57 / 151
魔女の薬 (17) 怪我の功名
しおりを挟む
クビを覚悟してたネリスでしたが、そうはならないと知り、彼女は途端に、殊勝な弟子から困った弟子に逆戻りをしてしまいました。まぁ、この立ち直りの早さも、ネリスの良い所の一つなんですけどね。
「こらこら、落ち着きなさい。もちろん、魔女会議だって、あなたを世間の寒風の中に放り出して、飲まず食わずで働かせる気はありません。
あなたはね、これから一年間、私の家で暮らすのよ。当然、タダ飯を食べさせるつもりはありませんから、メイドとしてしっかり働いてもらうし、空いた時間はミッチリと薬に関する勉強をしなければなりませんよ。私の直接指導でね」
泣きそうな顔をしているネリスに、コリスはイタズラっぽく言いました。
「えぇ!? 師匠と一年間も同居ですか?しかもタダ働きの上に、ミッチリ勉強?」
ネリスが、ちょっと口を尖らせます。
「当然です。私があなたのために、魔女会議の場でどれだけ苦心したと思ってるの? 上の人達の私に対する信頼を、全部使い切っちゃったわよ」
またいつものお調子者に戻った弟子に、師匠はわざと恩着せがましく言いました。ただコリスには一つだけ、ネリスはもちろん他の魔女たちにも言っていない事がありました。
確かにネリスがクビにならなかったのは、コリスの熱弁と魔女の統率者たちが彼女に抱いている大きな信頼のおかげもあるのですが、実は今回の事件で得るものもあったからなのです。
コリスが調査の結果をまとめてみると、意外な事実が分かったのでした。それは被害者たちが「何を忘れたのか」という事です。
何だと思いますか? 結果を言ってしまえば、彼らが忘れてしまったのは「自分にとって、一番大切なもの」だったんです。シェフは秘密のレシピ。大金持はお金。小説家は文字。といった具合にね。
これは魔女会議をすべる協会にとっても、実のある発見でした。
ワスレノールを使った薬は文字通り、服用者の記憶をあいまいにする効果が期待できます。人は大きな悩みを抱えた時、それが肉体にまで悪影響を及ぼす場合があるものです。よって一時的に悩みの原因を忘れさせてしまうのも、一つの治療法として確立していました。
しかし都合よく、特定の事柄だけを忘れさせるというのは不可能です。そこで全体的に記憶をあやふやにした上で、とにかく体の健康を回復させてしおうという治療法を取る事しか出来ません。そのための薬が、ワスレノール由来のものなのでした。
それが今回「一番大切なもの」という、特定の事柄を忘れさせる効果が現れたのです。ネリスが廃棄しようとした調合器具に僅かに残っていた薬の断片を解析した結果、今までにない成分が偶然にも生成されていたのでした。この事は、ワスレノールの研究に大きな進展をもたらすものです。
「こらこら、落ち着きなさい。もちろん、魔女会議だって、あなたを世間の寒風の中に放り出して、飲まず食わずで働かせる気はありません。
あなたはね、これから一年間、私の家で暮らすのよ。当然、タダ飯を食べさせるつもりはありませんから、メイドとしてしっかり働いてもらうし、空いた時間はミッチリと薬に関する勉強をしなければなりませんよ。私の直接指導でね」
泣きそうな顔をしているネリスに、コリスはイタズラっぽく言いました。
「えぇ!? 師匠と一年間も同居ですか?しかもタダ働きの上に、ミッチリ勉強?」
ネリスが、ちょっと口を尖らせます。
「当然です。私があなたのために、魔女会議の場でどれだけ苦心したと思ってるの? 上の人達の私に対する信頼を、全部使い切っちゃったわよ」
またいつものお調子者に戻った弟子に、師匠はわざと恩着せがましく言いました。ただコリスには一つだけ、ネリスはもちろん他の魔女たちにも言っていない事がありました。
確かにネリスがクビにならなかったのは、コリスの熱弁と魔女の統率者たちが彼女に抱いている大きな信頼のおかげもあるのですが、実は今回の事件で得るものもあったからなのです。
コリスが調査の結果をまとめてみると、意外な事実が分かったのでした。それは被害者たちが「何を忘れたのか」という事です。
何だと思いますか? 結果を言ってしまえば、彼らが忘れてしまったのは「自分にとって、一番大切なもの」だったんです。シェフは秘密のレシピ。大金持はお金。小説家は文字。といった具合にね。
これは魔女会議をすべる協会にとっても、実のある発見でした。
ワスレノールを使った薬は文字通り、服用者の記憶をあいまいにする効果が期待できます。人は大きな悩みを抱えた時、それが肉体にまで悪影響を及ぼす場合があるものです。よって一時的に悩みの原因を忘れさせてしまうのも、一つの治療法として確立していました。
しかし都合よく、特定の事柄だけを忘れさせるというのは不可能です。そこで全体的に記憶をあやふやにした上で、とにかく体の健康を回復させてしおうという治療法を取る事しか出来ません。そのための薬が、ワスレノール由来のものなのでした。
それが今回「一番大切なもの」という、特定の事柄を忘れさせる効果が現れたのです。ネリスが廃棄しようとした調合器具に僅かに残っていた薬の断片を解析した結果、今までにない成分が偶然にも生成されていたのでした。この事は、ワスレノールの研究に大きな進展をもたらすものです。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
愛していました。待っていました。でもさようなら。
彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。
やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。
妹しか愛していない母親への仕返しに「わたくしはお母様が男に無理矢理に犯されてできた子」だと言ってやった。
ラララキヲ
ファンタジー
「貴女は次期当主なのだから」
そう言われて長女のアリーチェは育った。どれだけ寂しくてもどれだけツラくても、自分がこのエルカダ侯爵家を継がなければいけないのだからと我慢して頑張った。
長女と違って次女のルナリアは自由に育てられた。両親に愛され、勉強だって無理してしなくてもいいと甘やかされていた。
アリーチェはそれを羨ましいと思ったが、自分が長女で次期当主だから仕方がないと納得していて我慢した。
しかしアリーチェが18歳の時。
アリーチェの婚約者と恋仲になったルナリアを、両親は許し、二人を祝福しながら『次期当主をルナリアにする』と言い出したのだ。
それにはもうアリーチェは我慢ができなかった。
父は元々自分たち(子供)には無関心で、アリーチェに厳し過ぎる教育をしてきたのは母親だった。『次期当主だから』とあんなに言ってきた癖に、それを簡単に覆した母親をアリーチェは許せなかった。
そして両親はアリーチェを次期当主から下ろしておいて、アリーチェをルナリアの補佐に付けようとした。
そのどこまてもアリーチェの人格を否定する考え方にアリーチェの心は死んだ。
──自分を愛してくれないならこちらもあなたたちを愛さない──
アリーチェは行動を起こした。
もうあなたたちに情はない。
─────
◇これは『ざまぁ』の話です。
◇テンプレ [妹贔屓母]
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇ご都合展開。矛盾もあるかも。
◇なろうにも上げてます。
※HOTランキング〔2位〕(4/19)☆ファンタジーランキング〔1位〕☆入り、ありがとうございます!!
