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癒しの剣 (4) 意外な訪問者
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「で、進み具合はどうだね?」
侯爵は、重ねて職人に声をかけました。
「はい、もう完成間近です。あとは装飾の仕上げをするのみとなります」
職人は身を半分ずらして、手塩にかけたその”剣”を侯爵に披露します。
侯爵は身を乗り出しながら、
「おぉ、これは素晴らしい。この剣は”本物”と寸分たがわぬ出来となろう。盗賊も間違いなく騙されるに違いない」
と、侯爵は銀色のあごひげを撫でつけ、満足そうに言いました。
「この仕事をお前に頼む際に言った通り、この剣がヴォルノースの森の運命を左右するだろう。最後まで気を抜かずに頼んだぞ」
侯爵は鍛冶屋の肩に手を置き、穏やかながら力強く語りかけます。鍛冶屋は感動に打ち震え、涙さえも見せました。というのもこの時代、侯爵と一介の鍛冶屋の間には、それこそ神さまと虫ケラほどの差があったんです。今のヴォルノースでは、考えられないお話ですね。
侯爵が作業場を出て行くと、鍛冶屋は再び剣づくりに没頭します。そして、この名誉ある仕事を頼まれた時の事を思い出します。
この鍛冶屋、名をホンドレックと言いますが、稀有な腕前とは裏腹に人付き合いは大変苦手で、世捨て人のように森の奥で一人暮らしておりました。
彼は、
「俺も鍛冶屋として身をたてからには、何か世の為になる一世一代の仕事がしてみたいなぁ」
と、考えていましたが、こんな森の奥で暮らしていては、その望みが叶う日など来るはずもないと諦めておりました。森の深淵で生活しているのは同じなのに、お気楽な大魔法使いパーパスとはえらい違いですね。
ホンドレックが昼食を取り終え、午後の仕事にとりかかろうとした時、彼の住まいする粗末な森小屋のドアをノックする音が、木々の間に木霊しました。
はて? 一体誰だろう。こんな所に来るような物好きな奴は。
疑問に思ったホンドレックですが、冗談めかして
「どなたか知らんが、ドアは空いているよ。あ、それからな、ここには盗る物なんぞ一つもないぞ。世捨て人の鍛冶職人が住む、侘しい森小屋だ」
と、扉の向こうにいる誰かに言いました。
「邪魔をする」
野太い声がしたかと思うと、如何にも護衛官という格好をした髭面の男が扉を開き、
「突然の事で驚くとは思うが、こちらはレリドウ侯爵閣下だ。名前くらいは知っておろう。お前に大切な話があるそうだ」
と、テーブルでコーヒーのカップを持ったまま、あぜんとしている偏屈な鍛冶屋を睨みつけました。
侯爵は、重ねて職人に声をかけました。
「はい、もう完成間近です。あとは装飾の仕上げをするのみとなります」
職人は身を半分ずらして、手塩にかけたその”剣”を侯爵に披露します。
侯爵は身を乗り出しながら、
「おぉ、これは素晴らしい。この剣は”本物”と寸分たがわぬ出来となろう。盗賊も間違いなく騙されるに違いない」
と、侯爵は銀色のあごひげを撫でつけ、満足そうに言いました。
「この仕事をお前に頼む際に言った通り、この剣がヴォルノースの森の運命を左右するだろう。最後まで気を抜かずに頼んだぞ」
侯爵は鍛冶屋の肩に手を置き、穏やかながら力強く語りかけます。鍛冶屋は感動に打ち震え、涙さえも見せました。というのもこの時代、侯爵と一介の鍛冶屋の間には、それこそ神さまと虫ケラほどの差があったんです。今のヴォルノースでは、考えられないお話ですね。
侯爵が作業場を出て行くと、鍛冶屋は再び剣づくりに没頭します。そして、この名誉ある仕事を頼まれた時の事を思い出します。
この鍛冶屋、名をホンドレックと言いますが、稀有な腕前とは裏腹に人付き合いは大変苦手で、世捨て人のように森の奥で一人暮らしておりました。
彼は、
「俺も鍛冶屋として身をたてからには、何か世の為になる一世一代の仕事がしてみたいなぁ」
と、考えていましたが、こんな森の奥で暮らしていては、その望みが叶う日など来るはずもないと諦めておりました。森の深淵で生活しているのは同じなのに、お気楽な大魔法使いパーパスとはえらい違いですね。
ホンドレックが昼食を取り終え、午後の仕事にとりかかろうとした時、彼の住まいする粗末な森小屋のドアをノックする音が、木々の間に木霊しました。
はて? 一体誰だろう。こんな所に来るような物好きな奴は。
疑問に思ったホンドレックですが、冗談めかして
「どなたか知らんが、ドアは空いているよ。あ、それからな、ここには盗る物なんぞ一つもないぞ。世捨て人の鍛冶職人が住む、侘しい森小屋だ」
と、扉の向こうにいる誰かに言いました。
「邪魔をする」
野太い声がしたかと思うと、如何にも護衛官という格好をした髭面の男が扉を開き、
「突然の事で驚くとは思うが、こちらはレリドウ侯爵閣下だ。名前くらいは知っておろう。お前に大切な話があるそうだ」
と、テーブルでコーヒーのカップを持ったまま、あぜんとしている偏屈な鍛冶屋を睨みつけました。
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