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四十年前の真実(3)
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その時、マリオンの中で何かが壊れた。
なんでこんな奴の為に、僕が死ななきゃならないんだ。コイツは、貴族の息子だというだけで、俺たちを虫ケラのように踏みつぶそうとしている。そんなの許せない。絶対に許せない!
マリオンの頭の中で、様々な人々や様々な思いが交錯した。それは瞬時に悪魔の考えへと昇華していく。
彼はバッグから、スリーピングスライムのアイテムを取り出した。
「おい、何をグズグズしているんだ。早く行かないか! 僕は、本気だぞ!」
マリオンは、なおも泣き叫ぶドラゼルの胸ぐらをいきなり掴んだ。
「何だ、逆らうのか。いいのか? 死刑だぞ死刑!」
一瞬、戸惑ったものの、更にヒートアップするドラゼル。
「うるさいぞ、クソ野郎!少しは黙ってろ!!」
マリオンの、子供ながらに怒りに満ちた声がドス黒く響いた。
「な……」
マリオンの殺気だった目を見たドラゼルが言葉を失う。侯爵の息子としてチヤホヤされ続けて来た経験しかない彼にとって、これは恐らく初めての体験だったのだろう。自分に対する純粋な憎悪と敵意。お坊ちゃんは、どう行動して良いのかわからなかった。
マリオンは眠りのアイテムを、ドラゼルに向け噴射する。
「は……、ふぁ!」
スリーピングスライムのガスを吸ったドラゼルは、何が起こっているのかさえ分からぬまま、深い眠りについた。
「もう、後戻りできない。俺にとって、今が生きるか死ぬかの瀬戸際なんだ」
マリオンは自分に言い聞かせ、次々と心の中に描かれる企てを反芻する。
彼はまず、眠っているドラゼルを岩と地面の間の隙間に押し込んだ。これでゾラウルフにはもちろんの事、近くを通りかかった者がいたとしてもすぐに見つかる事はないだろう。
マリオンは次に自分の家へ向かって、全速力で走り出す。ただ、誰かに見られては計画は破綻する。彼は裏道を使い、茂みの木々の枝に肌を傷つけられながらも先を急いだ。
ゾラウルフ、俺が帰るまで消えてくれるなよ!
連中が去ってしまったら、全てが終わりだ。マリオンは、人生の中で今最高に強く祈り続ける。
まだ、着かないのか?
生まれてこのかた、家までの道のりをこれほど遠く感じた事はない。マリオンは、心臓が破裂しそうな感覚を覚えながらひたすら走った。
企てが成功する、もう一つの条件。それは父親が家にいない事である。ただ運命のいたずらというべきか、マリオンの父親は職人の寄りあいに参加するべく朝から出かけており、まだこの時間であれば帰宅していないはずであった。
肌寒い季節とはいえ、マリオンは全身汗まみれになってようやく我が家へと辿り着く。思った通り、父親はまだ帰って来ていない。だが、ノンビリしてはいらない。
様々な幸運が重ならなければ、運命は変えられないのだ。それどころか、一つでもしくじれば自らの身はもちろん、父親や、この街すら命を失くするだろう。
マリオンは物置に駆け込み、必死である物を探した。それは”ミミックの面”である。祖父の代には劇団の得意先から注文が来ており、製造禁止の命が下った後も、その時の在庫が自宅に残っているのを彼は知っていた。時にはこっそりと持ち出して、アルベルトと一緒に遊んだりもしていたので、使い方も知っている。
彼は数ある面の中から、劇団の子供用に作られた小型の面を手に取った。
「後は……、早駆けの靴だ」
マリオンは、修行を兼ねて自分用に作った早駆けの靴を取り出した。そして大急ぎで踵を返そうとする。その時である。玄関の方で何か物音が聞こえたような気がした。
父さんが帰るには、幾ら何でもまだ早い。だがこの家には、親子二人きりで住んでいる。じゃぁ、泥棒? たとえそうであっても、いま俺の姿を見られるわけには行かない。
マリオンは音の正体を確かめる間もなく、急いで裏口から飛び出した。そして一目散に、元いた場所目指して駆け出していく。彼には、後ろを振り返る余裕などなかった。いや、その勇気がなかった。
そのほんの数十秒前、マリオンの父親であるガナレットは、自宅の玄関ドアに手をかける。寄りあいで使う資料を忘れてしまい、それを取りに戻って来たのだった。
「あれ? ドアが開いている……。閉め忘れたかな」
会合の時間が迫っていた事もあり、彼は深く考えずに引き出しから忘れ物を取り出した。その時、家の奥の方で、何か物音が聞こえた気がする。
なんだ? マリオンはとっくの昔に若様のところへ出かけたし、泥棒か? こんな貧乏職人の家に?
ガナレットは売り物の剣を持ち出して、音のした方へと慎重に近づいた。だがそこには誰もおらず、気のせいであったかと安心する。そして何の気なしに見た窓の外。茂みがワサワサと揺れており、その向こうに何か黒い影が去って行くのが見えた。
何だろう、あれは……。
なんでこんな奴の為に、僕が死ななきゃならないんだ。コイツは、貴族の息子だというだけで、俺たちを虫ケラのように踏みつぶそうとしている。そんなの許せない。絶対に許せない!
