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魔人誕生の秘密
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「私がこの国を変えるため、革命を企てているのは話したね。あぁ、ネッド君には、まだだったかな。それにおいて重要なのは、やはり武力という事になる。だが、この国の諜報省は優秀でねぇ。人知れず軍備や人員を整えるなんて、まず不可能だ。そこで目をつけたのが、魔物だったんだよ。モンスターを兵隊にしようなんて、誰も考えないだろうからね」
ネッドにとって、革命の話は初耳である。だが、さもありなんという思いがネッドにはあった。
「最初はどうにかして魔物を調教しようと思ったんだが、それは徒労に終わった。ホーネット君の言うように、魔物を進化させようとも試みた。でも、時間と労力の無駄だったよ。
そこで、発想の転換だ。魔物に知性を求めるのではなく、既に知性のある人間を魔物に出来ないかってね。最初は、人間に魔石を練り込んでみたのだが、それは上手くいかなかった。たとえば魔石で人間の腕力をアップさせようとすると、力自体は付くものの、体がパワーについてこれず、すぐに崩壊してしまう。それじゃぁ、ダメだ」
ゴワドンは、流れるように話を続ける。
「そこで魂石に目をつけたんだよ。人間の知性と魔物の肉体の合体だよ。でも人間と魔物は、全く違う生き物だ。融合においては、拒否反応が凄くてね。魂石を練り込んだ途端、半獣半人になってすぐに死んでしまうんだ。
ところがね。ある時、実験は成功した。それは、ゾラウルフの魂石を使った狼の魔人だった。私は、歓喜したね。だけど、すぐ壁にぶつかってしまったんだ。その後は、幾らやっても失敗の連続。狼の魔人誕生は、単なる偶然だったのかと悩んだね。ところがある日、再び成功したんだ。それが、虫の魔人さ」
「おい、って事は、お前はおぞましい人体実験をくり返し、多くの命を奪って来たわけか」
リュランが、怒りの眼差しでゴワドンを睨む。
「そうなるね。だが実験に使ったのは、どうしようもない犯罪者ばかりだよ。理想社会の実現に役立つのだから、彼らも本望だろう。
えぇと、何処まで話したかな。あぁ、そうそう。そこで私は、狼と虫の魔人の間に何か共通点がないかと考えたんだ。あったんだよ。それは強烈な怒りと憎しみ、そして力への渇望だ。彼らは幼いころから恵まれない境遇の中にいて、国や社会に強い憎しみと、そこから脱却するための力を望んでたんだ。
これが、カギだったわけさ。魔物の体をねじ伏せ支配する強力な心。それがあれば、人は魔人になれる。
言うまでもなく魔人の力は強大だから、少数精鋭の部隊だって夢じゃない。しかも、不幸を背負っている名もない庶民の方が、魔人候補に向いているから、諜報省に嗅ぎ付けられる心配だって少ない。国は、そういう弱者には無関心だからね。
理想的な計画だろう?」
自分の演説に酔いしれる、得意満面の深紅の騎士。その異常さに、ネッドとリュランは戦慄を覚えた。
「だが、問題が起きてね。さっき話したように、魔人の一人、これは狼の魔人なんだが、自分の力に溺れてしまい、夜な夜な殺人を重ねるようになってしまったんだよ。それが、リルゴットの森で起きた惨殺事件さ」
「いや、ちょっと待て、それだと矛盾があるぞ。アスティは前に、ガドッツとボッゾル兄弟に拉致されて、ネッドを誘い込む道具にされた。炎の魔人の力があれば、そんな目にあう事はなかったんじゃないのか」
リュランが、疑問を差し挟む。
「それは単純な理由だよ。狼の魔人の一件以来、彼らには私か、ミミックの面を使って私のフリをした人物の命令がなくては魔人に変身できない様に仕様を変更したんだ」
ゴワドンが、こともなげに言う。
