ヴォルノースの森の なんてことない毎日

藻ノかたり

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癒しの剣 (13) シュプリンの疑問

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「さぁ、皆の者、反逆者どもを殲滅せよ!」

王の号令の元、いっせいに家臣たちは行動に移ります。レリドウ侯爵の領地に潜む軍勢や、呼応しようとしていた貴族たちはことごとく捕らえられ、みな密かに処刑されました。ただ、レリドウ侯爵については、病死と発表されました。

なぜかって? そりゃぁ、反逆者が出たなんて言ったら、それだけで世の中は動揺するし、何より侯爵は庶民の人気者でした。それは表向きの顔だったわけですが、全く無視するわけにもいきません。侯爵を処刑したとわかったら、庶民は王様に反感を抱くかも知れません。

そういった事態をさけるには、こうするのが一番のやり方でした。嘘も方便というやつですね。また、元々、彼がしていた仮病の演技の為、疑う者は誰もいません。

甦りの儀式の日、王様は満面の笑みを浮かべ、本物の癒しの剣を心臓へと突き立てます。これでまたしばらくの間、王国では平穏な日々が続く事でしょう。



「でもその王様、結構エグイ事しますよねぇ。そもそも確証がつかめたから処刑したわけでしょ? だったら芝居めいたやり方をしなくても、単に秘密裏に捕まえて処理したって同じじゃないですか。

むしろ、その方が普通だと思いますけどね」

シュプリンが、やれやれというジェスチャーをします。

「まぁ、そういう時代だったんじゃよ。それに如何に人望がある王とはいえ、所詮はニンゲンじゃ。胸の奥にドス黒い部分はあるさ」

パーパスはステーキをすっかり平らげて、後はデザートを待つばかりとなりました。

「そうそう、二つばかり疑問があります」

ステーキ皿を下げながら、シュプリンが尋ねます。

「何じゃ、二つもか? 贅沢な奴じゃ」

パーパスが、文句を言いました。

「そんな事を言うと、デザートはお預けですよ。ルートベリーを使った、特製アイスクリームなんですけどね」

シュプリンが、ニヤリとしながら伝えます。

ルートベリーとは形が苺に似た青い果物で、パーパスの大好物でした。彼の顔がサッと変わります。

「ワシを脅迫する気か? まぁ、いい。何が知りたいんじゃ?」

デザートの魅力には打ち勝てない大魔法使いが、渋々カラクリ人形の要求に応じます。

「素直でよろしい。 まずはですね、ホンドレックの身の上ですが、パーパスさまが護衛官に化けていたって事は、まさか本当に命を奪ったりしてないでしょうね?」

シュプリンが、意地悪そうに尋ねます。
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