マリオンの頭の中で、様々な人々や様々な思いが交錯した。それは瞬時に悪魔の考えへと昇華していく。
彼はバッグから、スリーピングスライムのアイテムを取り出した。
「おい、何をグズグズしているんだ。早く行かないか! 僕は、本気だぞ!」
マリオンは、なおも泣き叫ぶドラゼルの胸ぐらをいきなり掴んだ。
「何だ、逆らうのか。いいのか? 死刑だぞ死刑!」
一瞬、戸惑ったものの、更にヒートアップするドラゼル。
「うるさいぞ、クソ野郎!少しは黙ってろ!!」
マリオンの、子供ながらに怒りに満ちた声がドス黒く響いた。
「な……」
マリオンの殺気だった目を見たドラゼルが言葉を失う。侯爵の息子としてチヤホヤされ続けて来た経験しかない彼にとって、これは恐らく初めての体験だったのだろう。自分に対する純粋な憎悪と敵意。お坊ちゃんは、どう行動して良いのかわからなかった。
マリオンは眠りのアイテムを、ドラゼルに向け噴射する。
「は……、ふぁ!」
スリーピングスライムのガスを吸ったドラゼルは、何が起こっているのかさえ分からぬまま、深い眠りについた。
「もう、後戻りできない。俺にとって、今が生きるか死ぬかの瀬戸際なんだ」
マリオンは自分に言い聞かせ、次々と心の中に描かれる企てを反芻する。
彼はまず、眠っているドラゼルを岩と地面の間の隙間に押し込んだ。これでゾラウルフにはもちろんの事、近くを通りかかった者がいたとしてもすぐに見つかる事はないだろう。
マリオンは次に自分の家へ向かって、全速力で走り出す。ただ、誰かに見られては計画は破綻する。彼は裏道を使い、茂みの木々の枝に肌を傷つけられながらも先を急いだ。
ゾラウルフ、俺が帰るまで消えてくれるなよ!
連中が去ってしまったら、全てが終わりだ。マリオンは、人生の中で今最高に強く祈り続ける。
まだ、着かないのか?
生まれてこのかた、家までの道のりをこれほど遠く感じた事はない。マリオンは、心臓が破裂しそうな感覚を覚えながらひたすら走った。
企てが成功する、もう一つの条件。それは父親が家にいない事である。ただ運命のいたずらというべきか、マリオンの父親は職人の寄りあいに参加するべく朝から出かけており、まだこの時間であれば帰宅していないはずであった。
肌寒い季節とはいえ、マリオンは全身汗まみれになってようやく我が家へと辿り着く。思った通り、父親はまだ帰って来ていない。だが、ノンビリしてはいらない。
様々な幸運が重ならなければ、運命は変えられないのだ。それどころか、一つでもしくじれば自らの身はもちろん、父親や、この街すら命を失くするだろう。
マリオンは物置に駆け込み、必死である物を探した。それは”ミミックの面”である。祖父の代には劇団の得意先から注文が来ており、製造禁止の命が下った後も、その時の在庫が自宅に残っているのを彼は知っていた。時にはこっそりと持ち出して、アルベルトと一緒に遊んだりもしていたので、使い方も知っている。
彼は数ある面の中から、劇団の子供用に作られた小型の面を手に取った。
「後は……、早駆けの靴だ」
マリオンは、修行を兼ねて自分用に作った早駆けの靴を取り出した。そして大急ぎで踵を返そうとする。その時である。玄関の方で何か物音が聞こえたような気がした。
父さんが帰るには、幾ら何でもまだ早い。だがこの家には、親子二人きりで住んでいる。じゃぁ、泥棒? たとえそうであっても、いま俺の姿を見られるわけには行かない。
マリオンは音の正体を確かめる間もなく、急いで裏口から飛び出した。そして一目散に、元いた場所目指して駆け出していく。彼には、後ろを振り返る余裕などなかった。いや、その勇気がなかった。
そのほんの数十秒前、マリオンの父親であるガナレットは、自宅の玄関ドアに手をかける。寄りあいで使う資料を忘れてしまい、それを取りに戻って来たのだった。
「あれ? ドアが開いている……。閉め忘れたかな」
会合の時間が迫っていた事もあり、彼は深く考えずに引き出しから忘れ物を取り出した。その時、家の奥の方で、何か物音が聞こえた気がする。
なんだ? マリオンはとっくの昔に若様のところへ出かけたし、泥棒か? こんな貧乏職人の家に?
ガナレットは売り物の剣を持ち出して、音のした方へと慎重に近づいた。だがそこには誰もおらず、気のせいであったかと安心する。そして何の気なしに見た窓の外。茂みがワサワサと揺れており、その向こうに何か黒い影が去って行くのが見えた。
何だろう、あれは……。
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