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名コンビ復活
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見ると入り口付近に、あの首領が無様に倒れている。その首根っこを押さえて立ち上がらせたメルは、彼のローブにあるフードをひんむいた。そして仮面に手をかけ、乱暴に外した。
「やっぱり! どうりで、聞き覚えのある声だと思った」
仮面の下には、果たしてゴワドン侯爵の顔があった。
「ちょっと、まって」
アリシアはゴワドンの顔をしげしげと見回したかと思うと、おもむろに彼の顔を右手で思いっ切り掴んだ。
「何やってんの!」
事情が飲み込めず、メルが慌てた声をあげる。
だがアリシアはそんな事などお構いなしに、更に指を顔にめり込ませ、少しずつその手を後ろへと引いていった。
「あぁっ!?」
鳩が豆鉄砲を食らったような顔をするシャミーとメル。
なんと、ゴワドンの顔は男から引きはがされ、その下には別の中年男の顔が現れたのだ。
「ミミックの面ですわ。何か、顔の周りに変な魔力を感じたのよね」
アリシアの言葉に、皆が納得する。メルはもちろんの事、シャミーも子供の頃からこの面の存在は知っていたからである。
「コイツは、ゴワドン侯爵の副官じゃないの」
ギルド館経営者の一人であるメルは、彼の顔を何回か見た記憶があった。この第三主幹が、見苦しく暴れる男に一発食らわし気絶させた後、これで本当に一山こえたとばかりに皆、安堵の声を漏らす。
「ところでさ。何でお兄ちゃんでなくて、あんたちがいるの?」
シャミーは、早くもご機嫌斜めだ。
「色々と、事情があるのよ。話はあとでね」
メルが、諭すように言う。シャミーは、兄が助けに来なかったのが非常に不満のようだ。
「でもまぁ、今回の一番手柄は私よね。逃げようとする首謀者をやっつけたんだから」
先ほどまで人質だったシャミーが腰に手を当て自慢する。なんという、切り替えの早さ。
「何言っていますの、助けられた身で! 一番手柄は、ミミックの面を使う作戦を考えた私ですわよね」
今度はアリシアが、人差し指でシャミーの額をつついた。
「冗談じゃないわ。魔人たちを倒せたのは、私が秘策を授けたからでしょ? 一番手柄は、私に決まってるでしょうが」
メルも、負けてはいない。
それから暫くの間、古びた屋敷は女傑三人のかしましい声で満たされた。
さて、場面はここで、再びリルゴットの森へと切り替わる。
「ネッド君。君が、妹君を見捨てるとは思いもよらなかったよ」
既にその命が風前の灯火であるリュランの横で、ゴワドンが困った顔をした。失望したよ、とでも言いたげである。
「バカッ、何でこっちに来たんだよ。シャミーの方へ、行くのが当然だろうが!」
地べたに突っ伏したままのリュランも、この時ばかりはゴワドンに同調する。
「心配無用。シャミーの方は、僕が心から信頼する仲間たちが助けに行った。絶対に、シャミーを助け出してくれると信じているよ」
ネッドは、一ぺんの迷いもなく言い切った。
「メルとアリシアか!」
リュランの表情が、幾分ゆるんだ。アリシアの実力は勿論だが、諜報活動の一環で、メルの力も把握済みだ。
「アリシア? 私の知らない名だ。ネッド君、君には本当に驚かされる事ばかりだよ」
ゴワドンが、感心する。
「えぇ、アリシアは僕の使い魔で、魔王の娘なんですよ」
「何だって?」
常に余裕を見せていたゴワドンも、さすがに魔王の名を出されては仰天せざるを得なかった。その僅かな心の隙を、リュランは見逃さない。
彼は自分の剣を、自らの喉元に添えられているゴワドンの剣に素早く触れさせた。その瞬間、重力剣の効果でゴワドンの剣は大きく横に跳ね飛ばされる。彼が、しまったと思った時にはもう遅かった。リュランは分身魔法を発動させ、五人の彼が乱舞しながら深紅の騎士から離れて行く。もはや、的確にリュランを攻撃するのは不可能となった。
分身を消し、やっとの思いでネッドの傍らに辿り着いたリュラン。
「おっしゃ! これで勝負は振り出した。二人で、奴らをブッ飛ばそうぜ!」
今泣いたカラスがもう笑った、とまでは言わないが、彼の態度は先ほどまでとは雲泥の差である。リュランにとって、ネッドがどれほど重要な存在かが分かるというものだ。
「なぁ、リュラン。まず”助けに来てくれて、ありがとう”は、ないのかよ」
ネッドが、呆れ顔で悪友の顔を見る。
「お前こそ”遅れて、すまない”は、ないのかよ」
リュランはリュランで、助けに来るのは当然だとばかりに応じた。
「ネッド君、考え直さないか。私は、ホーネット君を亡き者にしなくてはならない。君が彼の味方をするのなら、残念だが共に葬らねばらないよ」
