ヴォルノースの森の なんてことない毎日

藻ノかたり

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パパの魔法 (9) パパ、大ピンチ!

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「それからね。お願いがあるんだ。君は、あの小猫ちゃんを励ましておくれ。精一杯、元気づけておくれ。出来る?」

パパが女の子にそう尋ねると、彼女は黙って、でも力強くうなずきました。

女の子の返事に元気づけられるように、パパはいつもの呪文を唱え、空へと駆け上がっていきます。辺りが暗くなってきた分、足元の光の輪はいっそう美しく輝いて見えました。

だけど、パパの動きが少し変です。小猫の正面からではなく、かなり横のルートを駆け上ります。これでは魔力の無駄遣いです。いったい、何を考えているのでしょうか。

やがてパパは、小猫のいる枝と同じくらいの高さに到達します。下では女の子が約束通り、一生懸命小猫に声を掛けておりました。

今だ!

パパは小猫に向かって、猛然とダッシュします。

「ニャッ?」

ただならぬ気配を感じ取った小猫は、異様な勢いで”何か”が飛んでくる方を見ましたが、時すでに遅し。その小さな体はパパの伸ばした右手にしっかりと捕らえられてしまいます。

パパの作戦は、図にあたりました。

もし小猫の正面から近づいていたら、猫は警戒をしてパパに捕まらないよう抵抗したでしょう。下手をすれば、足を踏み外して落下してしまうかも知れません。それにパパとしても、猫を捕まえるのに時間をかけるわけには行きませんでした。その間に、魔力が切れてしまう恐れがあったからです。

上手くやるには、小猫に悟られずに近づく必要がありました。女の子に猫を励ますように言ったのも、猫がパパに気がつくのを少しでも遅らせるためでした。

パパの戦略は、半分成功しました。あとは、地上へ無事に舞い戻るだけです。パパは、全速力で地上へ向かって駆け出します。

あぁ、でも何という事!

パパがまだかなり高いところにいる内に、パパの魔法はガス欠を起こしたのです。両脚の下に光る黄緑の輪は、急激にその輝きを失い始めました。

「まずい!!」

パパは、それを声に出して言いました。このままでは地上へ降りる前に魔法が切れてしまい、パパと小猫は地面に激突してしまいます。死ぬ事はないにしても、大怪我をするのは間違いないでしょう。

芝生の上で待つ女の子も、何か様子がおかしいと気がついて、いてもたってもいられません。

でもパパは、落ち着き払って……とは、とても言えませんが「プランB」に移行しました。下まで魔力が持たなかった場合の作戦です。

パパは向きを変え、出来るだけ大股で、そして全速力で道路の方へと向かいます。そうしている内にも黄緑の光の輪は、どんどん暗くなっていき、今にも消え入りそうでした。

パパは最後の魔力を振り絞ります。すると光の輪は、一瞬だけ元の力強さを取り戻しました。その機を逃さず、パパは道路のある一点を目指して空中を強く蹴ります。

次の瞬間、足元の光の輪は完全に消え失せ、パパと小猫は重力に引かれるまま、地面へ激しい勢いで落ちていきました。
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