騎士をやめて機能付加職人になったけど、妹が厳しすぎて困ります 【第一部 ホントウ】

藻ノかたり

文字の大きさ
上 下
150 / 153

救世主の帰還

しおりを挟む
ところ変わって、ここはネッドの自宅。

居間でシャミー、メル、アリシアがくつろいでいた。

「あ~、ほんと疲れたわね」

メルが、ドーナツを頬張る。

「でも、あの連中、あそこに放置しておいて良かったの?」

こちらは、クッキーをほっぺたに含んだシャミー。つい先ほどまで、悪党一味の人質になっていたとは思えない立ち直りぶりだ。

「大丈夫ですわよ。全員、私が念入りに、イバラの戒めを施しておきましたから」

アリシアが、紅茶をすする。これで三杯目である。

「あぁ、トゲトゲのついたロープね。でもあれって、かなりエゲツないわよね」

シャミーが”おぉ、ヤダヤダ”と言わんばかりに、自分の体を抱きしめた。

「でしょ? 私も、そう言ったのよ」

いとこ同士が、共鳴する。

「エゲツないって、あなた方……」

アリシアが反論しようとした時、玄関ドアが開く音がした。

「お兄ちゃんが、帰って来たのかしら」

兄が助けに来てくれなかったのを、未だに根に持っていたシャミーが手ぐすねを引く。

「よぉ、三人娘、お揃いだな」

ネッドを肩に担いだリュランが現れた。

「ちょっと、ネッド大丈夫なの?」

まずアリシアが、帰宅した主に駆け寄る。残る二人もそれに続いた。

「あぁ、大丈夫だ。かなり疲れているけど、命に別状はない」

リュランはとりあえず、眠っているネッドをソファーに寝かせる。

「……もしかして”あれ”が出ちゃったの?」

シャミーが、心配そうにリュランに尋ねた。

「あぁ。だけど、ちゃんと戻って来てくれたよ」

リュランが、横になったネッドの肩に手をかける。アリシアも、安堵の表情を見せた。

「ちょっと、えぇっと……リュラン・ホーネットさんですよね、王都から来た。これは、どういう事なんですか? ネッドは、何で気を失ってるです? それに”あれ”って……」

一人だけ事情を知らないメルが、不満そうに尋ねる。

「メル・ライザー。申し訳ないが、俺の口からは話せない」

リュランが、メルと目を合わせた。

「話せないって、何で? 私はネッドの従姉で、ギルドの第三主幹よ。親戚であり、冒険者としてのネッドを管理する立場の私に、話せないってどういう事? シャミー、アリシア、あなた達だって……」

二人に助けを求めるが、彼女たちは視線をそらし黙して語らない。

「ちょっと!」

メルが、思わず語気を強めた。

「あんたを信用して、少しだけ話す。もちろん、これは一切他言無用だ」

リュランは、メルと向き合った。

「ここに居るあんた以外の者とネッドは、凄く大きな秘密を共有している。魔界の住人であるアリシアは別として、他は秘密がばれれば反逆罪として死刑だってあり得る身だ。

だからネッドを差しおいて、俺の口からそれをあんたに言うわけにはいかない」

メルがシャミーとアリシアに目をうつすと、彼女達は、それまでとは打って変わった真剣な表情でメルを見つめる。

部屋は、重苦しい空気で包まれた。

「……わかったわ、今は帰る」

”反逆罪”、”死刑”と聞いて、それでも腰が引けたわけではないと言ったらウソになる。だが、それを彼らに問いただせば、きっとネッドに迷惑をかける事になるだろう。そう思ったメルは、素直にその場を後にした。

「さてと、じゃぁ、救世主様をベッドまでお運びするか」

テーブルにあるお菓子を二つ三つ頬張ったリュランは、ネッドを再び担いで二階の寝室へと向かう。アリシアも、それを手伝った。

居間に一人残り、階段の上を見つめるシャミー。

「ゆっくり休んで、お兄ちゃん」

彼女が、静かに呟いた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

スキルを得られない特殊体質の少年。祠を直したらユニークスキルもらえた(なんで??)

屯神 焔
ファンタジー
 魔法が存在し、魔物が跋扈し、人々が剣を磨き戦う世界、『ミリオン』  この世界では自身の強さ、もしくは弱さを知られる『ステータス』が存在する。  そして、どんな人でも、亜人でも、動物でも、魔物でも、生まれつきスキルを授かる。  それは、平凡か希少か、1つか2つ以上か、そういった差はあれ不変の理だ。  しかし、この物語の主人公、ギル・フィオネットは、スキルを授からなかった。  正確には、どんなスキルも得られない体質だったのだ。  そんな彼は、田舎の小さな村で生まれ暮らしていた。  スキルを得られない体質の彼を、村は温かく迎え・・・はしなかった。  迫害はしなかったが、かといって歓迎もしなかった。  父親は彼の体質を知るや否や雲隠れし、母は長年の無理がたたり病気で亡くなった。  一人残された彼は、安い賃金で雑用をこなし、その日暮らしを続けていた。  そんな彼の唯一の日課は、村のはずれにある古びた小さな祠の掃除である。  毎日毎日、少しずつ、汚れをふき取り、欠けてしまった所を何とか直した。  そんなある日。  『ありがとう。君のおかげで私はここに取り残されずに済んだ。これは、せめてものお礼だ。君の好きなようにしてくれてかまわない。本当に、今までありがとう。』  「・・・・・・え?」  祠に宿っていた、太古の時代を支配していた古代龍が、感謝の言葉と祠とともに消えていった。  「祠が消えた?」  彼は、朝起きたばかりで寝ぼけていたため、最後の「ありがとう」しか聞こえていなかった。  「ま、いっか。」  この日から、彼の生活は一変する。

絶対に間違えないから

mahiro
恋愛
あれは事故だった。 けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。 だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。 何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。 どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。 私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

勇者じゃないと追放された最強職【なんでも屋】は、スキル【DIY】で異世界を無双します

華音 楓
ファンタジー
旧題:re:birth 〜勇者じゃないと追放された最強職【何でも屋】は、異世界でチートスキル【DIY】で無双します~ 「役立たずの貴様は、この城から出ていけ!」  国王から殺気を含んだ声で告げられた海人は頷く他なかった。  ある日、異世界に魔王討伐の為に主人公「石立海人」(いしだてかいと)は、勇者として召喚された。  その際に、判明したスキルは、誰にも理解されない【DIY】と【なんでも屋】という隠れ最強職であった。  だが、勇者職を有していなかった主人公は、誰にも理解されることなく勇者ではないという理由で王族を含む全ての城関係者から露骨な侮蔑を受ける事になる。  城に滞在したままでは、命の危険性があった海人は、城から半ば追放される形で王城から追放されることになる。 僅かな金銭で追放された海人は、生活費用を稼ぐ為に冒険者として登録し、生きていくことを余儀なくされた。  この物語は、多くの仲間と出会い、ダンジョンを攻略し、成りあがっていくストーリーである。

家族はチート級、私は加護持ち末っ子です!

咲良
ファンタジー
前世の記憶を持っているこの国のお姫様、アクアマリン。 家族はチート級に強いのに… 私は魔力ゼロ!?  今年で五歳。能力鑑定の日が来た。期待もせずに鑑定用の水晶に触れて見ると、神の愛し子+神の加護!?  優しい優しい家族は褒めてくれて… 国民も喜んでくれて… なんだかんだで楽しい生活を過ごしてます! もふもふなお友達と溺愛チート家族の日常?物語

処理中です...