ゴワドンの声はリュランを逃した悔しさから、ネッドを倒さねばならない口惜しさに変わっていた。
「やっぱり! どうりで、聞き覚えのある声だと思った」
仮面の下には、果たしてゴワドン侯爵の顔があった。
「ちょっと、まって」
アリシアはゴワドンの顔をしげしげと見回したかと思うと、おもむろに彼の顔を右手で思いっ切り掴んだ。
「何やってんの!」
事情が飲み込めず、メルが慌てた声をあげる。
だがアリシアはそんな事などお構いなしに、更に指を顔にめり込ませ、少しずつその手を後ろへと引いていった。
「あぁっ!?」
鳩が豆鉄砲を食らったような顔をするシャミーとメル。
なんと、ゴワドンの顔は男から引きはがされ、その下には別の中年男の顔が現れたのだ。
「ミミックの面ですわ。何か、顔の周りに変な魔力を感じたのよね」
アリシアの言葉に、皆が納得する。メルはもちろんの事、シャミーも子供の頃からこの面の存在は知っていたからである。
「コイツは、ゴワドン侯爵の副官じゃないの」
ギルド館経営者の一人であるメルは、彼の顔を何回か見た記憶があった。この第三主幹が、見苦しく暴れる男に一発食らわし気絶させた後、これで本当に一山こえたとばかりに皆、安堵の声を漏らす。
「ところでさ。何でお兄ちゃんでなくて、あんたちがいるの?」
シャミーは、早くもご機嫌斜めだ。
「色々と、事情があるのよ。話はあとでね」
メルが、諭すように言う。シャミーは、兄が助けに来なかったのが非常に不満のようだ。
「でもまぁ、今回の一番手柄は私よね。逃げようとする首謀者をやっつけたんだから」
先ほどまで人質だったシャミーが腰に手を当て自慢する。なんという、切り替えの早さ。
「何言っていますの、助けられた身で! 一番手柄は、ミミックの面を使う作戦を考えた私ですわよね」
今度はアリシアが、人差し指でシャミーの額をつついた。
「冗談じゃないわ。魔人たちを倒せたのは、私が秘策を授けたからでしょ? 一番手柄は、私に決まってるでしょうが」
メルも、負けてはいない。
それから暫くの間、古びた屋敷は女傑三人のかしましい声で満たされた。
さて、場面はここで、再びリルゴットの森へと切り替わる。
「ネッド君。君が、妹君を見捨てるとは思いもよらなかったよ」
既にその命が風前の灯火であるリュランの横で、ゴワドンが困った顔をした。失望したよ、とでも言いたげである。
「バカッ、何でこっちに来たんだよ。シャミーの方へ、行くのが当然だろうが!」
地べたに突っ伏したままのリュランも、この時ばかりはゴワドンに同調する。
「心配無用。シャミーの方は、僕が心から信頼する仲間たちが助けに行った。絶対に、シャミーを助け出してくれると信じているよ」
ネッドは、一ぺんの迷いもなく言い切った。
「メルとアリシアか!」
リュランの表情が、幾分ゆるんだ。アリシアの実力は勿論だが、諜報活動の一環で、メルの力も把握済みだ。
「アリシア? 私の知らない名だ。ネッド君、君には本当に驚かされる事ばかりだよ」
ゴワドンが、感心する。
「えぇ、アリシアは僕の使い魔で、魔王の娘なんですよ」
「何だって?」
常に余裕を見せていたゴワドンも、さすがに魔王の名を出されては仰天せざるを得なかった。その僅かな心の隙を、リュランは見逃さない。
彼は自分の剣を、自らの喉元に添えられているゴワドンの剣に素早く触れさせた。その瞬間、重力剣の効果でゴワドンの剣は大きく横に跳ね飛ばされる。彼が、しまったと思った時にはもう遅かった。リュランは分身魔法を発動させ、五人の彼が乱舞しながら深紅の騎士から離れて行く。もはや、的確にリュランを攻撃するのは不可能となった。
分身を消し、やっとの思いでネッドの傍らに辿り着いたリュラン。
「おっしゃ! これで勝負は振り出した。二人で、奴らをブッ飛ばそうぜ!」
今泣いたカラスがもう笑った、とまでは言わないが、彼の態度は先ほどまでとは雲泥の差である。リュランにとって、ネッドがどれほど重要な存在かが分かるというものだ。
「なぁ、リュラン。まず”助けに来てくれて、ありがとう”は、ないのかよ」
ネッドが、呆れ顔で悪友の顔を見る。
「お前こそ”遅れて、すまない”は、ないのかよ」
リュランはリュランで、助けに来るのは当然だとばかりに応じた。
「ネッド君、考え直さないか。私は、ホーネット君を亡き者にしなくてはならない。君が彼の味方をするのなら、残念だが共に葬らねばらないよ」
ゴワドンの声はリュランを逃した悔しさから、ネッドを倒さねばならない口惜しさに変わっていた。
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