婚約破棄されたら魔法が解けました
かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」
それは学園の卒業パーティーでの出来事だった。……やっぱり、ダメだったんだ。周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間だった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、王太子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表した。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放になった。そして、魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。
「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」
あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。
「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」
死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー!
※最初の5話は毎日18時に投稿、それ以降は毎週土曜日の18時に投稿する予定です
【本編完結】さようなら、そしてどうかお幸せに ~彼女の選んだ決断
Hinaki
ファンタジー
16歳の侯爵令嬢エルネスティーネには結婚目前に控えた婚約者がいる。
23歳の公爵家当主ジークヴァルト。
年上の婚約者には気付けば幼いエルネスティーネよりも年齢も近く、彼女よりも女性らしい色香を纏った女友達が常にジークヴァルトの傍にいた。
ただの女友達だと彼は言う。
だが偶然エルネスティーネは知ってしまった。
彼らが友人ではなく想い合う関係である事を……。
また政略目的で結ばれたエルネスティーネを疎ましく思っていると、ジークヴァルトは恋人へ告げていた。
エルネスティーネとジークヴァルトの婚姻は王命。
覆す事は出来ない。
溝が深まりつつも結婚二日前に侯爵邸へ呼び出されたエルネスティーネ。
そこで彼女は彼の私室……寝室より聞こえてくるのは悍ましい獣にも似た二人の声。
二人がいた場所は二日後には夫婦となるであろうエルネスティーネとジークヴァルトの為の寝室。
これ見よがしに少し開け放たれた扉より垣間見える寝台で絡み合う二人の姿と勝ち誇る彼女の艶笑。
エルネスティーネは限界だった。
一晩悩んだ結果彼女の選んだ道は翌日愛するジークヴァルトへ晴れやかな笑顔で挨拶すると共にバルコニーより身を投げる事。
初めて愛した男を憎らしく思う以上に彼を心から愛していた。
だから愛する男の前で死を選ぶ。
永遠に私を忘れないで、でも愛する貴方には幸せになって欲しい。
矛盾した想いを抱え彼女は今――――。
長い間スランプ状態でしたが自分の中の性と生、人間と神、ずっと前からもやもやしていたものが一応の答えを導き出し、この物語を始める事にしました。
センシティブな所へ触れるかもしれません。
これはあくまで私の考え、思想なのでそこの所はどうかご容赦して下さいませ。
【完結】7年待った婚約者に「年増とは結婚できない」と婚約破棄されましたが、結果的に若いツバメと縁が結ばれたので平気です
岡崎 剛柔
恋愛
「伯爵令嬢マリアンヌ・ランドルフ。今日この場にて、この僕――グルドン・シルフィードは君との婚約を破棄する。理由は君が25歳の年増になったからだ」
私は7年間も諸外国の旅行に行っていたグルドンにそう言われて婚約破棄された。
しかも貴族たちを大勢集めたパーティーの中で。
しかも私を年増呼ばわり。
はあ?
あなたが勝手に旅行に出て帰って来なかったから、私はこの年までずっと結婚できずにいたんですけど!
などと私の怒りが爆発しようだったとき、グルドンは新たな人間と婚約すると言い出した。
その新たな婚約者は何とタキシードを着た、6、7歳ぐらいの貴族子息で……。
公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-
猫まんじゅう
恋愛
そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。
無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。
筈だったのです······が?
◆◇◆
「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」
拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?
「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」
溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない?
◆◇◆
安心保障のR15設定。
描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。
ゆるゆる設定のコメディ要素あり。
つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。
※妊娠に関する内容を含みます。
【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】
こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)
大好きな母と縁を切りました。
むう子
ファンタジー
7歳までは家族円満愛情たっぷりの幸せな家庭で育ったナーシャ。
領地争いで父が戦死。
それを聞いたお母様は寝込み支えてくれたカルノス・シャンドラに親子共々心を開き再婚。
けれど妹が生まれて義父からの虐待を受けることに。
毎日母を想い部屋に閉じこもるナーシャに2年後の政略結婚が決定した。
けれどこの婚約はとても酷いものだった。
そんな時、ナーシャの生まれる前に亡くなった父方のおばあさまと契約していた精霊と出会う。
そこで今までずっと近くに居てくれたメイドの裏切りを知り……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる