ヴォルノースの森の なんてことない毎日

藻ノかたり

文字の大きさ
上 下
37 / 215

パパの魔法 (11) やっとこさ我が家へ

しおりを挟む
大目玉を食らうかと思っていたパパは一安心。

実はニールのパパ、人との巡り合いには大変に恵まれた人なんです。ママと出会えたのは、その最たるものですね。今回も、本当にいい人と出会えたようです。

こうして笑いと共に許されたパパは、ラガフォルと一緒に飛び散った干し草を集めます。もちろん女の子も、子供ながらに手伝いました。ただ小猫だけが、すまなそうな顔をして、道路の脇にちょこんと座っています。

片付けが終った頃には、辺りは既に薄暗くなっていました。パパが最後にもう一度お詫びをすると「気にするな。縁があったら、また会おう」とニコニコしながら、ラガフォルは荷馬車に乗って去っていきました。

じゃぁ、僕も我が家へ帰ろうかな。

そう思ったパパの目に、猫を抱いた女の子の姿が映りました。

あぁ、そうか。こんなに暗くなってから、この子を放って帰るわけにはいかないよな。

「ねぇ、君。君はどこの家の……」

と、パパが女の子に尋ねようとした時です。薄暗闇の向こうから、何やら人の名前を呼ぶ声が聞こえてきました。

「あ、お母さんだ!」

女の子が、嬉しそうに叫びます。娘の帰りが遅いので、母親が探しに来たのでしょう。

あぁ、良かった。面倒な事にならなくて。気の小さいパパは、心の底からホッとしました。

もし、どこの誰かもわからない女の子の家を探していたら、帰りがいつになるかなんてわかりません。そうすると今度は、ママに大目玉を食らってしまいます。

「じゃぁね、お嬢ちゃん。それから小猫ちゃんも」

パパは女の子に小さく手を振り、その場を離れます。木の陰に隠れ、女の子がお母さんと合流した事を確認してから、パパは自転車に乗ってその場を後にしました。

さぁ、急げや急げ!

パパはペダルに力を込めます。既に予定の時間よりも、大幅に遅れているのは間違いないからでした。自転車のライトが照らす砂利道を、パパは我が家へとひた走ります。

それからどれくらいの時間が経ったでしょうか。パパはやっとこさ、可愛いお家の前へたどり着いたのでした。

「あぁ、”あれ”は、明日にするか」

といって、屋根裏部屋の窓の方をチラリと見あげてから、パパは玄関のドアを開けました。

「ただいま」

パパは恐る恐る、家族に帰ったよと挨拶をします。

「あら、今日は、ずいぶんと遅かったじゃない」

早速、ママの取り調べが始まりました。

「う、うん。全部の仕事が少しずづ押しちゃってさぁ」

上着を脱ぎながら、パパは少し引きつった声で答えます。本当の事を言ったら、絶対にお小言を食らうと思ったからです。パパの行為は傍から見れば素晴らしいものなのですが、まかり間違えば大怪我をするところだったのです。ママから見れば、トンデモナイ話だと言わざるを得ません。

「ふ~ん……」

ママの目がちょっとだけ細くなり、ジロジロとパパを見回します。

「じゃ、じゃぁシャワーを浴びて来るね」

パパは自分でもドギマギしていると思いながら、急いで仕事の汗を流しに行きました。その後もパパは、寝るまでずっとママの顔色をうかがいます。でもそれからは何も言われなかったので、安心してベッドに入りました。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

冤罪だと誰も信じてくれず追い詰められた僕、濡れ衣が明るみになったけど今更仲直りなんてできない

一本橋
恋愛
女子の体操着を盗んだという身に覚えのない罪を着せられ、僕は皆の信頼を失った。 クラスメイトからは日常的に罵倒を浴びせられ、向けられるのは蔑みの目。 さらに、信じていた初恋だった女友達でさえ僕を見限った。 両親からは拒絶され、姉からもいないものと扱われる日々。 ……だが、転機は訪れる。冤罪だった事が明かになったのだ。 それを機に、今まで僕を蔑ろに扱った人達から次々と謝罪の声が。 皆は僕と関係を戻したいみたいだけど、今更仲直りなんてできない。 ※小説家になろう、カクヨムと同時に投稿しています。

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました

ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

千年王国 魔王再臨

yahimoti
ファンタジー
ロストヒストリーワールド ファーストバージョンの世界の魔王に転生した。いきなり勇者に討伐された。 1000年後に復活はした。 でも集めた魔核の欠片が少なかったせいでなんかちっちゃい。 3人の人化した魔物お姉ちゃんに育てられ、平穏に暮らしたいのになぜか勇者に懐かれちゃう。 まずいよー。 魔王ってバレたらまた討伐されちゃうよー。

【完結】悪役令嬢は3歳?〜断罪されていたのは、幼女でした〜

白崎りか
恋愛
魔法学園の卒業式に招かれた保護者達は、突然、王太子の始めた蛮行に驚愕した。 舞台上で、大柄な男子生徒が幼い子供を押さえつけているのだ。 王太子は、それを見下ろし、子供に向って婚約破棄を告げた。 「ヒナコのノートを汚したな!」 「ちがうもん。ミア、お絵かきしてただけだもん!」 小説家になろう様でも投稿しています。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

【完結】精霊に選ばれなかった私は…

まりぃべる
ファンタジー
ここダロックフェイ国では、5歳になると精霊の森へ行く。精霊に選んでもらえれば、将来有望だ。 しかし、キャロル=マフェソン辺境伯爵令嬢は、精霊に選んでもらえなかった。 選ばれた者は、王立学院で将来国の為になるべく通う。 選ばれなかった者は、教会の学校で一般教養を学ぶ。 貴族なら、より高い地位を狙うのがステータスであるが…? ☆世界観は、緩いですのでそこのところご理解のうえ、お読み下さるとありがたいです。

処理中です...