ヴォルノースの森の なんてことない毎日

藻ノかたり

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癒しの剣 (8) 企み

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実はレリドウ侯爵の邸宅にも、大盗賊ガッテン・ボロッツは仕事に入っており、かなりの金銀財宝を盗まれていたのでした。でも、それを公にする事なんて出来ません。なぜならば、そうしてしまえば「あいつは悪党だから、ガッテン・ボロッツに盗みに入られたんだ」と、世間で噂になるに決まっているからです。

……ところで、みなさん。多分、レリドウ侯爵の”企み”が何なのか、気になっていると思います。

気になっていますよね?

それでは彼に変わって、大いなる企みの全貌をざっとご説明いたしましょう。

このお話の最初の方で、当時の王様の権力は盤石なものではなく、われこそは次の王と欲する者が、虎視眈々とその座を狙っているとお話ししました。

実はこのレリドウ侯爵こそ、その最たる人物だったのです。え? とっくに、わかっていたですって? そりゃ、失礼。

で、彼の作戦は次の通りです。

まずは、癒しの剣の精巧な偽物を作る。そして本物と偽物を密かにすり替えておき「甦りの儀式」の際、王様が偽物を使うように仕向ける。

一方、自分は甦りの儀式の数日前に領地へと引き上げる。疑われないように、あらかじめ体の調子が悪い演技をして、周りにアピールをしておく。

さぁ、何が起こるか、もうおわかりですね?

偽物とも知らず、剣を心臓に突き立てた憐れな王様は、神のみもとへ旅立つ事とあいなります。そしてその機に乗じ、領地で人知れず軍勢を整えていたレリドウ侯爵が、王都を目指して進軍する手はずなのです。また彼の決起を合図に、かねてより密約を交わしていた各地の豪族もそれに呼応します。

「完璧、完璧だ。この企てが失敗するなどあり得ない。そうだろう?」

勝利を確信し、王座に就いた自分を想像しながら、侯爵は傍らに立っている護衛官に声をかけました。これ以上ないというほどの、嫌らしい笑顔です。

「仰せの通りでございます。侯爵閣下」

厳つい護衛官が、厳つい顔つきのまま答えました。

数日後、ホンドレックから癒しの剣の偽物が完成したとの知らせが入りました。レリドウ侯爵は喜び勇んで地下深くの作業場へと急ぎます。これで計画は準備万端整ったからでした。
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