ヴォルノースの森の なんてことない毎日

藻ノかたり

文字の大きさ
37 / 218

パパの魔法 (11) やっとこさ我が家へ

しおりを挟む
大目玉を食らうかと思っていたパパは一安心。

実はニールのパパ、人との巡り合いには大変に恵まれた人なんです。ママと出会えたのは、その最たるものですね。今回も、本当にいい人と出会えたようです。

こうして笑いと共に許されたパパは、ラガフォルと一緒に飛び散った干し草を集めます。もちろん女の子も、子供ながらに手伝いました。ただ小猫だけが、すまなそうな顔をして、道路の脇にちょこんと座っています。

片付けが終った頃には、辺りは既に薄暗くなっていました。パパが最後にもう一度お詫びをすると「気にするな。縁があったら、また会おう」とニコニコしながら、ラガフォルは荷馬車に乗って去っていきました。

じゃぁ、僕も我が家へ帰ろうかな。

そう思ったパパの目に、猫を抱いた女の子の姿が映りました。

あぁ、そうか。こんなに暗くなってから、この子を放って帰るわけにはいかないよな。

「ねぇ、君。君はどこの家の……」

と、パパが女の子に尋ねようとした時です。薄暗闇の向こうから、何やら人の名前を呼ぶ声が聞こえてきました。

「あ、お母さんだ!」

女の子が、嬉しそうに叫びます。娘の帰りが遅いので、母親が探しに来たのでしょう。

あぁ、良かった。面倒な事にならなくて。気の小さいパパは、心の底からホッとしました。

もし、どこの誰かもわからない女の子の家を探していたら、帰りがいつになるかなんてわかりません。そうすると今度は、ママに大目玉を食らってしまいます。

「じゃぁね、お嬢ちゃん。それから小猫ちゃんも」

パパは女の子に小さく手を振り、その場を離れます。木の陰に隠れ、女の子がお母さんと合流した事を確認してから、パパは自転車に乗ってその場を後にしました。

さぁ、急げや急げ!

パパはペダルに力を込めます。既に予定の時間よりも、大幅に遅れているのは間違いないからでした。自転車のライトが照らす砂利道を、パパは我が家へとひた走ります。

それからどれくらいの時間が経ったでしょうか。パパはやっとこさ、可愛いお家の前へたどり着いたのでした。

「あぁ、”あれ”は、明日にするか」

といって、屋根裏部屋の窓の方をチラリと見あげてから、パパは玄関のドアを開けました。

「ただいま」

パパは恐る恐る、家族に帰ったよと挨拶をします。

「あら、今日は、ずいぶんと遅かったじゃない」

早速、ママの取り調べが始まりました。

「う、うん。全部の仕事が少しずづ押しちゃってさぁ」

上着を脱ぎながら、パパは少し引きつった声で答えます。本当の事を言ったら、絶対にお小言を食らうと思ったからです。パパの行為は傍から見れば素晴らしいものなのですが、まかり間違えば大怪我をするところだったのです。ママから見れば、トンデモナイ話だと言わざるを得ません。

「ふ~ん……」

ママの目がちょっとだけ細くなり、ジロジロとパパを見回します。

「じゃ、じゃぁシャワーを浴びて来るね」

パパは自分でもドギマギしていると思いながら、急いで仕事の汗を流しに行きました。その後もパパは、寝るまでずっとママの顔色をうかがいます。でもそれからは何も言われなかったので、安心してベッドに入りました。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める

遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】 猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。 そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。 まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。

転生貴族の領地経営〜現代日本の知識で異世界を豊かにする

ファンタジー
ローラシア王国の北のエルラント辺境伯家には天才的な少年、リーゼンしかしその少年は現代日本から転生してきた転生者だった。 リーゼンが洗礼をしたさい、圧倒的な量の加護やスキルが与えられた。その力を見込んだ父の辺境伯は12歳のリーゼンを辺境伯家の領地の北を治める代官とした。 これはそんなリーゼンが異世界の領地を経営し、豊かにしていく物語である。

屑スキルが覚醒したら追放されたので、手伝い屋を営みながら、のんびりしてたのに~なんか色々たいへんです(完結)

わたなべ ゆたか
ファンタジー
タムール大陸の南よりにあるインムナーマ王国。王都タイミョンの軍事訓練場で、ランド・コールは軍に入るための最終試験に挑む。対戦相手は、《ダブルスキル》の異名を持つゴガルン。 対するランドの持つ《スキル》は、左手から棘が一本出るだけのもの。 剣技だけならゴガルン以上を自負するランドだったが、ゴガルンの《スキル》である〈筋力増強〉と〈遠当て〉に翻弄されてしまう。敗北する寸前にランドの《スキル》が真の力を発揮し、ゴガルンに勝つことができた。だが、それが原因で、ランドは王都を追い出されてしまった。移住した村で、〝手伝い屋〟として、のんびりとした生活を送っていた。だが、村に来た領地の騎士団に所属する騎馬が、ランドの生活が一変する切っ掛けとなる――。チート系スキル持ちの主人公のファンタジーです。楽しんで頂けたら、幸いです。 よろしくお願いします! (7/15追記  一晩でお気に入りが一気に増えておりました。24Hポイントが2683! ありがとうございます!  (9/9追記  三部の一章-6、ルビ修正しました。スイマセン (11/13追記 一章-7 神様の名前修正しました。 追記 異能(イレギュラー)タグを追加しました。これで検索しやすくなるかな……。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

【完結】異世界で魔道具チートでのんびり商売生活

シマセイ
ファンタジー
大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!

酒好きおじさんの異世界酒造スローライフ

天野 恵
ファンタジー
酒井健一(51歳)は大の酒好きで、酒類マスターの称号を持ち世界各国を飛び回っていたほどの実力だった。 ある日、深酒して帰宅途中に事故に遭い、気がついたら異世界に転生していた。転移した際に一つの“スキル”を授かった。 そのスキルというのは【酒聖(しゅせい)】という名のスキル。 よくわからないスキルのせいで見捨てられてしまう。 そんな時、修道院シスターのアリアと出会う。 こうして、2人は異世界で仲間と出会い、お酒作りや飲み歩きスローライフが始まる。

処理中です...