「だけど、炎の魔人はガドッツ兄弟を焼き殺したじゃないか!」
リュランが、更に追及をする。
「あれは、私が命じたんだよ。素晴らしい成果を出してくれた、アスティ君への褒美という事でね。彼は友達の前で恥をかかされた事を大層悩んでいたから、彼らに思い切り復讐するお膳立てをしたんだ」
アスティの肩が、心なしか震えている。それは、怒りに任せた自らの所業を悔いているようにも見えた。
「革命なんて、成功するとでも思ってるんですか。アスティのような犠牲者まで出して!」
ネッドが、強く抗議をする。
「あぁ、思っているよ。君だって知ってるだろう。この国は一歩裏通りに入れば、どうしようもない理不尽に苦しんでいる人々は腐るほどいる。さっきも言ったように、彼らは有望な魔人候補なんだよ。
それにね。アスティ君は私の誘いに自分から乗って来たんだ。知っているかい? 彼のご両親は機能付加職人ゆえ、大変な苦労をして、それが元で早くに亡くなってしまった事を。
アスティ君の差別への怒り、憎しみ。親を失った悲しみは、ある意味純粋で群を抜いていたんだよ。その心は魔物の心を抑え込むだけではなく、魔人としての力にも比例すると分かったんだ。だから、ネッド君が味わった炎の魔人の強さは、彼の怒りそのものなんだよ!」
深紅の騎士による、自画自賛の演説が終わった。
「ネッド、本当にごめん。ボクが炎の魔人として君と出会った時、君は大きなゴーグルをしていたり、何故か全然別の人の顔をしていたんで、君とはわからなかったんだ。今、初めてあれが、君だったって気が付いたんだ。ウソじゃない……!」
ゴワドンの講釈が終るのを待っていたかのように、アスティが話し出す。
「わかっているさ。わかってる。僕の方こそ、ごめん。君の家を訪ねた時、無理にでもドアを開けさせていたら、きっとこんな事にはならなかった。
君が炎の魔人だって、認めるのが怖かったんだ」
確かにあの時、ネッドがアスティと直に会っていたら、二人の運命は変わっていたかも知れない。ネッドは、自分の心の弱さを悔やんだ。
「さぁ、そちらの話も終わったようだし、実験を最終段階へ移行する事にしようか」
ゴワドンは、何かを取り出した。
ネッドにとって、革命の話は初耳である。だが、さもありなんという思いがネッドにはあった。
「最初はどうにかして魔物を調教しようと思ったんだが、それは徒労に終わった。ホーネット君の言うように、魔物を進化させようとも試みた。でも、時間と労力の無駄だったよ。
そこで、発想の転換だ。魔物に知性を求めるのではなく、既に知性のある人間を魔物に出来ないかってね。最初は、人間に魔石を練り込んでみたのだが、それは上手くいかなかった。たとえば魔石で人間の腕力をアップさせようとすると、力自体は付くものの、体がパワーについてこれず、すぐに崩壊してしまう。それじゃぁ、ダメだ」
ゴワドンは、流れるように話を続ける。
「そこで魂石に目をつけたんだよ。人間の知性と魔物の肉体の合体だよ。でも人間と魔物は、全く違う生き物だ。融合においては、拒否反応が凄くてね。魂石を練り込んだ途端、半獣半人になってすぐに死んでしまうんだ。
ところがね。ある時、実験は成功した。それは、ゾラウルフの魂石を使った狼の魔人だった。私は、歓喜したね。だけど、すぐ壁にぶつかってしまったんだ。その後は、幾らやっても失敗の連続。狼の魔人誕生は、単なる偶然だったのかと悩んだね。ところがある日、再び成功したんだ。それが、虫の魔人さ」
「おい、って事は、お前はおぞましい人体実験をくり返し、多くの命を奪って来たわけか」
リュランが、怒りの眼差しでゴワドンを睨む。
「そうなるね。だが実験に使ったのは、どうしようもない犯罪者ばかりだよ。理想社会の実現に役立つのだから、彼らも本望だろう。
