53 / 152
魔女の薬 (13) コリスの推理
しおりを挟む
「私が町でかいだ臭いと、さっき調合室で感じた臭い、そして今ここに漂っている臭い。みんなわずかな臭いだけど、全部同じに思えるからよ。
つまりあなたが調合室で爆発させて飛散した薬が気化して、町へ流れ出たのは明らかだわ」
コリスは最高位の魔女です。ネリスはその判断を、受け入れるしかありませんでした。
「でも、でも、それでもおかしいわ。私が作っていたのは、気つけの薬です。それが漏れたって、皆が元気になるだけでしょう?」
ネリスは、疑問をぶつけます。
「いえ、それは違うわ、ネリス。この臭いは、気つけ薬のゲンキノールではありません。あなた、ちゃんと原料になる薬のラベルを確認したの?」
コリスが、詰問します。
「もちろんですよ。間違えるはずがありません。っていうか、それじゃあ師匠は、町にまかれた薬は何だっていうんですか」
勝手な事をして大失敗をしたのは認めつつも、納得がいかない様子のネリス。
「じゃぁ、保管庫に行ってみましょうか」
コリスは既に、真相へたどり着いているようです。
様々な薬の原料が貯蔵されている保管庫。それは調合室のある棟と、渡り廊下で繋がっている隣の棟にありました。
「さぁ、ネリス。あなたはどの棚の薬を使ったの?」
下手人を保管庫に引っ立てたコリスが言いました。
「えぇっと……、心に関する薬はあそこの棚だから……」
ネリスは左奥にある棚から、小分けされた瓶を一つ取り出しました。最初の大掛かりな器具に使った上に、失敗を隠す為の作業にも使ったので、結構な量が減っています。ネリスったら、こっちはどうやって誤魔化すつもりだったんでしょう。
「やっぱりね。これはゲンキノールではありません」
コリスが、ピシャリと言い放ちました。
「え? そんなはずは……?」
ネリスが、思わず叫びます。
一体これは、どういう事なのでしょうか?
「ほら、ゲンキノールはこっちです」
コリスは、弟子が手を伸ばした棚の隣にある薬びんを取り出しました。そして二つの薬瓶を並べます。ネリスは、目の前に置かれた薬びんのラベルを見比べました。
「あっ!」
どうやらネリスは、自分がとんでもない勘違いをした事に、ようやっと気がついたようです。
「これは……、ワスレノール」
新米魔女は、自らが使った薬が間違っていた事を悟りました。
じつはここで、ひとつ種明かしがあります。ゲンキノールとワスレノール。全然違う名前の薬を、いかにネリスが新米魔女とはいえ、間違えるはずがないと思っていらっしゃいませんか?
なるほど、普通ならば確かにそうです。間違うはずがありません。でもここに秘密があるのです。
つまりあなたが調合室で爆発させて飛散した薬が気化して、町へ流れ出たのは明らかだわ」
コリスは最高位の魔女です。ネリスはその判断を、受け入れるしかありませんでした。
「でも、でも、それでもおかしいわ。私が作っていたのは、気つけの薬です。それが漏れたって、皆が元気になるだけでしょう?」
ネリスは、疑問をぶつけます。
「いえ、それは違うわ、ネリス。この臭いは、気つけ薬のゲンキノールではありません。あなた、ちゃんと原料になる薬のラベルを確認したの?」
コリスが、詰問します。
「もちろんですよ。間違えるはずがありません。っていうか、それじゃあ師匠は、町にまかれた薬は何だっていうんですか」
勝手な事をして大失敗をしたのは認めつつも、納得がいかない様子のネリス。
「じゃぁ、保管庫に行ってみましょうか」
コリスは既に、真相へたどり着いているようです。
様々な薬の原料が貯蔵されている保管庫。それは調合室のある棟と、渡り廊下で繋がっている隣の棟にありました。
「さぁ、ネリス。あなたはどの棚の薬を使ったの?」
下手人を保管庫に引っ立てたコリスが言いました。
「えぇっと……、心に関する薬はあそこの棚だから……」
ネリスは左奥にある棚から、小分けされた瓶を一つ取り出しました。最初の大掛かりな器具に使った上に、失敗を隠す為の作業にも使ったので、結構な量が減っています。ネリスったら、こっちはどうやって誤魔化すつもりだったんでしょう。
「やっぱりね。これはゲンキノールではありません」
コリスが、ピシャリと言い放ちました。
「え? そんなはずは……?」
ネリスが、思わず叫びます。
一体これは、どういう事なのでしょうか?
