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最後の戦い
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「んじゃ、俺はゴワドンの方を叩く。お前は炎の魔人をやれ」
ネッドは”いきなり、それかよ”とは思ったものの、自分が両手に異なる剣を携えているのを目にしたリュランが、炎の魔人対策だと嗅ぎ取ったのだろうと、忌々しい指示を受け入れる。
リュランが苦戦した原因は、深紅の騎士と炎の魔人の連携ゆえだ。ゴワドン単独との戦闘時は、リュランが有利だった事を考えれば、これはむしろ当然の判断であろう。
「あんたの相手は、この俺だ」
がぜん有利になったリュランは、意気揚々と深紅の騎士に向かっていく。主の危機とばかりに炎の魔人が加勢に入ろうとするが、ネッドがそれを許さない。魔人はネッドを前に躊躇する心を振り切り、パワーアップした両腕の炎帯を振り回して敵を威嚇した。
その燃え盛る帯の長さが、自分の知っている二倍以上に延びているのにいささか驚くネッド。しかし、これまで異様な戦いの連続だった事を考えれば想定内だと自分に言い聞かせた。これが恐らく最後の戦いとなるだろう。負ければ、命はない。びびっている場合ではないのである。
ネッドは今回、盾を使わない。氷の盾は一時的に攻撃をしのげるだけだし、水の盾はもう通用しないと分かっている。彼は積極的に倒しに行かねば、炎の魔人には勝てないと悟ったのだった。
そして携える二振りの剣。一振りは前回も使用した、ソードクーガーの魂石を練り込んだもの。使用回数に制限はあるものの、金属ををいとも簡単に斬り裂く代物だ。そしてもう一振りが今回の目玉。水の剣に変わる魔人対策アイテムである。
ネッドは、その使いどころを慎重に探る。
炎の魔人も迂闊には近づけない。前の対戦では倒される寸前にまで追い込まれたのだ。ネッドが用いた奇抜な戦法のトラウマが、魔人を躊躇させても無理はない。
持ってきた機能付加アイテムが、計算通りの働きをすれば必ず勝てる。不安要素は炎の魔人が深紅の騎士と連携する事だったけど、今、奴はリュランにかかりきりになっている。こいつと二人で戦えるとは、思いがけない幸運が巡って来たものだ。ネッドは、友との勝利を確信する。
「炎の魔人、何をしとるか。 敵を倒せ!」
リュランと剣を打ちあう深紅の騎士が魔人に檄を飛ばした。サラマンダーもどきは全身をビクッと震わせる。絶対服従の主の命と、それに抗う何かが、魔人の中で交錯した。
「その者を倒さねば、貴様の望みは叶わぬぞ!」
その言葉がダメ押しとなり、炎の魔人は意を決し、倒さねばならぬ相手に襲い掛かる。
「お前の間合いでは戦わないよ」
ネッドは早駆けの靴をフルに使い、後へステップをする。魔人との距離を取る作戦だ。炎の魔人の最大の攻撃法は、全身を発火させ、恐ろしいまでの高温の炎を噴き出す事である。その熱は金属ですら、容易に溶かしてしまうだろう。
だがその炎といえど、離れてしまえば害はない。腕から伸びる炎帯も思いもかけず強化されてはいたが、それとて距離を取れば問題ない。どれだけ破壊力があろうと、当たらなければどうという事はないのである。
一方、リュラン対ゴワドン戦。リュランは分身を縦横無尽に舞い踊らせ、急テンポで深紅の騎士を追い詰めていった。
「くそっ、魔人は何をやってるんだ」
炎の魔人の動きにフラストレーションを感じたゴワドンは、怒りの矛先をそちらへと向ける。
「おい、おい。魔人の心配をしている場合じゃないぞ。お前の方が、奴より先に地べたへ這いつくばるんじゃないのか?」
先ほどは、散々痛めつけられたリュランが、意趣返しとばかりに容赦ない猛攻を加え続ける。
「ふっ。さっきまでは閣下と呼んでいたくせに、今は”お前”か。酷いもんだな」
ゴワドンが、軽口をたたく。
「そりゃぁ、お前が既に反逆者だとわかったからだよ、罪人閣下!」
皮肉を口にするリュランだったが、彼はかすかな不安を覚えていた。
