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魔女の薬 (11) 師匠と弟子
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「さ、これで完璧ね。完全な証拠隠滅だわ。やっぱり私ってば天才」
どうやったのか、あれだけ器具の残骸で散らかっていた部屋を何とか元通りに見えるようにし、ホクホクと悦に入っている新米魔女ネリス。これで、いつコリスが戻って来ても安心です。ちなみに机の上では彼女に言いつけられた薬が、刻一刻と完成に近づいていました。もちろん、正規の方法で。
まぁ、作業時間としては遅い方だけど「新米ですからぁ」と言えば、誤魔化せるに違いないわ。
そんな楽天的な考えを巡らしながら、ネリスは師匠の帰りを万全の態勢で待っています。
ギィ~ッ。
正面玄関の扉が、威圧感のある音をたてながら開きました。それは調合室のネリスの耳にも届きます。やがて階段を上るコツコツという足音が近づいて来て、調合室の前で止まりました。
ネリスの胸は、期待と不安でいっぱいです。誰も来ないはずの薬工場へやって来るのは、師匠のコリスに決まっています。ネリスは自らの隠ぺい工作に自信を持ってはいたものの、やはり心のどこかで師匠に見破られるかも知れないと思っていたのでした。
調合室のドアが、静かに開きます。
「あ、おかえりなさい師匠。早かったですね」
果たしてネリスの前に現れたのは、予想通りコリスでした。
「ただいま、ネリス」
にこやかにほほ笑みながら、コリスがネリスの方へ歩み寄りました。
「どうでした、魔女会議は? ま、私が聞いてもわかんない話でしょうけれど」
ネリスは実際のところ魔女会議などには興味がなかったのですが、出来るだけ薬の話から遠い話題を出しました。無意識の内に、心がそうさせたのでしょうね。
「へぇ、珍しい。あなたが魔女会議に興味を示すなんて……。それはそうと、頼んでおいた薬は、ちゃんと出来ているのでしょうね?」
「えぇ、勿論ですとも師匠。ほら、そっちを見て下さい。一人で薬を作るのは初めてだったんで少し手間取りましたが、もうすぐ完成です」
コリスは、ネリスの答えをいぶかりました。だっていつもなら、手ぶり身振りを駆使したオーバーアクションで、自分の功績を自慢するのがネリスです。でも今の一言は、かなり控え目でしたよね。ネリスらしくないんです。それは先ほどコリスが知った事実と合わせて、ダメ押しとなりました。
「まぁ。一人で大丈夫かしらと思ったけど、ちゃんと立派にやり遂げたみたいね。偉いわネリス」
コリスは、弟子の仕事を褒めたたえます。でも、目はちっとも笑っていません。
そんな事にも気づかずに、ネリスは、
「いやぁ、それ程でもないですよ。師匠のご指導の賜物です」
と、いつもは使わないような、歯の浮くようなセリフを並べ立てました。そして心の中では、ペロッと舌を出します。”しめしめ、師匠は何も気づいていないようだわ”ってね。
どうやったのか、あれだけ器具の残骸で散らかっていた部屋を何とか元通りに見えるようにし、ホクホクと悦に入っている新米魔女ネリス。これで、いつコリスが戻って来ても安心です。ちなみに机の上では彼女に言いつけられた薬が、刻一刻と完成に近づいていました。もちろん、正規の方法で。
まぁ、作業時間としては遅い方だけど「新米ですからぁ」と言えば、誤魔化せるに違いないわ。
そんな楽天的な考えを巡らしながら、ネリスは師匠の帰りを万全の態勢で待っています。
ギィ~ッ。
正面玄関の扉が、威圧感のある音をたてながら開きました。それは調合室のネリスの耳にも届きます。やがて階段を上るコツコツという足音が近づいて来て、調合室の前で止まりました。
ネリスの胸は、期待と不安でいっぱいです。誰も来ないはずの薬工場へやって来るのは、師匠のコリスに決まっています。ネリスは自らの隠ぺい工作に自信を持ってはいたものの、やはり心のどこかで師匠に見破られるかも知れないと思っていたのでした。
調合室のドアが、静かに開きます。
「あ、おかえりなさい師匠。早かったですね」
果たしてネリスの前に現れたのは、予想通りコリスでした。
「ただいま、ネリス」
にこやかにほほ笑みながら、コリスがネリスの方へ歩み寄りました。
「どうでした、魔女会議は? ま、私が聞いてもわかんない話でしょうけれど」
ネリスは実際のところ魔女会議などには興味がなかったのですが、出来るだけ薬の話から遠い話題を出しました。無意識の内に、心がそうさせたのでしょうね。
「へぇ、珍しい。あなたが魔女会議に興味を示すなんて……。それはそうと、頼んでおいた薬は、ちゃんと出来ているのでしょうね?」
「えぇ、勿論ですとも師匠。ほら、そっちを見て下さい。一人で薬を作るのは初めてだったんで少し手間取りましたが、もうすぐ完成です」
コリスは、ネリスの答えをいぶかりました。だっていつもなら、手ぶり身振りを駆使したオーバーアクションで、自分の功績を自慢するのがネリスです。でも今の一言は、かなり控え目でしたよね。ネリスらしくないんです。それは先ほどコリスが知った事実と合わせて、ダメ押しとなりました。
「まぁ。一人で大丈夫かしらと思ったけど、ちゃんと立派にやり遂げたみたいね。偉いわネリス」
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そんな事にも気づかずに、ネリスは、
「いやぁ、それ程でもないですよ。師匠のご指導の賜物です」
と、いつもは使わないような、歯の浮くようなセリフを並べ立てました。そして心の中では、ペロッと舌を出します。”しめしめ、師匠は何も気づいていないようだわ”ってね。
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