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乱闘

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玄関に到着した彼らは、ドア越しに訪問者へ話しかけた。

「おい、わかっているだろうが、下手な真似をするんじゃないぞ」

片方の男が釘を刺す。

「わかった。妹は無事だろうな」

「今のところはな」

もう一人の男が答えながら、ドアの錠を開けた。

静かにドアが開いていく。だが、すぐさま男たちは仰天した。

「何だ、お前は!?」

彼らが驚いたのも無理はない。何せそいつの顔はまごう事なき男であったが、首から下はどう見ても”女”だったからだ。

「はい、こんにちわ」

皮肉を込めて挨拶をした客人は、目にも止まらぬ速さで二人の男の後ろへ回り込む。そしてジャンプ一番、二人の後頭部に強烈な蹴りを入れた。即座に失神し、倒れる男たち。

「へぇ、これ便利ねぇ」

その男女は、顔面に手を当て自分の顔をはぎ取った。言わずと知れたミミックの面である。ネッドを名指しで呼び出すからには、敵の中に彼の顔を知っている者がいると考えるのが当然だ。それ以外の者が行けば、警戒をして話はうまく進まないだろう。そう思ったメルたちは、ミミックの面でネッドに変装する計略に出たのだった。

作戦の第一段階は成功した。メルは、一味に気取られるよう、屋敷の中をソロリソロリと進む。

「シャミーがいるのは、きっと……」

見当をつけた部屋の前に辿り着いたメルは、ドアの外から密かに中の話を伺った。

「あいつら、何やってんだ。なんかあったのか?」

ネッドを引き連れてやってくるはずの仲間が、いつまでたっても戻ってこない事に彼らは業を煮やす。

「おい、誰か見てこい」

仮面の首領が指図した。

改めて別の二人の男が、部屋のドアへと向かう。だが彼らがノブを回そうとした瞬間、その扉は真っ二つに割れたかと思うと、その木の板は男たちをふっ飛ばし、部屋の中へと暴れ入る。

さっきまでドアだった木片が、部屋にある調度品をなぎ倒すのを呆然と見ていた悪党ども。それでも異変に気付き、ぽっかりと四角い穴の開いた入り口へと目をやった。だが、そこに立っているのはお目当ての男ではなく、剣を携えたハーフエルフの娘であった。

「てめぇ、誰だ! ネッド・ライザーはどうした」

痩せた男が、がなり立てる。

「アホどもに応える義理はないわ」

メルが応えると、また別の男が反射的にシャミーの方へ駆け寄ろうとする。今、何が起こっていようとも、人質を確保すれば自分達の有利に事が運ぶと考えからだ。

だが突然、窓ガラスが割れ、外から角と尻尾を生やした女が飛び込んできた。そして呆気にとられる男たちを尻目に、シャミーの前へと躍り出る。

メルの読みは見事に当たった。屋敷を見回り、明かりがついているのは一部屋だと確認すると、彼女はシャミーの居場所がそこだと確信した。奴らは、ネッドの能力を知っているだろう。だから、もしシャミーを別の部屋へ監禁すれば、忍び込んだネッドが、まんまと妹を救出してしまうかも知れない。

ならば全員でシャミーを囲んだ方が、確実に侵入者の思惑を阻止する事が出来る。きっと彼らはそう考えるだろうと監禁場所を特定し、アリシアと共に奇襲をかける計画を立てたのだ。

「なんだ? こいつ角と尻尾がありやがる。化け物か?」

悪魔を見慣れない一味の一人がわめきたてる。

「はぁ? 化け物とはなによ、化け物とは。あなたの顔の方が、よっぽど化け物ですわ!」

アリシアがナイフを持った手で突き出して、無礼な男を罵倒した。

「ちょっと、なんであんたたちが来るわけよ?お兄ちゃんは、どうしたの!?」

事情を知らないシャミーが、早速文句を言う。

「うるさいですわよ!事情はあと、あと。折角助けに来たんだから、もっと嬉しそうにしなさいよ!」

後から罵詈雑言を吐かれたアリシアは、更に不機嫌になった。

「おい、お前たち、何をしてる。たかが女二人じゃないか。さっさと、たたんでしまえ!」

首領が、声を張り上げる。

皆で一斉に二人へ飛びかかるが、そこらの男どもがどうにか出来る相手ではない。たかが女と侮蔑した二人にコテンパンにのされる悪党一味。

「さぁってと、残るはあんただけよ。その仮面を取って正体を見せなさい」

メルは余裕しゃくしゃくで、ローブを来た首領に近づいていった。

「ちくしょう。使いたくなかったが、仕方がない。アーロン、ドミニク、出て来い!」

首領が声をかけると、隣の部屋から黒い影が二つ飛び出してきた。新手がいたのかと警戒する女傑二人であったが、その異様な存在にシャミー共々小さな悲鳴をあげる。
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