています。隠れる場所などありません。
まるで、狐につままれたような状況です。
しばらく辺りを探したフューイですが、諦めて自室へと戻りました。ノブを回してみると、回りません。フューイが夕食へ出た時のまま、鍵が掛かっています。となれば、謎の兵士はフューイの部屋から出てきたのではなく、入ろうとしていた所という事なのでしょうか。
フューイは鍵を開けて、部屋の中へ入ります。
「!」
その時、覚えのある感覚が細工師を襲いました。それは一回目の挑戦が終った日のやはり夕食後、部屋へ戻った時の違和感です。しかし今回も、部屋が荒らされたような痕跡は微塵もなく、鍵付き引き出しの中のノートにも異常はありませんでした。
廊下をパタパタと、急ぎ足で歩く音がフューイの耳に入ったかと思うと、
トントントン、トントントン
大き目なノックの響きに、彼が振り返ります。
「フューイさん、フューイさん。何かありましたか」
ドアを開けると、そこにはレネフィルが立っておりました。
「急に食堂を出て行ってしまわれたと聞いて、一体何事かと……」
心配そうな目で、フューイを見つめるレネフィルを尻目に、
「いや、なんでもない。ちょっと食欲がなかっただけだ」
と、フューイは何食わぬ顔をして”ウソ”をつきました。誰が味方で誰が敵かわからない今、余計な騒ぎを起こすのは得策ではないと彼は思ったのです。
翌日の朝、フューイは宿舎内にあるボンシックの部屋を訪ねました。
「つかぬ事を聞くが、今、この宝物要塞には、何人の兵士がいる」
突飛な質問に面食らったボンシックでしたが、
「14人だ。それが何か?」
と、落ち着いて答えます。
「いや、変な事を聞いてすまない」
フューイは、それだけ言うと小役人の部屋を出て、いつものようにゾルウッドと一緒に宝物棟へと向かいました。
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