えぇと、何処まで話したかな。あぁ、そうそう。そこで私は、狼と虫の魔人の間に何か共通点がないかと考えたんだ。あったんだよ。それは強烈な怒りと憎しみ、そして力への渇望だ。彼らは幼いころから恵まれない境遇の中にいて、国や社会に強い憎しみと、そこから脱却するための力を望んでたんだ。
これが、カギだったわけさ。魔物の体をねじ伏せ支配する強力な心。それがあれば、人は魔人になれる。
言うまでもなく魔人の力は強大だから、少数精鋭の部隊だって夢じゃない。しかも、不幸を背負っている名もない庶民の方が、魔人候補に向いているから、諜報省に嗅ぎ付けられる心配だって少ない。国は、そういう弱者には無関心だからね。
理想的な計画だろう?」
自分の演説に酔いしれる、得意満面の深紅の騎士。その異常さに、ネッドとリュランは戦慄を覚えた。
「だが、問題が起きてね。さっき話したように、魔人の一人、これは狼の魔人なんだが、自分の力に溺れてしまい、夜な夜な殺人を重ねるようになってしまったんだよ。それが、リルゴットの森で起きた惨殺事件さ」
「いや、ちょっと待て、それだと矛盾があるぞ。アスティは前に、ガドッツとボッゾル兄弟に拉致されて、ネッドを誘い込む道具にされた。炎の魔人の力があれば、そんな目にあう事はなかったんじゃないのか」
リュランが、疑問を差し挟む。
「それは単純な理由だよ。狼の魔人の一件以来、彼らには私か、ミミックの面を使って私のフリをした人物の命令がなくては魔人に変身できない様に仕様を変更したんだ」
ゴワドンが、こともなげに言う。
「だけど、炎の魔人はガドッツ兄弟を焼き殺したじゃないか!」
リュランが、更に追及をする。
「あれは、私が命じたんだよ。素晴らしい成果を出してくれた、アスティ君への褒美という事でね。彼は友達の前で恥をかかされた事を大層悩んでいたから、彼らに思い切り復讐するお膳立てをしたんだ」
アスティの肩が、心なしか震えている。それは、怒りに任せた自らの所業を悔いているようにも見えた。
「革命なんて、成功するとでも思ってるんですか。アスティのような犠牲者まで出して!」
ネッドが、強く抗議をする。
「あぁ、思っているよ。君だって知ってるだろう。この国は一歩裏通りに入れば、どうしようもない理不尽に苦しんでいる人々は腐るほどいる。さっきも言ったように、彼らは有望な魔人候補なんだよ。
それにね。アスティ君は私の誘いに自分から乗って来たんだ。知っているかい? 彼のご両親は機能付加職人ゆえ、大変な苦労をして、それが元で早くに亡くなってしまった事を。
アスティ君の差別への怒り、憎しみ。親を失った悲しみは、ある意味純粋で群を抜いていたんだよ。その心は魔物の心を抑え込むだけではなく、魔人としての力にも比例すると分かったんだ。だから、ネッド君が味わった炎の魔人の強さは、彼の怒りそのものなんだよ!」
深紅の騎士による、自画自賛の演説が終わった。
「ネッド、本当にごめん。ボクが炎の魔人として君と出会った時、君は大きなゴーグルをしていたり、何故か全然別の人の顔をしていたんで、君とはわからなかったんだ。今、初めてあれが、君だったって気が付いたんだ。ウソじゃない……!」
ゴワドンの講釈が終るのを待っていたかのように、アスティが話し出す。
「わかっているさ。わかってる。僕の方こそ、ごめん。君の家を訪ねた時、無理にでもドアを開けさせていたら、きっとこんな事にはならなかった。
君が炎の魔人だって、認めるのが怖かったんだ」
確かにあの時、ネッドがアスティと直に会っていたら、二人の運命は変わっていたかも知れない。ネッドは、自分の心の弱さを悔やんだ。
「さぁ、そちらの話も終わったようだし、実験を最終段階へ移行する事にしようか」
ゴワドンは、何かを取り出した。
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