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魔女の薬 (10) コリスの悪い予感

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「だから、パパ!」

ついに、ママが怒りだしました。

皆さんには、もうどういう事かわかりましたよね。

ママはパパの事は覚えていますが、ニールが自分の子供である事を忘れています。そしてパパは、ニールが自分の子供である事は覚えていますが、ママが自分の奥さんである事を忘れています。一方で、ニールはママの事もパパの事も覚えています。

「だから、ママ!」

「だから、ニール!」

「だから、パパ!」

ニールとパパとママは、三人そろってかみ合わない会話を続けました。言い合いでお腹がへって、取りあえずは昼食を食べようとパパが提案するまでは。


「あぁ、心配だわ。心配、心配。あの子、ちゃんとやっているかしら」

魔女会議を終え、コリスが町へ戻って来ました。中央通りにある時計台は、既に午後三時をまわっています。

新米魔女ネリスの師匠であり、この町の薬工場の責任者、最高位の魔女コリスは本当に心配でたまりませんでした。大切な魔女会議の内容も、ロクロク頭に入らないほどに心は上の空だったのです。

「こんな事なら、いっそネリスを家に帰して、工場のカギを閉めきってしまうんだったわ」

コリスの予感は、とても当たるのです。良くない予感は特にです。そんなコリスの目に、町のあちらこちらでのざわめく様子が映り出しました。

「何の騒ぎかしら……」

特大の嫌な予感を携えて、其処ここで事情を聞いて回るコリス。彼女は町の人に大変慕われていましたので、彼らは口々に、すすんでトラブルの内容を話しました。

概要は、何となくだけど分かったわ。町の大多数の人が影響を受けているとなると、これは病気の感染か、呪いの類か、あとは……薬物汚染!

そう言えば僅かにですが、薬の残り香がします。コリスは最高位の魔女だけあって、こういう”鼻”も利くのです。彼女は悪い予感で爆発しそうな心をなだめながら、急いで薬工場へと向かいました。

コリスは薬工場の大きな門扉の脇についている勝手口を開け、少し離れている正面玄関へと急行します。彼女の心の中では、ネリスを信じたい気持ちと、絶対何かやらかしたという気持ちが何度も入れ替わっていました。

「あら?」

気のはやるコリスでしたが、またしてもふと、気になる臭いが彼女の鼻孔をくすぐりました。先ほど、町で嗅いだのと同じ臭いです。それは玄関から少し離れているゴミの廃棄棟の方から漂っているようです。コリスの魔女としての勘が”あそこには、きっと何か重要な物がある”とささやきました。

自分の心を信じたコリスが廃棄棟へ行き、少し空いている扉を開けてみると……。
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