戦いそのものは、俺の方が圧倒的に有利だ。しかし、こいつからは焦りが感じられない。単に心を気取られないタイプなのか、それとも……。
ネッドは”いきなり、それかよ”とは思ったものの、自分が両手に異なる剣を携えているのを目にしたリュランが、炎の魔人対策だと嗅ぎ取ったのだろうと、忌々しい指示を受け入れる。
リュランが苦戦した原因は、深紅の騎士と炎の魔人の連携ゆえだ。ゴワドン単独との戦闘時は、リュランが有利だった事を考えれば、これはむしろ当然の判断であろう。
「あんたの相手は、この俺だ」
がぜん有利になったリュランは、意気揚々と深紅の騎士に向かっていく。主の危機とばかりに炎の魔人が加勢に入ろうとするが、ネッドがそれを許さない。魔人はネッドを前に躊躇する心を振り切り、パワーアップした両腕の炎帯を振り回して敵を威嚇した。
その燃え盛る帯の長さが、自分の知っている二倍以上に延びているのにいささか驚くネッド。しかし、これまで異様な戦いの連続だった事を考えれば想定内だと自分に言い聞かせた。これが恐らく最後の戦いとなるだろう。負ければ、命はない。びびっている場合ではないのである。
ネッドは今回、盾を使わない。氷の盾は一時的に攻撃をしのげるだけだし、水の盾はもう通用しないと分かっている。彼は積極的に倒しに行かねば、炎の魔人には勝てないと悟ったのだった。
そして携える二振りの剣。一振りは前回も使用した、ソードクーガーの魂石を練り込んだもの。使用回数に制限はあるものの、金属ををいとも簡単に斬り裂く代物だ。そしてもう一振りが今回の目玉。水の剣に変わる魔人対策アイテムである。
ネッドは、その使いどころを慎重に探る。
炎の魔人も迂闊には近づけない。前の対戦では倒される寸前にまで追い込まれたのだ。ネッドが用いた奇抜な戦法のトラウマが、魔人を躊躇させても無理はない。
持ってきた機能付加アイテムが、計算通りの働きをすれば必ず勝てる。不安要素は炎の魔人が深紅の騎士と連携する事だったけど、今、奴はリュランにかかりきりになっている。こいつと二人で戦えるとは、思いがけない幸運が巡って来たものだ。ネッドは、友との勝利を確信する。
「炎の魔人、何をしとるか。 敵を倒せ!」
リュランと剣を打ちあう深紅の騎士が魔人に檄を飛ばした。サラマンダーもどきは全身をビクッと震わせる。絶対服従の主の命と、それに抗う何かが、魔人の中で交錯した。
「その者を倒さねば、貴様の望みは叶わぬぞ!」
その言葉がダメ押しとなり、炎の魔人は意を決し、倒さねばならぬ相手に襲い掛かる。
「お前の間合いでは戦わないよ」
ネッドは早駆けの靴をフルに使い、後へステップをする。魔人との距離を取る作戦だ。炎の魔人の最大の攻撃法は、全身を発火させ、恐ろしいまでの高温の炎を噴き出す事である。その熱は金属ですら、容易に溶かしてしまうだろう。
だがその炎といえど、離れてしまえば害はない。腕から伸びる炎帯も思いもかけず強化されてはいたが、それとて距離を取れば問題ない。どれだけ破壊力があろうと、当たらなければどうという事はないのである。
一方、リュラン対ゴワドン戦。リュランは分身を縦横無尽に舞い踊らせ、急テンポで深紅の騎士を追い詰めていった。
「くそっ、魔人は何をやってるんだ」
炎の魔人の動きにフラストレーションを感じたゴワドンは、怒りの矛先をそちらへと向ける。
「おい、おい。魔人の心配をしている場合じゃないぞ。お前の方が、奴より先に地べたへ這いつくばるんじゃないのか?」
先ほどは、散々痛めつけられたリュランが、意趣返しとばかりに容赦ない猛攻を加え続ける。
「ふっ。さっきまでは閣下と呼んでいたくせに、今は”お前”か。酷いもんだな」
ゴワドンが、軽口をたたく。
「そりゃぁ、お前が既に反逆者だとわかったからだよ、罪人閣下!」
皮肉を口にするリュランだったが、彼はかすかな不安を覚えていた。
戦いそのものは、俺の方が圧倒的に有利だ。しかし、こいつからは焦りが感じられない。単に心を気取られないタイプなのか、それとも……。
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