ヴォルノースの森の なんてことない毎日

藻ノかたり

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魔女の薬 (15) 魔女魂

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一方、コリスは不肖の弟子の様子を見て、ホッと胸をなでおろしていました。ついさっきまでは、自分の責任を少なく見せようと腐心していたのに、今は見ず知らずの他人の心配を本気でしています。

この期に及んでもまだ言い訳をしたり、これからの自分の処遇を気に掛けるようであるならば、ネリスに如何に隠れた才能が有ろうとも見限らねばなるまい。そう考えていたコリスは、ネリスに対する自分の見立てに自信を持ちました。

「さぁ、忙しくなるわよ」

コリスがそう言うと、ネリスの口元もいっそう引き締まります。

まずは工場に務める魔女と、魔女ではありませんが薬づくりの補助をする従業員全員を緊急に招集しました。十年前に起こったある出来事以来、ヴォルノースの森に住む魔女とその仲間たちは、急を知らせるためのアイテムを肌身離さず持たされています。

その効果もあって、招集から三十分も経たない内に、総勢四百人を超える人達が工場へとはせ参じました。見ていて実に爽快な光景です。そしてコリスの号令一下、全員で街にちらばり、住民の健康調査が始まりました。

でも文句を言う魔女など一人もいませんし、ましてやネリスを責める魔女も誰一人としていませんでした。そんな事をしている場合じゃないと分かっていましたし、仲間の失敗を我が事のように受け止めフォローするのがすなわち”魔女魂”。人の健康を預かっているという、魔女の誇りでもありました。

そして魔女ではない他の従業員たちも、彼女たちと思いは一緒でした。

もっとも後日、ネリスの頭をコツンと軽く叩く先輩魔女はいましたけどね。だけどもそれは、落ち込んでいるだろう後輩にエールを送る”コツン”なのでありました。

調査団一行には、もちろんネリスも同行します。しかしコリスの指示で、ネリスが騒動の張本人だという事は秘密にされました。これは事態を複雑にしないためと、先ほど申し上げた通り、大いなる魔女魂の賜物でした。

さて、彼女たちに対する町の人達の反応は、どうだったのでしょうか、? 激怒したに決まっているだろうって? いえいえ、そんな事はありません。みなそれほど腹を立てたりもせず、むしろ魔女たちの調査に協力を惜しみませんでした。

薬の効き目は、もう、とうに切れてる上、大した実害もありませんでしたし、何より町の人たちはコリスに大変な恩義を感じていたからです。それは十年前に起こった出来事と深く関係しているのですが、また後のお話となります。

それから、もう一つ理由がありました。何か大切な事を忘れ、後になってそれを思い出した時に不思議な感覚に襲われた人が多かったからです。

シェフのジェイドは、今はウエイターをしていますが、シェフ志望のソランを本格的に指導しようと決めました。彼に、ソースのレシピを伝えるためです。ジェイドは今まで、頑なにレシピを隠してきましたが、ある事に気がついたのです。
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