「ほら、ゲンキノールはこっちです」
コリスは、弟子が手を伸ばした棚の隣にある薬びんを取り出しました。そして二つの薬瓶を並べます。ネリスは、目の前に置かれた薬びんのラベルを見比べました。
「あっ!」
どうやらネリスは、自分がとんでもない勘違いをした事に、ようやっと気がついたようです。
「これは……、ワスレノール」
新米魔女は、自らが使った薬が間違っていた事を悟りました。
じつはここで、ひとつ種明かしがあります。ゲンキノールとワスレノール。全然違う名前の薬を、いかにネリスが新米魔女とはいえ、間違えるはずがないと思っていらっしゃいませんか?
なるほど、普通ならば確かにそうです。間違うはずがありません。でもここに秘密があるのです。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
ブラック王国軍から脱退した召喚士、前世の記憶が蘇り現代兵器も召喚出来るようになりました
登龍乃月
ファンタジー
「もううんざりだ。俺は軍を抜ける。王国なぞ知ったことか!」
「ふん、無駄飯食らいの給料泥棒なぞこっちから願い下げだ! さっさと出て行け!」
ブラックすぎる王国軍の対応に嫌気が差した俺は軍部トップや、貴族のお歴々の面々に中指を立てて自主脱退を申し出た。
ラスト家は親子三代にわたり召喚士としてテイル王国軍を支えてきた一家であり、クロード・ラストは三代目である。
テイル王国はモンスターを軍に導入する事で、世界でも比類なき軍事力を手に入れていた。
軍部で使役されているモンスターはラスト家が召喚してきたモンスター。
その事実は長い年月の中で隠匿され、真実を知るものはごく少数であり、お偉方はそれを知らない。
「本当にいいんですね? 俺がいなくなったら、王国は終わりですが」
「虚勢はそれだけかね召喚士君。今やテイル王国は大陸一、軍を抜けるとなればむろん爵位も剥奪させてもらう」
最後通告を無視されたクロードは全ての仕事をほっぽり出し、魔界との境界近くにある田舎で暮らす事に決めた。
しかし軍部の機密保持のため、暗殺者に狙われて瀕死の重症を負ってしまう。
その時、一命を取り留めたクロードに前世の記憶が蘇り、前世もまたブラック企業に在籍し過労で命を落とした経緯を思い出す。
「貴様、ウチで働かんか」
「はい?」
魔界の境界で魔王軍にスカウトされたクロードは、ホワイトな環境に驚きながらも着々と地位を築き上げていく。
一方、クロードが抜けた穴は大きく、軍部にいたモンスター達が全て消失、兵士達が相次いで脱退するという事態になったテイル王国はクロードを探し、帰ってきてくれと懇願するが--。
「俺もう魔王軍と契約してるんで無理」
クロードは自業自得な王国を身限り、自分を正しく評価してくれる魔王軍を選び、魔王の覇道に手を貸すのだった。
これは虐げられ続けた影の大黒柱の転職活動記録と、世界を巻き込んだ騒乱の物語である。
人質から始まった凡庸で優しい王子の英雄譚
咲良喜玖
ファンタジー
アーリア戦記から抜粋。
帝国歴515年。サナリア歴3年。
新国家サナリア王国は、超大国ガルナズン帝国の使者からの宣告により、国家存亡の危機に陥る。
アーリア大陸を二分している超大国との戦いは、全滅覚悟の死の戦争である。
だからこそ、サナリア王アハトは、帝国に従属することを決めるのだが。
当然それだけで交渉が終わるわけがなく、従属した証を示せとの命令が下された。
命令の中身。
それは、二人の王子の内のどちらかを選べとの事だった。
出来たばかりの国を守るために、サナリア王が判断した人物。
それが第一王子である【フュン・メイダルフィア】だった。
フュンは弟に比べて能力が低く、武芸や勉学が出来ない。
彼の良さをあげるとしたら、ただ人に優しいだけ。
そんな人物では、国を背負うことが出来ないだろうと、彼は帝国の人質となってしまったのだ。
しかし、この人質がきっかけとなり、長らく続いているアーリア大陸の戦乱の歴史が変わっていく。
西のイーナミア王国。東のガルナズン帝国。
アーリア大陸の歴史を支える二つの巨大国家を揺るがす英雄が誕生することになるのだ。
偉大なる人質。フュンの物語が今始まる。
他サイトにも書いています。
こちらでは、出来るだけシンプルにしていますので、章分けも簡易にして、解説をしているあとがきもありません。
小説だけを読める形にしています。
追放された最強令嬢は、新たな人生を自由に生きる
灯乃
ファンタジー
旧題:魔眼の守護者 ~用なし令嬢は踊らない~
幼い頃から、スウィングラー辺境伯家の後継者として厳しい教育を受けてきたアレクシア。だがある日、両親の離縁と再婚により、後継者の地位を腹違いの兄に奪われる。彼女は、たったひとりの従者とともに、追い出されるように家を出た。
「……っ、自由だーーーーーーっっ!!」
「そうですね、アレクシアさま。とりあえずあなたは、世間の一般常識を身につけるところからはじめましょうか」
最高の淑女教育と最強の兵士教育を施されたアレクシアと、そんな彼女の従者兼護衛として育てられたウィルフレッド。ふたりにとって、『学校』というのは思いもよらない刺激に満ちた場所のようで……?
幼馴染を守る為に死んだ黒騎士は、あの約束を守る為に、転生する
竹桜
ファンタジー
幼馴染を守る為に死んでしまったエドリックは、記憶が無くしたまま、別の世界に転生した。
だが、別の世界に住んでいた記憶が無いエドリックは、クラスメイト共に元々居た世界に勇者召喚されてしまう。
そこで記憶を取り戻し、幼馴染との約束を守る為にエドリックは、幼馴染と約束した場所に向かうのだった。
*タイトルを変更しました。
旧タイトル、生まれ変わっても君との約束を守るよ
新タイトル、幼馴染を守る為に死んだ黒騎士は、あの約束を守る為に、転生する
あやかしの森の魔女と彷徨う旅の吟遊詩人
牧村燈
ファンタジー
妖精の村を旅するあのSのイニシャルの吟遊詩人が、もしも男装した少女だったらという設定にキュンとしてしまい、たったそれだけの理由でこのファンタジーを書き始めました。
全年齢向けの設定を意識してエッチな場面はかなり控えめにしております(が、多少のあれはあれです)。
あやかしの森には妖精を模した動物たちが、森の支配者である長Kの圧政に怯えながらも、それぞれ自分の力で自由に生きようともがいていました。この森に迷い込み、妖精動物たちとの出会い森の実情を知った吟遊詩人Sは、長Kの圧政から森を解放し、旅の目的を果たすことが出来るでしょうか?
森の不思議な雰囲気と、戦闘シーンに力を入れて書きました。どうぞお楽しみください。
『魔王討伐クエスト』で役に立たないからと勇者パーティーに追い出された回復師は新たな仲間と無双する〜PK集団が英雄になるって、マジですか!?〜
あーもんど
ファンタジー
1プレイヤーとして、普通にVRMMOを楽しんでいたラミエル。
魔王討伐を目標に掲げ、日々仲間たちと頑張ってきた訳だが、突然パーティー追放を言い渡される。
当然ラミエルは反発するものの、リーダーの勇者カインによって半ば強制的に追い出されてしまった。
────お前はもう要らないんだよ!と。
ラミエルは失意のドン底に落ち、現状を嘆くが……『虐殺の紅月』というパーティーに勧誘されて?
最初こそ、PK集団として有名だった『虐殺の紅月』を警戒するものの、あっという間に打ち解けた。
そんなある日、謎のハッカー集団『箱庭』によりゲーム世界に閉じ込められて!?
ゲーム世界での死が、現実世界での死に直結するデスゲームを強いられた!
大混乱に陥るものの、ラミエルは仲間達と共にゲーム攻略へ挑む!
だが、PK集団ということで周りに罵られたり、元パーティーメンバーと一悶着あったり、勇者カインに『戻ってこい!』と言われたり……で、大忙し!
果たして、ラミエルは無事現実へ戻れるのか!?
そして、PK集団は皆の英雄になれるのか!?
最低で最高のPK集団が送る、ゲーム攻略奮闘記!ここに爆誕!
※小説家になろう様にも掲載中
異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します
桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる
ソロ冒険者のぶらり旅~悠々自適とは無縁な日々~
にくなまず
ファンタジー
今年から冒険者生活を開始した主人公で【ソロ】と言う適正のノア(15才)。
その適正の為、戦闘・日々の行動を基本的に1人で行わなければなりません。
そこで元上級冒険者の両親と猛特訓を行い、チート級の戦闘力と数々のスキルを持つ事になります。
『悠々自適にぶらり旅』
を目指す″つもり″の彼でしたが、開始早々から波乱に満ちた冒険者生活が待っていました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる